『雌伏編』最終話. 『桶狭間』 そのあとで……
ヨシモト生存!
この影響は、大きいです。
衝撃のラストは、賢政も、祐の方も、お腹をさすって笑います(嘘?)。
『今川義元公が生きながらえたらしい。』
その報告を、俺は信じられなかった。
(まさか……)
「おそらく、誤報であろうが、確認をしてほしい」
そう、指示を出すのが精一杯だった……。
誤報もしくは、虚報であってほしかった。
しかし、私の願いも虚しく『今川義元公』の生存が確認された。
今川側としても、『大殿の健在』のアピールに必死らしく、生存確認は容易だった。
織田家も、今川の大軍を撃退できただけで、とりあえずは満足といったところらしい。
まさか、既に歴史が変わっているなんて……。
俺は一体どうすればよいのだ?
何が正解だ?
何が正しい?
俺は、既にこの世界の人間と同じ土俵に立っていることに、気付きたくなかった。
「殿の具合は、どうだ?」
心配げな直経が、俺の様子を侍女に問う声がする。
「あれから数日、お食事をしていただくのがやっとであります」
「まさか、殿が寝込まれるなんて、何が有ったのだ?」
「おそらくは、例の合戦の事で、お気をお遣い過ぎになられたのかと?」
「確かに、医者の報告はそうかも知れぬが、解せぬ」
(あの殿に限って、他国の戦ごときでお体を病むほでのことはあるまいに……。)
「今は養生していただくのが肝要かと」
「そうじゃな、出直すといたそう」
直経は、すごすごと引き返してゆく。
「すまない…」
直経の気配を感じながらも、今は、会いたくは無かった。
俺にとって、やり直しの利かない現実世界で、戦というものは恐怖だ。
ゲームのように、セーブできればどれだけ気が楽なことか。
だいたい、遊びではないのだ、本気の殺し合いだそんなの納得できない。
みんなの笑顔が見たいのだ、殺し合いをしたいわけではない。
人殺しなど、真っ平ごめんだ。
誰も死なせたくはない。
今、家臣に会えば、そいつの『死に顔』が思い浮かんでしまう……。
まして、股肱の臣の『遠藤直経』である。
『彼は、長政に色々尽くし、そして、死んでいった』
主君の為に数々の忠言をおこない、献策した。
直経の意見が取り入れられれば、あのようなことはなかったかもしれない。
それでも、不平を言わず黙って最後まで従ったのだ。
最後の戦では、涙を呑んで戦友の首を獲り、敵兵に紛れながらも、あと一歩が及ばなかった……。
なんと悲壮なまでの、献身と覚悟であろうか。
自分が生き延びるつもりはさらさら無く、主君を生かすことだけに執念を燃やし、散っていった。
「さぞや、無念であったろう……。」
それを想うと、何を自分は浮かれていたのかと、腹が立ってくる。
もちろん、江北を良くしよう、みんなを守ろうと、真剣にがんばっては来たつもりだ。
しかし、どここらか上から目線、他人事で会ったと思う。
自分が恥ずかしくて、消え入りたい想いだ。
「殿、あまり思い詰めてはお体にさわります」
「くっ……」
やさしく声を掛けてくれる、お雪の死に顔まで見えそうだ。
(長政の母は、信長に指を一本ずつ斬られ苦しみながら死んだらしい……。)
「お雪、すまん」
「おかしな殿です。何をあやまっておいでですか?」
「……いろいろだ」
「もうあなた様は2児の父親になるのですよ、そんな事ではいけません」
「恨んでおるのか?」
「なにをです」
「…先に、縁と祐子がややを授かったこと…かな?」
「次は、私の番ではありませぬの」
「……そうだな……」
俺は、お雪の優しさに溺れた……
……と言っておこう。
いつまでもクヨクヨしていては生き延びられん!
