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小林ミナミはどうしても友達が欲しい

作者: 夏本みどり

友達が欲しい……。


そう思ったこの話の主人公、小林ミナミは男子生徒に囲まれていた。


「ミナミ、こんどの日曜日遊びに行こう」

「小林さん、数学教えるよ」

「ミナミちゃん、こっちおいで」

「小林ミナミ!!ここにいたのか!」

「ミナミ先輩っ!また来ちゃいました!」


小林ミナミに好意むき出しの野郎ども。

小林ミナミは入学から2年生に進学した今日に至るまでに、5人の男を魅了してしまったらしい。


しかしミナミはこの状況に不満を抱いている。

高校入学当時、ある目標を立てていたのだ。


「高校で友達を作る。できればたくさん」


ミナミは5人の野郎どもなどどうでも良く、この目標を達成することを念頭に置いてきた。


しかしミナミはモテモテ。学校中の女子には妬まれ距離を置かれていた。漫画でよく見る光景は起こり得るのだ。


ミナミは女子。女子の友達といえばまず女子のほうが作りやすいはずなのだ。だけどもこの状況、ミナミはもう男友達を作るしか手がない。


しかしこの5人の男はミナミが他の男に話しかけると嫉妬して会話を邪魔してくるのだ。迷惑この上ない。


もう『冷静だが根本は馬鹿』と評されるミナミにできることは1つしかなかった。


「ねえ、みんな」


ミナミは野郎どもに話しかけた。


「友達になってよ」





ーー1人目:青木優也ーー


その男は簡単に言うと『幼馴染み』である。


家が隣同士で7歳の頃から仲良くしていたが、中学に上がる際に親の都合で他県に引っ越した。再び親の都合で戻ってきたため高校で再会。

お互い「久しぶりに会えて嬉しい」と喜んだものだ。


「で、友達になるってのは、どういうことかなミナミ」


現在ミナミの部屋。


「そのままの意味だよ。私と楽しくお喋りをしたり、一緒に帰ったり、宿題を見せ合ったり、たまにお出かけするの」

「それは再会してからいつもしてるんだけど…」

「意味合いが違う」


ミナミはマイクを差し出すかのように、シャーペンの消しゴム側を優也に突き出した。


「青木優也くん、あなたが私と喋ったり下校したりお出かけする理由は一体、何でしょう?」

「好きだからです!!」

「正解!マイナス5ポイント!!」

「なんで!?」


しかし確かに優也の精神は5ポイントほど削られた。


「とにかく私は『友達として』優也と仲良くしたいの」

「うーん……」

「優也は私のことが好きなんだよね?」

「うん」

「好きな私からのお願いって聞けないのかな?」

「酷なこと言うなぁ」

「よし、じゃあこうしよう」


ミナミは向かいに座る優也に手を差し伸べ、頭を下げた。


「優也くん、ずっと気になってました!まずは友達から始めましょう!!」


「え……!わ、分かった!なろう、友達!い、いい、いつから気になってたりしたのかな……」

「今日のお昼に焼きそばパンを食べてたあたりから」



「歯の青のりが気になってたのかよ!!」



言質は取った。ミッションクリアである。


そして優也は洗面所へ消えていった。




ーー2人目:片桐拓磨ーー


その男は簡単に言うと『優等生』である。


成績優秀で、勉強を教えるのも上手い。テスト前にはクラス中から頼りにされ、嫌な顔ひとつせずに対応する優しい草食系。

ミナミも苦手な数学でたまにお世話になる。


「片桐君、私と友達になろう」


放課後の教室にて。


「でも、青木君と友達になれたんでしょ?」

「まだ足りないの。できればたくさん友達が欲しいんだ」


しばらく思案顔になる片桐。


「ちょっと聞いて良いかな?」

「どうぞ」

「小林さんと友達になるとどうなるの?」

「私が…」

「小林さんが?」



「私が数学を頑張るようになる」

「よし、友達になろう」



誰よりもミナミの成績を案ずる男、片桐拓磨。




ーー3人目:村岡晴人ーー


その男は簡単に言うと『女好き』である。


明るく染めた頭髪に銀色のピアス、八重歯を覗かせた口元は常時笑っている。誰とでも話せるコミュニケーション能力と広い人脈を併せ持つウェーイ系。

ミナミに惚れてからは女子を侍らせることが減ったらしい。もちろん侍らせていないわけではない。


「ミナミちゃん、友達が欲しいの?」


アット隠れ家系カフェ。


「欲しい。1万人くらい欲しい」

「学校の生徒数知ってる?」

