『伊賀の仕置き』
みなさ~ん!
『天下をとるのは、この俺だっ!』 ~天下人になろう~
もう、読んでいただけましたでしょうか?
まだの方は、お早めにね。 by.ひさまさ
どうも、”文の1番” 藤堂高虎です。
いえいえ、運が良かっただけですよ。
今回新しく設立された、上級学校に移籍するための試験でたまたま良い成績を収めただけでございます。
他の方々とは違い、私は小谷の人間ですからね。いわば生え抜きであります。
浅井家の一員として学んでいた蓄積がございます。
我が主君.長政公の顔に泥を塗ることもないよう精進して行きたいと思います。
ちなみに、美濃の可児才蔵に”武の1番”を奪われた愛州師匠は、弟子の不覚に大層ご立腹であります。
小谷出身の年長組の者に、特別訓練を施しておられました。
私は、キッチリ”文の1番”を取りましたから……良かったです。
さて、長政さまに命じられたお仕事をいたしましょう、殿もお暇ではございません……。
「与吉、すまんが『佐吉』の居残り任せた」 終わり際に、殿に声をかけていただいた。
「ははっ、お委せください!」 私は勢い込んで答えました。
「内容はこれな」
「ははっ」 おおっ、面白そうでござる。
……というわけで、居残りの担当となりました。
居残りは、まさかの石田殿のご子息でした。
殿が、気にかけ将来を楽しみにしている子です。
「なるほど…愛のムチですね」
「さて、佐吉君」
「なんですか?」
「殿からの課題です。これを今日中に提出しなさい」
「え~」
まあ、この反応も当然でしょう。『伊賀の仕置きについて意見具申』です。
さすがに、無理難題ですね佐吉も頭を抱えています。
殿も存外おひとが悪い。
「ここではやりにくいでしょうから、資料部屋へ行きましょう」
「……」
はあ、佐吉は考え出すと周りが見えない性質ですね、良い集中力ですが・・・
”ゴチン” 私の拳骨が佐吉の頭に落ちました。
「痛い、何するんですかっ」
「避けなさい!」
「そんな、理不尽なぁ~!」
「戦場では何が起こるか判りません『常在戦場』です」
「ボクは、文官に……」
「文官だって戦場視察とか、後方支援をします。 あなた文官を舐めていますか?」
「……ううっ」
「あなたのお父上だって文官的な官僚ではありますが、戦場を避ける臆病者では無いはずです」
「うう……」
「うなっていないで、課題です」
「う…はい」
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
― 佐吉 ―
ああ、初日なのに失敗した。
だいたい、あいつが悪いんだ。
居残りって何をするんだろう? 厠の掃除かな?
「ううっ嫌だな~」
”ガラッ”
あ、あいつだ。
「さて、佐吉君」
「なんですか?」
上から目線でイヤな奴、何が”文の1番”だよ。
「殿からの課題です。これを今日中に提出しなさい」
課題?
なんだろう?
『伊賀の仕置きについて意見具申』って……
「え~」
ナニこれ、わけわかんない。
半兵衛殿みたいに策を練るのかな?
「ここでは……《佐吉は、聞いちゃいない》……へ行きましょう」
「……」
”ゴチン”
「痛い、何するんですかっ」
なんで殴るんだよ~。
「避けなさい!」
「そんな、理不尽なぁ~!」 ムチャ言うなよ。
「戦場では何が起こるか判りません『常在戦場』です」
「ボクは、文官に…(父様みたいに)なりたいんだ…」
「文官だって戦場視察とか、後方支援をします。舐めていますか?」
「……ううっ」 やっぱこいつ苦手。
「あなたのお父上だって文官的な官僚ではありますが、戦場を避ける臆病では無いはずです」
「うう…(父上をだすのは、キタナイよ~)…」
「うなっていないで、課題です」
「う…はい」
『いがの しおきについて』
石田佐吉
お殿様のご威光は、あまねくたんかに轟いております。
必ずや、奴らはひれ伏すでしょう。
いがには、たいした武将は居ません。らくしょうです。
浅井の軍は、日の本一なのです。
あと、夜は”しのび”がいるので、昼間にたたかたほうがいいです。
お弁当が傷まないよう梅干しを入れると良いみたいです、できれば夏場はいくさを辞めときましょう。
「……はあ~佐吉君、キチンと見直しをしましょう」
「え、すごくないですか? (轟って漢字で書けましたよ、車が三つなんです)」
高虎は、”たんか” ”たたかた” を指さす……。
……佐吉の笑顔が凍り付いた。
「慢心は禁物です。あと忍びは昼間でも仕掛けてきますよ」
「え~、忍びって寝ないんですか?」
(はあ、そこからですか……)
「糧食について言及しているのは良いです、戦いの時期を見極めることを考えているのも高評価です」
「やった~」
佐吉に笑顔が戻った。
(まあ、ダメダメですけれどね……)高虎は、思わず微笑んでしまった.
