続.将軍さまが いない世界で ……
― 小谷城 ―
「く~ひっひっひ~、あ~腹が痛い!」
俺は、報告を聞き大笑いした。
事の起こりは、浅井忍軍を作ろうとしたことに始まる。
甲賀・伊賀を問わず、俺の手足となって働く者を募集した。
(べつに蔑ろにするのではない、選抜メンバーだと思っていただこう。)
そして、上忍の推挙を受けた者、我こそはと名乗りをあげた者達に課題を出したのだ……。
まあ、お題はいろいろだったが。
順風満帆に見える浅井家ではあるが、敵は強大である。
特に今回報告を受けた『毛利家』は、いろいろ厄介である。
博多他の日明交易、瀬戸内海通商、生野の銀山など、さすがに放置はしておけない
『毛利がおとなしい』 と思うのは錯覚である。
『謀略』、『暗殺』、『約定の破棄』、ハッキリ言って毛利は、ゲスである。
将軍の調停を受け、石見の銀山を放棄した尼子を容赦なく追い詰める姿は、かの家康のようである。
「気にくわない」
私の祖母が、尼子氏とつながりがある以上助けねばならないと、早速派遣したのだが……。
伊賀者達は、やってくれた。
『毛利元就死去! 数々の謀殺の報い!!』
これは、まあ想定していた通りの噂の拡散である。
が、
― 特報! ―
『ひひジジイの元就は、狒々だった!』
こいつは傑作である、変装術の技能を無駄遣いして、元就に特殊メイクを施すとは……
さすがの毛利両川も、あまりに突然の出来事に混乱し、口封じをおこなおうと国人衆を手にかけたそうである。
「親族にも、狒々ジジイと、思われていたとはな」
喪を秘すために、密かにおこなわれた葬儀に参加した者達を手にかけたのだ。
「毛利家中は、荒れるかな?」
高い技術を持つ、金森小太郎
変装術に優れている、高羽左兵衛と瀬登八右衛門
猿を使った特異な技術を持つ、下柘植ノ木猿
伊賀国の下忍達、忍者たちの間でも、特にその存在を怖れられた逸材である。
「お前達サイコ~、採用!」
「「「「 はは~つ! 」」」」
かくして浅井長政は、ちゃくちゃくと『浅井忍軍』を創り上げるのであった。
~ ・ ~ ・ ~ ・~ ・ ~ ・ ~
朝倉家の場合
若狭武田氏は偏諱や婚姻などを通じて交流するなど、足利将軍家から格別な信頼を受けていた。 それにより地位を高めていたのである。
朝倉は、それまで幾度となく支援してきた若狭武田家を併合した。
すでに家督は子の元明が継いでいたが、逸見氏・粟屋氏などの反乱はおさまることがなく、若狭武田氏の統治は一向に安定しなかった。
朝倉義景は、足利義昭が越前に下向したのを機に若狭に出兵し、武力で平定した。
武田氏が義秋を手放したことで、すでに幕府の威光などは無くなっていたのだ。
元明は、一乗谷に定住することを促され朝倉氏の保護下に置かれた。
ただ、若狭の救援にたびたび活躍していた敦賀郡司家を差し置いての出来事であり、朝倉本家と敦賀郡司家に溝が出来てしまった。
義秋は、朝倉家の後援を期待して朝倉・加賀一向一揆の和議を取り持とうとしたりした。
しかし両者の長年の対立は深刻であり、部外者の義秋に調停できるものではなかった。
~ ・ ~ ・ ~ ・~ ・ ~ ・ ~
本願寺
本願寺顕如は、苦慮していた。
彼は、本来お坊さんである。
根はすごくいい人なのであるが、巨大宗教の教団の頭という枷が、彼にはかけられていた。
『宗教は、弾圧されてこそ強くなる』という歴史的事実はあるが、宗教家の究極の目標は、『民の心の平穏』である。
目的を見失い布教という手段が俗に落ちた時、どんなに高邁な教えであったとしてもその価値を失う。
一旦、権力を握ってしまうと宗教は堕落する。
『親鸞・蓮如が望んだ世界は、遠い世界の物語である』 そう思っていた。
しかし、現世に浄土まではいかないが、民を慈しむ敬虔な武将が現れた。
それが、長政である。
彼こそが、本当の宗教家(救世主)である。
そう顕如が確信したのは、『誰の信仰も認めそれを咎めない』という姿勢であった。
「長政殿は、仏陀の教えを理解しておられる」
信者とは名ばかりの者達が、おのが欲望のために本願寺を騙る。
「もう、たくさんだ!」
血を吐くような、神経をすり減らす毎日であった。
思えば、曾祖父と父が細川家に欺され衆生の争いに荷担したことから全ては始まった。
三好長慶の父.元長を殺したのは、紛れもなく本願寺である。
顕如は、三好の報復をなによりも怖れていた。
それを見透かすように甲斐の武田家が、婚姻関係を理由に加賀と同盟を打診してきた。
「薄汚い」
蓮如の教えを破り破門された諸悪の元凶、加賀の一揆。
援軍というかたちで、坊官を送りこみようやく首輪を付けることができた。
欲に塗れた者達を、多少統制をする事が出来るようになったかと思ったらコレである。
しょせん、遠国の武田などアテには出来ないというのに……。
「まこと、人間というものは浅ましい」
『南無阿弥陀仏』
―顕如と長政―
「長政殿が、現世に浄土を示すのか?」 そう問うた。
『 ”極楽浄土”は、衆生の心にあるもので けっして現世には存在しません。
ですが、無辜の民が塗炭に苦しむことのない世界を創り上げることが『私の願い』です。
そのために、私欲による争いは避けねばなりません。それは、本願寺も例外ではないのです。
私が苦労して、『浅井家が寺社を保護する代わりに、寺社は無用な兵力は持たないこと』を、
示したのは、各寺院にその覚悟を問うためです…… 』
ああ、御仏に仕える身ではございますが、この”本願寺顕如” 我が主を見付けました……。
『末代無智』
末代無智の、在家止住の男女たらんともがらは、こころをひとつにして、
阿弥陀仏をふかくたのみまいらせて、さらに余のかたへこころをふらず、
一心一向に、仏たすけたまえともうさん衆生をば、たとい罪業は深重なりとも、
かならず弥陀如来はすくいましますべし。
これすなわち第十八の念仏往生の誓願のこころなり。
かくのごとく決定してのうえには、ねてもさめても、いのちのあらんかぎりは、称名念仏すべきものなり。
あなかしこ、あなかしこ。
(長政の部分は、顕如個人の感想です!)
(末代無智は、そのままの記載です。)
御文は勝手に改変できるものでは、ございません。




