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神も知らないミライの行方   作者: 雨偽ゆら
1章 出会い
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『プロローグ』

「君はまだ自分がニセモノだと気付かないのかなぁ~?」

 楽しそうに、紫の少女は問い掛ける。


 俺が何者か

 ホンモノとは何か

 ニセモノなのか


 ……そんなことは既にわかりきっている。

 俺はもう、心も身体も砕け散っていた。

 むしろ意識が残っているのが不思議なくらいだ。

 暑くも寒くも無い。

 光は何処にも無い。

 何も、感じない。

「ここ、は」

 周囲は霧が霞んでいて、少女の姿しか見ることが出来ない。

 クスクスと、少女はまた笑う。

「さぁ?どこでしょ~かぁ?」

 俺が知る人物と瓜二つな顔立ちだが、それ以上に気になったのは、少女から漏れ出す異質な臭いだ。

 鼻が曲がってしまいそうなほどのソレは、例えるならば『死の香り』だ。

 腐敗し、脆く、崩れ、散り、漂う……主に機能しているのは嗅覚だというのに、何故か様々な現象を感じる……

 気力も体力も、何かに吸いとられるように消えていく。

 少女が再び口を開く。

「君は――」

 雰囲気が、変わっていた。

「死んだ」

 先程までの明るい子供らしさは消え去り、生気を失った姿は、明らかに人ではなく……

 どす黒い邪気が少女の身体から溢れ出し、周囲を覆っていく。

「君は我が家臣により、呪い殺された」

 視界が、ゆっくりと狭まりつつある。

「いや、君の呪縛はもっと前から続いていた?」

 少女はまるで自身の寂しさを埋めていくかのように、世界を黒く塗り潰していく。

 ――ああ、俺はやっぱり生きてはいけなかったんだ

 絶望のあまり、思考までもが闇に呑まれ始めていた。

『……………っ!』

 声が、聴こえた。

 何処からか、俺を呼ぶかのように。

「どうしてあたしの世界まで声が届くのかなぁ~?」

 不機嫌気味な少女の声。

 俺の、失われたはずの身体が熱を帯びる。

『…………が……んで……』

 何も出来ない、無知で、無力で、無価値な俺に、何か伝えようとしている。

 胸が熱く、激しく、鼓動を重ねていく。

 血液が俺の身体を燃やし尽くすかのように巡回し、傷口から噴き出す。

「いた、い……?」

 不思議と、消えかけていた俺の時が戻っていくような感覚。

『……んで、よっ!!』

 血塗れの俺を救いだそうとする声が近付いてくる。

 バラバラに壊れかけていた心が、元の形へと組合わさっていく。

 すっかり俺は、自分自身を取り戻しかけていた。

 ――でも、1つだけ、俺の証は戻っていない。

 コツコツと、乾いた足音が響いた。

 紫の少女は音へと振り返る。

「お客様、なのかなぁ?」

 ……足音が、ピタリと止まった。

「それともぉ――」

 やはり姿を見ることだけは叶わない。

 でもそれでいい。誰が来たところで答えは変わらない。

「俺はここに居る。帰ってくれ……」

 キラリと、一粒の白い光が煌めいた。

 視界が鮮やかに色づき、紫の少女と眩しい光が目に写る。

 少女は光を睨み付けていた。

「私のモノは渡さないよぉ?」

 ――たった一言の警告。

 けれど光の持ち主が臆することはなかった。

「邪魔してええと思うとるん?」

 冷徹な声に、少女は恐怖で身体を震わせた。

「うちに呪いは効かん。知っとるはずやで?」

「くぅっ……」

 少女は悔しげに涙を浮かべながら、跡形もなく消えてしまった。

「ほな、行こか。みんな待っとる」

 そして、光は瞬く間に霧を払い、ようやく俺へ向けられた声を届けてくれる。

『早く戻って来なさいよ!!』

 涙声は、まるで反響していた。

 俺は、俺が誰なのか思い出した。

 ニセモノの存在でもいい。

 俺が俺だと信じられらば、それはもうホンモノだ。


『××っ!!』



 彼女が、俺の名前を呼んでくれるから――

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