~六角定頼の回想~ そして、歴史が動いた。
いよいよ、歴史が動き出しそうです。
諸説いろいろありますが、細かいところは気にしないで下さい。
史実とは結果が変わりました。
「座を廃止せよ」
『楽市楽座』これを実行しようとした時、誰もまともに話を聞かなかった。
儂が本気だと知った家臣は、大いに慌てた。
「誰も理解しおらん」
僅かに、利に聡い日野の蒲生、勢多の山岡、堅田水軍の猪飼あたりが理解を示したが、あくまでも自分の家の利益を勘案しての事だろう。
「出来はしない」と、たかをくくっておる。
他の連中など、「何のことか?」と思うておる。
しかし、六角が強くならなくてはいかんのじゃ。
乱れたこの世で、江南、近江を守るためには、将来どうしても必要じゃ。
国人の意見、顔色を窺うようではだめなのじゃ、そこを判ってはおらんじゃろう。
どいつも、『わが家大事』じゃ。
お家とは『六角家』で無ければならん。
いずれ、大きな波に飲まれるのが判らんのか?
皆の不理解に落ち込みながらも『六角百年の計』と思い、陣頭指揮までとった。
家中の者までが、懐疑的、消極的だ、あからさまに手を抜きおる。
「目先のことしか見えん馬鹿者共め。」
じゃが、浅井の小倅だけが目を輝かせ、毎日飽きもせず市の様子を見ておった。
(子供は無邪気で良いわ、気楽なものよ。)
むろん最初から上手く行った訳ではない。いかに領主のお墨付きだろうと、
「楽座」など初めてなのだ、最初は誰もが面倒ごとを嫌がって寄りつきもせなんだ。
家臣の連中もそれ見た事かと言った顔だった。
「ふん、顔に出ておるわっ!」
出だしの躓きを、浅井の小僧に鼻先で笑われるかと思うと癪であったが、小僧もなぜか残念そうだった。
そして毎日のように様子を覗いておった。ときには、おなごの手を引いて見物しておったわい。
石寺が活気づくにしたがい嬉しそうだった、その表情が忘れられん……。
『我が意、得たりの顔じゃ。』
本来、儂がするべき顔じゃ、まさかとは思うが……、判っておるのか?
いや、いくら何でも偶然じゃろう。
”コイツだけは、今殺すか、完全に六角に取り込むしか選択はないようじゃ。”
儂の「勘」が告げておる。
「う~む」
儂はとても悩んだ、浅井という家は目障りではあるが、実はとても都合が良いのだ。
朝倉と斉藤を押さえるための緩衝地として最高なんじゃ。
あそこを直接統治をする気はさらさら無い、従順な犬が欲しいのう~。
いずれにせよ、浅井の質を理由もなく殺す訳にはいかんしのぅ。
「いたしかたあるまい」
儂は決断した。
「誰ぞ、平井じゃ、平井定武を呼べ!!」
こうして猿夜叉丸の知らぬところで、歴史の歯車が動いた。
「殿、平井にございます」
「うむ、よく来た。ときに平井、お主、猿夜叉丸をどう見る?」
儂のあまりにも直裁な問いに、定武の肩がぴくりと動く、
(動揺しているようじゃ、まだまだ青いのう。
猿夜叉丸は平井の息子みたいなもんじゃからな。気になって当然じゃろう。)
「良家の子弟の教育というものは……、(四郎様みたいに)まあそれなりに手を焼くものですが、
猿夜叉丸は……、(若とちがうわ)いたって素直に師の教えや指示を聞き、進んで鍛錬しております」
「なるほどの~ぅ。それで出来は、どうなのじゃ?」
「…幾分大人しい性質のようですが、武芸も学問も精力的に修めておりますゆえ、かなり優秀かと」(えっへん、私めが育て上げました)
「優秀か。敵方の嫡子が優秀というのは、いかがなものかのう?」
(まるで、猫がネズミをいたぶるような物言いだ。殿も人が悪い。)
「猿夜叉丸は、まだ幼きころから上手く手なずけました故、このまま六角家中に取り込めば良いかと」
「あやつは生まれた時から、この城にいるからのう」
「はい、『六角生まれの六角育ち』ですゆえ」(問題ないです。)
「ほほ、それはいい。どうじゃ、その方の娘と仲が良いようだ。妻合わせてやっては」(上手く仕込んだか?そのままつづけよ。)
「まだ7歳ですぞ、いくら何でも早うござる。」(殿、マジ胃が痛いです。)
思わず顔をしかめる若い重臣に、笑う定頼。
いつの世も父親は、娘離れが苦手であるようだ。まあまだカワイイ盛りではあるが。
「いずれのせよ方針は決まったか?浅井を上手く手懐けられるならば、それで良かろう。
これ以上、京極の家のゴタゴタに付き合うのも面倒じゃ」
「家中の者も、猿夜叉丸とは顔見知りゆえ、問題は少ないかと思います」
「であるな、猿夜叉丸が生まれた時の、あの馬鹿騒ぎは酷かったな」
「ふふふ、そうでありますね、奇貨置くべしであります」
六角定頼と平井定武の密談により、「猿夜叉丸」を六角家家臣に取り込む方向で話がまとまった。
『奇貨置くべし』
跡継ぎの義賢、六角の六宿老を交え、『将来、浅井家の次期当主に猿夜叉丸を据える事』を確認した。
来るべき将来を見据え、「猿夜叉丸に六角家への忠誠心を強く持たせる」ように、上手く取り持つ方向で決まった。
ひとえに平井定武の、猿夜叉丸への愛があればこそである。
猿夜叉丸の運命は、本人のあずかり知らぬところで少しづつ変わり始めた。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
― 波乱 ―
久政の代になり、浅井家はすっかり弱くなってしまった。
浅井家が六角家に臣従したことで、国人たちの間に動揺が生じた。
そこをうまく突いて、京極高延が上平寺城にて、復権を果たし、次第に勢力を強めた。
腐っても守護の名は伊達ではなく、勢力は拡大するばかりであった。
もっとも、国人達は、相変わらずの日和見であったが……。
一方、浅井家は、六角家に臣従はしたものの、元々敵対していた関係だろうか、漁夫の利を狙っているのだろうか?
