表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/111

『鞠姫の輿入れ』

阿久姫と、直経とのおめでたい話があれば、

この人も幸せになっていただきたいです。


では、どうぞ!

 鞠姫、彼女は、賢政の姉である。

かわいらしい、愛嬌のある女性であるといわれている。

まあ、実際にあった者など少数に違いないからあくまで噂にすぎないが、

「かの『賢政』の姉ならばさぞや美しいだろう」と皆が夢想するのは仕方がないことである。



 その鞠姫であるが。

父、久政からは、京極高吉に嫁ぐようにと云われていた。

『京極家』は、浅井家の主家である。

良いも悪いも、問答無用の政略結婚である。


この時代の、姫として生まれれば、当然のことなのかもしれない。

現代人から見るととても気の毒ではあるのだが。


ただ、鞠姫にも不満はあるらしい。


『なんで、自分の父親よりも一廻りも年上のジジイの嫁にならなければいけないのか?』

という、不満だ。


実に38歳の年の差。

現代日本でならば、警官隊に銃殺されても文句は言えない、凶悪犯罪である。

見つかった時点で、駆除確定であろう!

ロリコンどころの騒ぎではない!


時代というものは恐ろしいものなのだ。

こんな、恐ろしいことが堂々と罷り通ってしまうのだ。


「早く死んでくれないかな?」

鞠姫は、そう願わずには、いられなかった。

(誰のことかは敢えて云うまい。)


 そんな絶望的な婚姻を将来に控えつつも、姫としてそれなりに人生を楽しんだ。

まあ籠の鳥である事に変わりはなかったが……。

戦場で死ぬよりはマシなのだろう?漠然と、そう思い諦めていたようだ。



 一縷の望みは、新九郎(のちの賢政)だった。

観音寺城下で新九郎と面会を果たした、姉の阿久姫曰く、『頼れるおとこ』らしい。


 「なんだろう、スゴク会ってみたい!」そう思った。


 小谷に帰還した、新九郎はまだ、数えの12才の子供だった。

この頃の3才差というものは大きい、まして女子のが成長が早いから、……

15才の鞠には、どうしても子供にしか思えずガッカリしたのを覚えている。


 でも少しづつ顔を合わせる度に、その考えは変わった。

新九郎は、外見は子供だが妙に大人なのである。

紳士と言っていいのかもしれない。

「人質として苦労したせいかな?」

そう思うと不憫で、姉としてやさしく接してあげたくなる。

向こうも、鞠姫の好意を感じたのか、鞠を気遣うようになっているみたいだ。

こまめに贈り物をくれる。

ささやかではあるが、心が込められているのを感じる品々だ。

少し嬉しい!


 阿久は、新九郎擁立に全力を傾けている、ナニが彼女をそうさせるのかは解らないが。

自分も何だか期待してしまった。

いつしか新九郎は鞠のお気に入りになっていった。


とりあえず、京極家との婚姻は引き延ばすだけ引き延ばしているまりひめだった。


新九郎は次々と浅井のために手を打ち、瞬く間に小谷を見違えるように生まれ変わらせた。

すこし大げさなようだが、本当だ!


最近の小谷は明るいのだ。

皆が和やかな顔をしている。


 かくいう自分も、阿久姫に連れられて噂になっている『須賀谷の湯』に浸かりに行った。

「まあ、なんということでしょう!こんなに良いものを知らずに生きていたなんて」

ぬか袋で丹念に磨き上げると、まるで生まれ変わったように瑞々しい素肌を取り戻してゆくのだ。

(今までため込んだ、汚穢なものを全て洗い流せたよう!!)

こんなにも良いものだったなんて!


