さあ、そろそろ自分で歩もう
六角家は凄いんです。
怒らせてはいけません。
よく考えてみれば……。
俺って、『六角生まれの六角育ち(大切な人質)』なのである。
ある意味サラブレットなのか?
『六角家』って物語やゲームでは、なんだか『ヤラレ役でザコっぽい』けれど。
その認識は、大間違いだ。
佐々木源氏の流れを汲む六角氏は、名門中の名門だ。
この時代、それなりに勢力がある。何しろ近江守護職だ。
何かにつけて、”2万を超える軍勢を簡単に出動させる”奴らだ。
お祖父様、亮政公も毎回、桶狭間の信長のような目にあっていたのだ。
資料を見れば判るが、コイツらトンデモないやつだ。
六角家の当主は、気に入らない事があると……。
すぐに逆上し、2万5千の兵を出すのだ。
正直、こんな奴に目を付けられて、何度も何度も生き残った亮政は、
項羽に睨まれた劉邦のごとき、スゴイ幸運な人だと思う。
(負けてばかりだけれども。)
聞くところによると、六角家は将軍を何度も匿い、上洛させている。
それだからこそ、幕府にも信頼されているんだな。
しかも、『楽市楽座』は六角定頼が信長よりも先におこなっているんだからな。
知る人ぞ知る、意外な歴史の真実だ。
折角だから今後のために、良い所はどんどん参考にさせてもらおう。
天文19年(1550年)
そして今現在、猿夜叉丸(満5歳)であります。
人質の俺は、平井定武様の平井曲輪の一角に屋敷(小)を構えています。
家臣の構成は以下の通り。
爺(傅役)、雨森弥左衛門秋貞:伊香郡雨森城主雨森弥兵衛清貞、清次の末弟(架空人物?)
乳母、まつ:弥左衛門夫人
弥太郎(弥左衛門子息1543生まれの2つ上)
お雪(弥左衛門息女1545生まれの同い年、乳兄妹)
下男、喜八郎、熊五郎
下女、おせん
以上7名
(……少ない、武士は爺ひとりだ。これでは、何もできないじゃないか~。やはり、俺はモブなのか?)
人質はツライよ。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
― 春 ―
時代が変わっても、桜咲く季節がやって来て、そして、すぐに散り去ります。
ときは止まらずに流れていきます。
すぐに新緑の季節がやって来ます。
幼い日々は終わりです。
この時代は寿命が短く、早く大人にならなくてはいけません。
そろそろ勉学と鍛錬を開始する時期がやって来ました。
ぶっちゃけ俺は転生者である。
中身が大人(社会人)なので、ズルも良いところだ。楽勝である。
「ぐぬぬぬぬ、」
穴が空くほど書物を見ても、何が書いてあるのやらさっぱり判りません。
「何、にらめっこしているの?」
一緒に手習いしている、お雪が不思議そうに尋ねてきます。
「こんなはずでは、なかった。」
書物が全く読めない事に落ち込む俺。
「今日はひらがなを、お父さんに教わるんだよ」
習ってもいないのに読めないのが当然とお雪は、無邪気に笑う。
(くそ~、チートでいきなり読み書きが出来れば、お雪に良いところを見せられたのに~)
幼稚園児に、てい良くあしらわれ、ものごっつう~凹んだ。
とはいえ、悔しくとも現実は受け入れねばならない。
いまは素直に「ひらがな」の読み書きを覚えているところだ。
草書、崩し字が読めないし、候言葉は何が言いたいのか意味不明だ。
早く慣れるようにしよう。
もう、開き直って弥太郎、お雪と遊びながらお勉強している。
意外と爺は教えるのが上手かった。褒め上手なのか?
俺、「猿夜叉丸」の未来は、傅役の爺、弥左衛門の教育次第だ。
「たのむぞ!」
俺は、何としてでも『一流の戦国大名』になりたいのだ。
『政治』、『教養』、そして『この時代の常識!!』学ばねばならないことは山ほどあります。
何も知らずに、迂闊な事をすると大惨事を招きかねない。
子供だと思って、手を繋いだりスキンシップをとっていたら、平井さん家のゆかりちゃんが、やたらと俺を好いてしまった。
事ある毎に俺に構ってくるし……、今後の事をいろいろ考え、思索に耽りたいのだが、やたらめったらかまって来る。
俺の自由な時間が大幅に失われた。
失敗した! (いや、ある意味勝ち組か?)
俺より2つ上の弥太郎は、まだ洟垂れ小僧で使えない。
同じように育っているのに、なぜか意思の疎通が上手くいかない。
「解せぬ」
たぶん、俺が無意識に横文字を使っているのかもしれないな。
頭がおかしいと思われては、廃嫡されかねないからな、注意が必要だ。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
学習環境を整えようと思ったら、六角家の協力無しには無理である。
敵に取り入るのは屈辱だが仕方あるまい。
俺も子供だ。一応可愛らしく擬態し愛想良く振る舞うしかあるまい。
「わ~い」とか、「ありがとー」とか「よくわかんな~い」とか……。
俺、がんばったよ。
無邪気な子供の振りして、薄汚い俺の本心、暗い思いを隠し通したよ。
人質の身とはいえ、六角家はそれなりに遇してくれたし、武芸も学問も人並みに修めさせてくれた。
教育環境としては良かった。(剣の師匠は、何もしなかったが……)
一部に蔑みの目はあったものの”平井曲輪”に守られた。
平井家では丁重に扱ってくれたから、何とか他の六角家家臣の悪意から逃れられた。
くやしいが気に入られる為にも、俺は皆に媚びを売らねばならないのだ。
人質生活は気を遣う。
猿夜叉丸はつらいよ。
六角家の人々は、ちょこっと怒らせると。
定頼は激怒し、2万の軍勢をとか……、迷惑です。
義賢は激怒した、2万を超える兵を……、止めて。
義賢は、さっそく2万5千の兵で水攻めに……、やり過ぎです。