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― 報告 ―
「殿、高虎にございます!」
「おお、与吉ごくろうさま、で、どうだった?」
「まだまだ、子供でございます」
「それは承知している、問題は適性だ」
「内容はともかく、案外怯まずに課題に取り組みました」
「ほほう、まあ普通ならそうはならんか?」
「左様で、周りに誰か参考になる者が居ればべつですが」
「良いではないか、それで……」
「ははっ、こちらになります」
高虎は、佐吉の具申書を差し出した。
「…ぷっ…くう~っ、佐吉けっさく~」
長政は、腹を抱えて笑った。
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― 伊賀の仕置き ―
ああ、言い忘れていたので、『伊賀の仕置き』について語ろう。
伊賀は、浅井家にとって、大和・伊勢への通り道である。
今の浅井は、松永との緊密な連絡が重要不可欠であり『伊賀の重要性』は、普段に比べて増している。
六角家が、伊賀の一部を領していたとはいえ、ほぼ新規での攻略となった。
― 忍の者 ―
山を隔ててわりと近い場所にある、甲賀と伊賀である。
伊賀者が甲賀者と異なる点は、甲賀者が主君に忠義を尽くすのに対し、伊賀者は金銭による契約以上の関わりを雇い主との間に持たない点であるといわれる。
「まあ、簡単に言えば六角家に牙を抜かれた(飼い慣らされた)のが甲賀で、その影響から逃れたのが伊賀者といえよう」
百地丹波
藤林長門守
服部(千賀地)半蔵
上忍三家が主導権を握り、仁木氏を凌駕していた。
ゲリラ戦
潜入工作
諜報活動
に長けた、”傭兵”あるいは”便利屋”と考えると良いのかも知れない。
京の都は、日本 の中心地であり権力闘争の舞台となっていた。
また、「伊賀」や「紀伊山地」 は比較的京に近い位置にある反面、険しい山々に阻まれ中央の支配が行き届かない地域だった。
その土地の地主達が独自に統治などを行ない勢力を得ていったのだ。
このような背景があり、権力闘争に敗れて落ち延びた人達とそれを密かに援護する勢力の絶好の隠れ家になったのだ。
また、権力を狙って画策し潜伏するのにも、好都合だったのだ。
だからこそそれが、”ひとつの産業”として成長し、敵対勢力の情勢を知るための 「諜報術」 を磨いたといえる。
これが、伊賀・甲賀 に 「忍術」 が生まれる元になったと思われている。
修験道の地が近かったことも、忍者の高い身体能力として関係があると思われる。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
忍びの里は手ごわい、あの信長も手を焼いたようだ。
迂闊に触ると大やけどをするので、穏便に働きかけることとする。
『上忍を旗本にとりたてる、
それ以下を御家人として召し抱えつつ、従来通り豪族による統治を保証する』
まあ、甲賀者を引き入れた時の実績があるので、伊賀の者もよく知っているだろう。
直接従属しない者については、”忍びとして、他家の依頼を受ける事も認める。”
{但し、浅井に敵対をしないように親族・上位者に連帯保証させる。}
あとは、浅井家は余計な介入をしない。
これでは半分以上、現状のまま放置するともいえる。
まあ、おあつらえむきに三家あるのだから、そこを利用しよう。
『先に浅井に協力した二家が、勝ち組となるだろう』
そう思わせるように、甲賀から情報を流させる。
「ふふふ、すでに浅井は、甲賀を持っているのだよ。」