 いやはや、皆が『須賀谷の湯』をねだるのが解る気がする。

国人衆のご老人の中には、小谷城下へ越してきた者までいる。

六角氏とは違い、城下に家臣を集める強権は浅井家にはない。

しかも、自発的に集まるのだから、ナニも文句は出ないのだ。

於いてなお元気な国人衆の御老人達が、『須賀谷の湯』の為に家督を譲ったなどとは、嘘みたいなほんとうの話である。

老人達には薬草風呂がことのほか人気だという。


 新九郎にお願いして、毎日入れるようにしなくてはなりませんね。

姉と意見を交わし合い、専用の湯屋を設けるようONEGAIした。


 新九朗が江北に帰ってきてから、生活ががらりと変わった気がする。

いつの間にやら変わっているのだ。

もちろん、ビックリするほど凄いこともあるのだが、じわりじわりといつの間にやら変わっているのだ。

一体どこまで大きくなるのやら末頼もしい弟だ。


 念願の湯谷も完成し、姉共々温泉三昧の日々を送るのだった。

湯はもちろんのこと、食事も工夫が凝らされていて美味しいのだ。

妙に座持ちの良い弟は、けっして話を飽きさせることがなかった。

須賀谷の別邸で、兄弟姉妹で水入らずに過ごす日々も、悪くはないものだと思った。


 元服を迎えた、新九郎は『浅井賢政』となった。

父とは、違いどこか頼りがいがありそうだった、いや頼りがいがある。

自分の弟でなければ嫁ぎたいぐらいに、いい男になったものだ。

京極になんて嫁ぎたくない……。


その思いが通じたのか……。

朗報がもたらされた。


 京極氏の没落である。

 本来であれば、主家の没落など凶報以外の何物でもないのなのだが、仕掛けたのが賢政だ。

弟の賢政が、京極氏の影響を完膚無きまで完璧に排除したのだった。

将軍の傍にいる『京極高吉』をほとんど無視する事が出来るくらいに……。


 北近江守護が、事実上なくなった以上、浅井家は京都にいる京極高吉にそこまで気を使う必要もなくなった。

55歳という老齢の高吉に鞠(17歳)を無理に娶す必要性が薄れたのだ。


そう、鞠は自由を手に入れたのだ。


 我が世の春が来た想いだ、弟を引っ張り出して城下を散策したり、買い物したり、美食をしたり。

須賀谷の湯も、もちろんのこと外せない。

浮かれ騒いだのも仕方のないことであろう。


結婚の重みから解放されたところに、衝撃の報告がなされた。



「「祝言じゃ!!!」」、久政と賢政のハモりの『ひと声』で、


 あの、『遠藤直経』様が、『阿久姫』お姉様を娶ったのだ。

なかなかのお似合いカップルだと、皆が口をそろえて祝った。


 がーん、まさか姉が……、私を差し置いて先に結婚するとは……。

いえ、まあずいぶんと年上なのですから、当たり前といえば当たり前なのですが。

それでもやはり……、あの『阿久姫』ですよ!

ビックリしました、いやぁね、最近妙に色気づいて、身体を絞ってきたなぁとは思っていました。

あっ、まさか…新九郎に妙に肩入れしていると思ったら、将を射るのに馬を手懐けたのですね?

く、くやし~。

私だけが、行き遅れですか?そんなの絶対にイヤです。


姉がいるから余裕ぶっていましたが、賢政に嫁が3人もいる時点で、私負け組じゃん!


慌てて賢政に婚姻の手配をお願いいたしました。

(あなただけが頼りです。)


 水面下で、朝倉宗滴のお孫さん、敦賀郡司家当主朝倉景垙様との婚姻話が進んでいるようです。

年齢もひとまわりほど、上ということで一安心です。

名門の朝倉家であれば、私としても文句の付けようがありません。

賢政からは、「姉上に意中の方がいらっしゃればお手伝いいたします」と嬉しいことをいわれましたが、

私にはそんなだいそれた願いはありません。

(とにかく、行き遅れたくはありません。)

ありがたく、朝倉家との婚姻を受け入れました。


 かくして、『あさくらちゃん』と『浅井家』の絆は、さらに深まることと相成った。


この婚姻が、浅井家の運命をどう変えるのか?


それは誰も知らない。




鞠姫は、史実では『京極マリア』といわれる女性です。

幸せだったのかどうかは、誰にも判らないことです。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