「じゃあ8000人」

「値切ってるんじゃないからね」


晴人はコーヒーを一口飲んだ。


「まあ俺が本気を出せば5000人くらい余裕で集まるんだけどさ」

「晴人君は友達多いよね。羨ましい」

「たまに刺されそうになるけど」

「全部女の子か」

「男だっているよ!」

「それは自慢なの!?」


ミナミはキャラメルマキなんたらを一口飲んだ。


「私は絶対に晴人君を刺さない。だから友達になろう」

「ダメ。だってミナミちゃんは俺の彼女になるんだから」

「彼女になった途端晴人君を刺すことをここに誓います」

「え、マジ?」


ミナミは聖母のような微笑みを浮かべた。


「大丈夫だよ、晴人君には友達が5000人もいるんだから。きっとみんなが守ってくれ……ああ、晴人君の友達も私と一緒に包丁を握ってくれるかもしれないね」


「ミナミちゃんは今から俺のベストフレンドだよ」


晴人は負の連鎖を未然に防いだ。




ーー4人目:高島鳴海ーー


その男は簡単に言うと『生徒会長』である。


圧倒的なリーダーシップで曲者揃いと言われた生徒会をまとめ上げた彼は現在3年生。校則を破った者は地の果てまで追いかけ指導する。

最近設置した目安箱にはミナミを妬んだ女子による投書が相次いでいるらしい。


「小林ミナミ、お前は学校生活に不満でもあるのか」


ここは生徒会室。


「ありありです会長。学校生活には友達が欠かせません」

「友達など無くても良いだろう。学校は学ぶ場所だ」

「友と切磋琢磨しながら学ぶのは大切なことだと思います」

「もう3人ほど友達ができたと聞いた。それだけいれば十分だろう。そもそも私はお前の先輩だ」

「友情に年齢は関係ありません。そして多くの友達を持つということは、多くの人間と触れ合う機会が増えるということです」

「却下だ」


高島は書類に視線を移した。


「会長、友達というのも様々なタイプがあります」

「タイプ?」

「一緒にいて楽しい友達、趣味を共有できる友達、そして……尊敬できる友達。現在私の友達にはこの『尊敬できる友達』がいません。この座には会長がつくべきです」

「む…」

「尊敬に値しない恋人という枠もありますが、どっちが良いですか?」


「そんなの前者に決まっているだろう」

「さすがです会長」


彼が生徒会長に立候補したのは、周りに煽てられたのが原因だとか。




ーー5人目:花田稔ーー


その男は簡単に言うと『甘えん坊』である。


自分の外見の可愛さを誰より理解しており、歳上の女性に可愛がられることが生きがい。計算高いのは確かだが、ふわふわのぬいぐるみが好きなのも本心である。

1年生の彼は、昼休みが始まるとミナミの教室へ猛ダッシュしている。


「先輩、僕も友達作り手伝いますっ!」


今日はファンシーショップに来ている。


「ありがとう、じゃあまず稔君からね」

「……それはヤです」

「頬を膨らませた稔君も可愛いから友達になろう」

「僕が可愛いなら恋人にしてくださいよ」


稔はウサギのぬいぐるみを抱きかかえてむくれている。


「稔君、私はこのクマちゃんを買おうと思う」

「あっそーですか」

「ちなみにこのクマちゃん、カップル用のものもあるんだ」

「お揃いのクマちゃんですよね、先輩と付き合ったら、僕も欲しいなと思ってるんです」


ミナミは棚からカップル用のクマを持ってきた。


「しかしこれ、男は青で女はピンクの毛並みなの。つまり正確なお揃いではない」

「まあ、そうですね」

「じゃあ友達とお揃いにするならどうするのか……そう、全く同じクマちゃんを買うの。友達同士の方が全く同じものを共有できるんだよ。はい、稔君の分」

「先輩とお揃い……」



2人は全く同じクマを購入した。揺るぎない友情の証として。






ーーそれから数ヶ月後ーー



「彼氏が欲しい……」



「ミナミは最近そればっかりだよなぁ」

「小林さん、問題解く手が止まってるよ」

「ミナミちゃん俺と一緒に合コン行く?」

「小林ミナミ、学ぶのに彼氏は不要だろう」

「先輩はもっと可愛さを磨くべきですよ」


小林ミナミに群がる野郎ども。

彼らは小林ミナミの友達である。


無理やり作り上げた友達という関係、しかしそれはいつしか本当の友情となった。


ため息を吐きながら小林ミナミはふと思う。





何かを間違えたんじゃないか、私。





【完】

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