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『ご利用は計画的に!』 (将軍さまっ、ご利用は…控えてください!)

義輝公と幕臣の目線でお送りいたします。


『おのおのがた、臥薪嘗胆ですぞ!』



― 二条御所 ―

 


「長政を呼べ!」

儂は、長政を呼び出した。


 近江で騒動が起こっておる。

儂に耳にさえ、詳細な話が伝わっておる。

何故、長政は動かん。


「六角家の顔色をうかがうのもいいかげんにせい!」

(奴は、イイ奴すぎるのじゃ。)


ここは一つ、儂が活を入れてやろうではないか。




数日後、……


長政は、慌てて上洛してきた。


 この慌てぶりが、うい奴じゃ!

他のスレた大名にはない、真っ正直な純真さが気持ちよいのう。


 浅井家を、 『御共衆』に取り立ててやろうではないか。 

田舎者には、大変名誉なことであろうからの。


 ついでに、幕府より『近江平定』の命を儂から長政に直々に授けようかの。

くっくっく…これで、将軍家に箔が付くわい。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



しばらくして、……


近江に帰った長政から、手紙が届いた。


なんでも美濃の方でかなり手一杯であるため、やはり将軍である儂の力添えをお願いしたいらしい。



「うむ、長政も大変なようじゃ」


しかし、『将軍義輝さまのご威光を持って平定に協力して欲しい』とは、存外可愛いところがあるではないか?



 よしよし、儂も話に聞く『須賀谷の湯』を堪能してみたかった所じゃ。

噂に聞く『長浜の町』がどのようなものかも見て見たいし、下向するといたそうか。


「これ、皆の衆。 近江への下向の準備をいたせ! 出陣じゃ。」


「「「 ははっ!」」」



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



4月半ばすぎ

浅井家の屋敷大広間にて。



「「「ははぁ~」」」


居並ぶ浅井の諸将が、皆 儂に額ずいておるわ。


(とても、気持ちいいものじゃ~。)

やはりこうでなくてはいかん、浅井は良い家臣を持っておるのう。

横柄な六角家とは、エライ違いじゃ!


「やはり、近江は浅井に任せるのが良かろうな、儂の考えは正解であったわ」


 儂のために用意された、戌亥の迎賓館も最高じゃ!

もう、京になど帰らんでもいいと思ってしまうぐらいに快適じゃ。

長政は、良い家臣である。


「長政を、お供衆に取り立ててやって良かったわい」



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



― 戌亥御殿 ―


 出陣を見送った後は、儂は正直すごく暇になってしまった。

こちらに来た当初は、剣の立ち会いや稽古を楽しんだのじゃが、出陣で皆いなくなってしもうた……。

儂も出陣しても良かったのだが、『王将はみだりには動かないものです』と云われてしまっては仕方が無かろう。


 最近は、長浜の町を散策しておる。

町はなかなか賑わっていて、まるで毎日が祭りのようじゃ、見るもの全てが珍しい。


今日は、『乙女歌舞伎』とやらでも見に行くとしようかの。



「 くうう~、やられた、やられたぞ! 儂はヤラレたぞ~長政ぁ~!! 」



 あのような、ふくらはぎ、いや太ももまでが見えそうな『いかがわしい衣装』を娘御たちに着せ、舞い踊らせるとは……。

浅井長政は、観阿弥・世阿弥以上の天才である!


ああ、もう帰りたくないでおじゃる。


「いええぃっ!」




― 三淵の想い ―


 ああ、今日も上様は、城下へ行かれる。

もうすっかり、乙女歌舞伎の虜になられてしまった御様子だ。


確かになんともこう胸がドキドキする演目ではあるが。

天下の将軍ともあろうお方が、法被なるモノを纏いはちまき姿で応援するというのはいかがであろうか?

家臣として、何だか情けない気がいたします。




― 細川の溜息 ―


 はあ~今日も上様は、乙女歌舞伎の虜でござるか。

おひねりやご祝儀だって、”めんばぁ”が多いですからなかなかの出費でござる。


 滞在費用が浅井持ちとは云え、それは戌亥御殿の中での話し、

外で使うお金は、ぶっちゃけ将軍家の持ち出しである。

しかも、出すからには 『将軍家はケチ』 と言われるわけにもまいりません、頭と懐が痛いです。


困ったことに 『長浜の町』は、京の町以上に良い物が溢れている。

もはや、日の本の文化の中心と言っても過言ではないのかもしれない。


堺の茶人も足繁く長浜の町に通っているらしいが、さもありなん。


「とりあえず、上様の無駄遣いをお諫めせねば……」

肩を落とし、お迎えに伺う藤孝の背中は哀愁が漂っていた。



《長浜の町にて、将軍家の借財は加速度的に増えていった。》


長政殿は、何も言わない。

「お金を貸そうか」など、そういう低次元なことを申し出る男では無いのである。

もちろん、借財を申し込まれればイヤな顔一つせずに二つ返事で貸してくれるであろう……。


私は、それが恐ろしい。



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



― 某所 ―


「いやぁ~ん、将軍さまのえっちぃ~♡」

「うむうむ、良いではないか~、最高でおじゃる」


「きゃぁ、きゃぁ、すてきな殿方ですうぅ」

「儂は将軍じゃ、なんでも欲しいものを申してみよ!」


終には、片町へと繰り出す義輝の姿があったのであった。


いわゆる、『男の理想郷(架空の世界)』である。

(義輝公は、実に楽しそうだった。)