俺は、誰の死に顔も見たくは無いのだ。
自分自身で考え抜き、生き延びねばならない。
がんばるぞ。
先ずは情報収集だ。
そして、今後の展開を読まないと行けない。
「誰ぞ、遠藤じゃ直経を呼べ!!」
「「「「「ははっ、直ちにお呼びいたします!!」」」」」
『桶狭間の激戦』 の詳細な情報が入ったのは、戦いから数日後のことだ。
どこもかしこも、桶狭間の話で盛り上がっています。
中でも、喧しいのが、
天候さえも味方につけた、『信長の決死の突撃』
なにせ、今川の大軍に怯まずに全軍突入を敢行したのだ、並の統率力ではない。
尾張から、あの今川を退けたのだ。
もはや、彼を『うつけ』と呼ぶものはいない
そして、『井伊の退き口』だ。
直親に随伴した家臣のほぼすべてが討ち死にすると云う、恐るべき撤退戦だ。
深傷の義元公を叱咤激励し、自身の家臣団、全滅覚悟の強硬突破で見事、主君の生還を果たした。
全身血まみれの赤ずくめで、かの岡部を始め、朝比奈や松平も呆然と彼を迎えたという。
『今川の赤鬼、井伊直親』の誕生である。
破れはしたものの、不屈の闘志を見せ、今川の崩壊を阻止した。
こちらも、その壮絶さに、皆が賞賛している。
『隻腕の義元』は、家中の動揺を抑えきった。
やれやれ、本当に歴史が変わったんだな!
今川のまさかの敗戦に直盛殿が、多少は気落ちしているかと思ったが、「武家の常であります」と冷静だった。
旧主とは言え巨大な今川家にしてみれば、井伊谷衆など外様扱いだし、案外その場にいなければ冷静になるものか。『義元』も健在だしな。
まあ本来なら、彼も討ち死にしていることだし、歴史が変わってしまった事を重く感じた。
直盛はすでに、浅井家の配下となってもらっている、俺のように取り乱すような酷い動揺がなくて良かった。
あの後一応、直親殿の無事を確認出来たのも大きいのかな。
井伊家の代替わり早々で、お目見えをかねて本陣近くの配置だったらしい。
戦功の大きさは凄いものだが、直盛が育て上げた家臣はその多くが散ってしまった。
ほどなくして、井伊家家臣団壊滅を詫びる「詫び状」が、前当主直盛の元に届いた。
この報告は、さすがの直盛も堪えた様子だったが、流石は戦国の武将だ毅然としていた。
まさかあの、直親殿がここまで活躍するとは……。
早めに、祐子の事を謝っておいて正解だった。
(ヘタしたら、単身小谷を落としそうな御仁だ、絶対に敵にしないでおこう。)
祐子に、「逃した魚(直親)は、でかかったな?」
と冗談交じりに問いかけたが。
「これでようやく、直親殿も一人前です」
と、少し膨らんだお腹を愛おしそうにさすりながら返してきた。
「おいおい、アレが、井伊家の基準かよ!はははっ……」「うふふっ」
『桶狭間の激戦』の盛り上がりは凄い。
浅井でも、この波に便乗して3000人規模の実戦を想定した合同訓練を行った。
2000対1000、の変則演習を取り入れた。
3隊に分け、それぞれ1000名の部隊が劣勢側を1回、優勢側を2回繰り返させる。
まあ戦闘指揮は、遠藤直経や磯野員昌、海北綱親他の家臣がいてくれる。
これからは、軍政や練兵にも力を注ぐ必要がある。
先は読めないのだ、打つ手を出し惜しみする余裕は無い。
『いざ小谷!!』
俺は、江北の家臣全員を集めた評定を連日続けた。
みんなで、歴史を切り開くのだ。
『浅井は江北の為に』
『江北は浅井の元に』
― 新しい歴史が、これから始まる。 ―
『 長政?はつらいよっ!弱小浅井はハードすぎ!!』
『涙ながらの雌伏編』 ここに完結いたします。
ご愛読、ありがとうございました。
一気に書き上げた、勢いだけの作品ですが、楽しんでいただけたのならば幸いです。
コメディ成分多めのシリアス系転生ものです。
お好きなところを、もう一度読み返していただけたら、私としては望外の幸せです。
ご感想をお寄せいただいた皆様にも、改めてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
ひさまさ より
このまま、引き続き
こぼれ話を、お届けして参ります。
続編『長政?はつらいよっ!! 静かなる逆襲!!』も投稿中です。
引き続きご愛読いただきますよう、お願い申し上げます。
『大一、大万、大吉、みんなで頑張ろう!』