伊賀上忍三家ともが、探りを入れてきた。
ほぼ現状維持の上、浅井家という上客が取れる。
三好との契約もあるだろうが、そこはそれ、外に出してしまえば判らない。
直接浅井家に危害が加わらなければ、バレはしない。
そんな期待とキタナイ思惑とが、伊賀の各地を駆け巡っていた。
商人・寺社関係はもちろん賛成派である。
農民も浅井家の善政は、承知している。
答えは決まっていた……。
― 小谷城 ―
百地丹波守泰光 、藤林長門守保豊、千賀地(服部)則直がそれぞれ恭順の意を示してきた。
俺は個別に対応し、その後三人を交えあらためて会談をおこなった。
裏がないことを示すためである。
「三家が揃うなら、それ以上都合の良いことはない、約束は守る。 期待しているぞ!」
「「「 はは~っ 」」」
”浅井に敵対しない”という一文を上忍三家にのみ誓わせ、なるだけ現状の維持することを確約した。
ずいぶん甘いとは思う。
まあ、元手はタダだ。 浅井の腹は痛まない、本来は浅井領じゃないんだし。
(偉そうに、月の土地を売りつけるようなものである。)
向こうもお試し期間であろう、小谷城内部の内偵と浅井長政との面識が得られるのだ損はないだろう?
ぶっちゃけ『伊賀』なんて領地としての旨みは無いが、通路としては意味がある。
それに、忍びの者を配下に召し抱えたい。敵にまわすのは、悪手である。
特に千賀地(服部)則直は、松平清康の代に服部家枝連衆が岡崎城に移り住んだため、勢力を落としている。
浅井家に取り入ろうと必死である。
それぞれの持ち味を活かし競わせると面白いかも知れない。
え、甘過ぎると、舐められる?
そうだな、案の定、中忍の上位勢力が逆らったようだ。
城戸弥左衛門、植田光次、柘植清広……
『伊賀十二人衆』も、数人いたのだったかな?
たかだか、いち豪族の反乱ではあるが……。
俺は一万人を動員し、ひとつづつ丁寧に完膚無きまでに叩き潰し、家名を抹消してやった。
まあ、ミナゴロシみたいなことはしない、幼いものは名を取り上げ他国の農家の養子にやらせた。
使える奴は強制労働に廻した。
見せしめはこの程度で良かろう。
伊賀衆の無用な連座は、反乱勢力の攻略に協力することで”帳消し”として勘弁してやった。
浅井軍は遠巻きに圧力をかけるだけで、実際の仕事は伊賀の者に任せた。
不介入という、約束だからな。
一万人の動員は、大袈裟なように感じるかも知れないが、理由があるのだ。
これはある意味、敵対勢力である”筒井家”への牽制なのである。
大和へのルートを扼されては、たまらないからな。
「少しは、松永久秀の助けになったかな?」
「左様で」
「あとで、伊賀者たちに大和の敵勢力の内偵を依頼するとしよう」
「命令では無くですか?」
岩男は、優秀なんだが頭が固い。
「商売っ気が、いろいろ大事なんだよ」
戦後は、石田・小堀・三田村に命じて、伊賀の詳細な地図と家系図を作成するように命じた。
特にゲリラ戦の場合”肝”となる要地を洗いだいておくためである。
これで迂闊に戦いを起こせまい、もともと利益に聡い奴らである。
浅井がキチンと約束を守れば、契約として従うだろう。それ以上望むのは欲張りというものだ。
これまで以上に諜報部門が拡充でき、俺としては御の字である。
さあ、浅井忍軍を作っちゃおうかな。
浅井忍軍のメンバーは、誰がいいですかね?
それにしても、石田三成は 『久政じゃ!!』の 喜助(遠藤直経)みたいで、可愛いですね。
最後の数話だけでも、ぜひ読んでみてください。
ひさまさ渾身の力作?です。