六角から受ける支援は、かなりいいかげんだった。
攻勢にさらされた浅井久政は、京極高延に降伏し、再び従うことになりかけた。
家臣の一部には、人質の猿夜叉丸の身柄を懸念する声があったが、先ずは、お家大事と相成った。
久政は猿夜叉丸を見捨て、京極高延に降りかけた、まさにその頃合いで……。
六角家の好意的な仲立ちがあり、浅井家は何とか危機を乗り切った。
つかの間の平穏が訪れるかに思われたのだが。
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― 観音寺城 ―
観音寺城では、主の定頼が進藤、後藤の『六角の両籐』に不満を漏らしていた。
「まさか、ああも容易く跡取り息子(猿夜叉丸)を見限ろうとするとは……久政は何を考えておるのじゃ?」
「浅井のお家大事と言う事でしょう」
「京極高延ごときに膝を屈するほどに弱くなったと申すのか?」
「江北の国人衆は、いずれも二股膏薬、両家を天秤にかけておりすまゆえ、久政めには、ちと厳しいのでは」
「とりあえずは、和を結ばせましたが、時間の問題かと?」
「まったく、しばらくは目を離さぬよう伝えよ」
「「ははっ」」
それは、また、次の騒動の始まりにすぎなかった。
浅井氏を臣従させ損ねた京極高延は、六角氏を討つにあたり菖蒲岳の今井定清に狙いを付け調略を進めていた。
高延は、今井氏を味方にすべくせっせと書状を送っていた。
しかし、何故かこれを知った(六角の忍びか?京極が故意に情報を流したのか?どちらだ?)
六角氏は、今井氏に疑いを持った。
見せしめの為に、人質となっていた今井家の幼子は、定頼の命によって磔にされた。
今井氏は、もはや後に引けずに、六角家から、旧主である京極氏方に復帰したのである。
ある意味、京極高延の思うツボだった。
とはいえ、今井定清は復帰したものの惚けてしまい、引きこもりがちらしい。
当たり前だ、うちと同じように六角に人質を出していて、あっさり首チョンパだもんな。ショックだろう。
以上、定武様から聞いた話だ。
俺よく助かったよなあ、ほとんど奇跡だ。
(こんな物騒な話をわざわざ聞かせるとは、人が悪いな、脅す気か?いや、恩を売りつけるつもりか?)
いずれにせよ、内政チートすら迂闊に手が出せない状態だ。
我慢ガマン。
人質はつらいのだ。
猿夜叉丸は、知らぬ間に死亡フラグを回避していました。
主人公は、いくら警戒しているとは言え、所詮平和ボケの日本の感覚が抜けていないのかな。
定頼の目は、見抜いたようです。
京極高延は、ただの傀儡ではありませんでした。
久政が相手だと、「北近江守護」という「錦の御旗」がありますので、以外と、国人が付いて来やすかったみたいです。
なんだか、パワーアップアイテムみたいですね。
六角(京極高吉)へ、執拗なまでの戦意を剥き出しに戦い、なりふり構わずに戦ったそうです。戦の中、生死不明となりました。
単なる『麻呂』ではなかったようです。
今川義元と同じで、イメージでしょうか?
「京極高広」としたいところですが、「京極高延」と呼んだ方が通りが良さそうなので……、
(他にも京極高広:丹後宮津藩の第2代藩主がいらっしゃいますので、混同を避けるため京極高延に統一します。)
久政を配下に従えるぐらいには優秀な方だった。と言う話です。