 大事に携えてきた名刀の数々を惜しげもなく売り払い、義輝は豪遊を重ねていた。

もはや『剣聖将軍』の威圧感はなく、ひたすらマイルドな良いエロおやじに成り下がってしまったようである。



ある日のこと。


「「上様、いい加減にしてくだされい! かようなことでは将軍の権威が……」」

三淵藤英、 細川藤孝兄弟が意を決し、義輝に苦言を呈した。



「……お前達…よくぞ申してくれた。 安心せい、これは擬態だ!」

諫言をする家臣に、義輝は即座に(遊女から教わった殺し文句で)切り返した。


「「な、なんと」」


「おろかに遊び呆ける振りをして、三好の油断を誘うのじゃ。長政の兵力があれば戦えるではないか」


「おお、なんと……」

「……素晴らしいです」

兄弟は、多少ズレながらハモった。



「ふふふ、名付けて『信長うつけ』作戦じゃ!」


「「 上様……(ネーミングセンス、ないっスね~)」」



 かくして、近習たちを煙に巻き義輝は遊び続けた……。


 さすがに遊郭に出入りをするのは、はばかりがあるので、……

義輝は、『乙女歌舞伎の一座』から、ご贔屓の女役者を無理矢理 『身請け』 した。


『伊香の薫の君』である。

近江は伊香郡出身の娘で、『薫の中将』役をしていた。


小娘でなく、あえて男役の娘”男の娘(♀)”をチョイスするあたりが、義輝の鋭い感性を示していた。


 まあ、後は、戌亥御殿で……しっぽりとお楽しみであったようである。

《将軍の下向に合わせ、屋敷に温泉が用意されていたのは云うまでもない。》




~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~




― 和田の懊悩 ―


 私の家は、代々六角家家臣の家柄である。

私自身は『奉公衆』として、上様にお仕えしております。

将軍家の家臣として、また南近江の人間として此度の戦に『幕府の目付』として参加いたしました……。



 六角家の家臣として、守護代.浅井長政殿に膝を屈するのは矜持が許さないのだろうか。

当初の予想に反して、かなり多くの六角家家臣達が浅井の支配を受け入れることに難色を示した。


承禎さまが、ふ抜けてしまい浅井主導で物事が推し進められるのが我慢できないらしい。


なるほど、長政殿は 『この事』 を予測されていたのか?


『浅井家の格の低さ』 それが、長政殿が抱える問題なのであろう。

長政殿の経済力・幕府への功績を内心では認めつつも、浅井家の躍進を快く思わない連中も多いのだ。


 それともうひとつ問題なのは、浅井長政殿は領地を安堵しているが。

それは、『正当に得た分』のみなのである。

つまり不当に取得・横領した土地は返還せねばならない……。



 脛にキズを持つ国人衆も多いのである。

一族の中でも意見が分かれている所が多いようだ。


馬鹿な奴らである、隙を見せれば喰われるというのに……。

ましてや、将軍家のご意向に従わないのは致命的だろう。


わたしは、なんとか知り合いを滅びから守ろうと奔走して回った。



 浅井長政殿は、とくに抵抗が激しいと予想される、日野、甲賀、伊賀を六角(承禎)家の直轄領に組み入れる意向のようだ。


「なるほど、良く考えておられる」


むやみに攻城戦を仕掛ける事にならなくて、私は正直ほっとした。


『将軍家を御護りするという役目を、引き続き六角家に任せる』と云うことで、抵抗を示していた国人衆が軟化してくれた。


どうやら、降伏するにしても『大義名分』が欲しかったようだ。


『義治殿が出家する』ことで、話がつきそうだ。

まずは目出度い。


 京を守護するということで、承禎さまは、山科にほど近い『逢坂山』に六角家の新たな城を建てるらしい。


「ふう、疲れた!」

ようやく、近江の平定が終了した。




「……なんだこれは?」

小谷の仮御所(戌亥御殿)に帰ってきて、私は驚いて声をあげた!



なぜか、ふっくらと にこやかな義輝公。

そして、いくぶん肥えた三淵・細川兄弟。

それに……見慣れぬおなご衆。



私が苦労していた間、豪遊するとは……うらやましいわっ!



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



― 7月 ―


 義輝は、心身共にスッキリして、京へと帰って行った。

帰京の一行に、『薫の君』がいたのは言うまでもない。



和田惟政も帰る頃には、いくぶんふっくらと…、スッキリしていたとか…。


まあ、実際はここまで巫山戯てはいなハズですが……。

楽しんでいただけたようです。

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