『永禄の変』 そのあとで……
新章に突入です!
将軍足利義輝公亡き後、どのように歴史は動くのでしょうか?
三好三人衆が二条御所を襲い、『将軍.足利義輝』を殺害した。
理由は、不明。
というよりも京の町では…首謀者は『松永久秀』である…と、まことしやかに噂が流れているらしい。
自前の情報網を持たない者は、容易に信じてしまいそうである。
三好や、もしかすると筒井の仕業であろうか?
その松永からの情報であるが、篠原長房、岩成友通が三好長逸・三好政康と結託したらしい。
浅井に急接近して将軍家に取り入る松永久秀に、過剰な警戒感をいだいたのかも知れない。
と言っている。
「ままならない、やはり敵は、三好三人衆というわけか」
しかし、上様が易々と討ち取られてしまうとは……。
「さぞやご無念であったろう!」
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― 回想 ―
伊勢にて、
「はあ? あんだけ二条御所の警備の強化を進言しといたのに、あり得ない」
これが変事の報告を聞いた、俺の第一声だった。
「くそっ!」
将軍が殺されたとなれば、少数の手勢しか持たない俺も危ない。
三好の策謀、伊賀からの介入があれば、かなりやばい状況だ。
これまでの苦労が、無に帰する可能性が高いのである。
とはいえ、即座に引き上げたくとも、慌てて逃げるわけにはいかない。
北伊勢の国人衆の動揺を誘うのも不味いのだ。
俺は、動くに動けない状態となった。
北伊勢の国人衆を完全に掌握していないうえ、まだ俺に正式な命令権がないのが最悪である。
(将軍が弑され権力が不在となれば、俺の指揮権が溶けてしまう。)
幸い佐和山の磯野員昌が、早急に追加の兵を送ってくれたので助かったが、正直やばかった。
このあたりの采配は、さすがは磯野である。
後で知ったが、三好・蒲生?の暗躍で、関氏・長野氏あたりが不穏な動きを見せていたようである。
本当に危なかった。
しかし三好め、なんて事してくれる!
5月のXデ―が無事にすぎて油断していたら、いきなり『信秀の坊や』”将軍暗殺イベントのルート”に乗ってしまった。
(六角が衰えたのに、俺が出しゃばらなかったからなのか?)
もちろん松永久秀・久通親子は、将軍暗殺に加わらなかったらしい。三好勢とは一定の距離を置いている。
今回は監視役を置いていただけだったらしく、救出は間に合わなかったらしい。
(俺とのお茶会でイイ人になったのだ。 と言うか、俺のご機嫌取りで将軍にたいしても叛意が無かったと思う。
三月に一度は小谷に来ていたし。俺の子供を孫のように可愛がっている。
久秀を”おもてなし”し過ぎたのだろうか?)
幸い浅井家は、それほど京の足利政権自体に執着していなかったから、その方面での被害は少ないが、
幕府体勢が崩壊した為、今後守護・守護代の権限が停止してしまう恐れがある。そこが地味に痛い!
再び戦国化するかも知れない。早急な戦国大名への転換が必要だろう。
「いや、その前にあの御仁を確保しておかないとな」
俺は、松永宛に書状をしたためた。
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― 小谷城 ―
なんとか北伊勢から引き上げてこられた……。
しかし、完全に後手に廻ってしまっているようだ。
美濃からも悲鳴のような報告や書状が相継いだ、幸い大規模な謀反や反乱にまでは至っていないが。
正確な情報を求めて、皆が右往左往している。
『出元不明の噂』が先行して広まっており、消すのが大変らしい。
『浅井家が将軍の弑逆に荷担した!』
一時、浅井が犯人であるという噂を撒かれたらしい。
どうやら信長や蒲生あたりの犯行のようで、小競り合い程度の騒動はかなりあったようである。
というわけで、今は竹中重元と打ち合わせをしている。
状況は、絶望的とまではいかないが、予断を許さない。
「最悪の場合北伊勢の放棄は仕方が無いが、美濃を手放すわけにはいかん!」
「ははっ、それはもう重々心得ております」
雪の中を相当無理をして駆けつけた、重元に美濃方面の詳細な報告を受け、おおまかな指示を出した。
「特に織田家には注意せよ、こちらからおいそれと増援を送れない今、噂を口実に仕掛けてくるやもしれん」
「はい、そちらの方は、すでに対応を準備いたしておりますゆえご安心を……」
「あとそれと、身重の重虎は、絶対に無理をさせずに静養させるように」
「ははっ、お気遣いありがとうございます」
「頼んだぞ、今が一番大切な時である!」
美濃に関しても色々と気がかりなことは多いが、ここは正念場である。
踏ん張らねばならない。
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今は冬に入ったばかりだ、小谷は雪に閉ざされている。
関ヶ原にも雪が降り、美濃との連絡もひと苦労するありさまである。
雪解けの季節まで、本格的な行軍は不可能である。
いざ戦闘となった場合、佐和山に駐留させている兵力と、江南の兵を使わざるを得ない。
「してやられた! 三好め、こちらが動けなくなる時期を見計らっていたな」
(ああ、将軍の弟が心配だ。)
「まあ、松永が味方で良かった」
念のため、弟の内藤くん(松永長頼)にも陰謀に警戒をするように伝えておいた。
最悪は、丹波放棄もありえるだろう。
三人衆は、河内にある三好家の本拠地、飯盛山城を襲撃し、『保護の名目』で主君.三好義継の身柄を確保したらしい。
松永久秀は、思わぬ汚名を着せられ大きく出遅れたようである。
三好一族ではないうえに成り上がり者であるためか、この手の策略に弱かったとは意外である。
子飼いの家臣が少なく『将軍殺しの悪評』に苦労しているようだ。
やはり、強力な後ろ盾があってこそ 『松永久秀は、役に立つ能臣』となり、
独り立ちすると、その個性と他者からの妬みゆえに 『悪』 になってしまうようだ。
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― 大和国 ―
主であるはずの三好家におのれを全否定されてしまい、松永久秀は苦境に立っていた。
「もはや、浅井家の長政殿に頼るしかあるまいて……」
大和の実情をよく知る久秀は、筒井家の工作にも気が付いていた。
『将軍の弟、興福寺一乗院の覚慶を浅井家に届ける』
これが彼に残された、唯一の起死回生の妙手であった。
「くくく、長政殿も気付かれておったか、これならばなんとか成りそうじゃ!」
追い詰められた状況ながらも、長政からの書状に一筋の光明を見出し。
久秀は、ニヤリと嗤った。
『 大和国国主 松永久秀殿
前置きはよしとして、興福寺一条院門跡.覚慶様のお身柄お頼み申します。
相国寺塔頭 鹿苑院の周暠様 すでにお亡くなりのご様子、おいたわしく存じます。
周暠様を殺害した以上、三好方は平島公方.足利義維の長男を擁立するでしょう。
一条院覚慶様のお身が危のうございます。
是非、近江の浅井を頼られますようお口添えとご助力をいただきたい。
久秀殿の領国.大和の件、この長政がご協力いたす。
浅井長政 』
ひさまさ独自の視点でお届けいたします。




