『いざ、江北!』 小谷城へ
将軍様も頑張っているようですが……。
永禄元年、
時が来た!!
京の都も奪回(上洛)を果たすべく、将軍足利義輝と細川晴元は、軍勢3000人を率いて、匿われていた(隠れていた)朽木谷から南下した。
近江守護六角義賢の支援を受けついに立ち上がったらしい。
京では長慶の部将、松永兄弟と三好長逸が摂津・丹波から1万5000人の軍勢を引き連れて京都南部に布陣した。長慶自身も居城の摂津芥川山城から東寺に場所を移した。
義輝の手勢が瓜生山付近に出没すると、緊張が一層高まり、
それに対し三好軍は洛中で示威行軍を行い市街の警戒の強化に当たった。
膠着状態の中での戦闘は、両軍の位置が入れ替わっただけに終わったようだ。
9日に北白川で両軍が衝突、三好軍は義輝の奉公衆を70人ほど討ち取り勝利した。
(しょぼいなあ、ヤラセか?)
この後、戦線は再び膠着状態を見せた。
長慶は地盤の四国から軍勢を呼び寄せ、さらなる圧力をかけた。
その一方で、足利軍を後援している六角義賢との和睦交渉を開始した。
六角義賢は、三好勢の増援に戦局の不利を悟り和睦を進めていった。
六角義賢は北白川の戦いの後、『義輝と長慶の和睦を仲介する』と云うことで義輝を京に戻す事に成功した。
なんとか、上洛を果たし一応の面目を保ったが、戦に勝利を収められなかったことが課題となる。
今後の続くであろう、『三好との抗争を優位に進めるには、浅井を取り込むことが肝要である』として、かねてからの浅井賢政の元服に関して、追加の提案(通達)を申しつけてきた。
新九郎は観音寺城に出向き元服を行う。
烏帽子親は、六角家重臣、平井定武が勤める。
その際、平井定武と浅井新九郎は、親子の杯を交わす。
元服の後、すぐに祝言も執り行う。
祝言は、観音寺城は平井曲輪でおこなう。
というものだ。
完全に、新九郎(浅井家)を家臣の平井と同格、又はそれ以下であると内外に示そうという腹積もりだろう。
将軍を擁している為、強気でこうなったのだろう。
影の薄い浅井久政
「浅井殿、評定にございます。『いざ江北でござる!!』 急ぎ登城下さい。」
「赤尾清綱と磯野員昌か?ものものしい、いかがしたのだ。」
「我ら、これから評定を、開きますゆえご参加くだされ。」
「赤尾、磯野、いきなり何事ぞ!」
「評定でございます、若の将来を左右する大事な軍議をおこないます故」
「軍議だと?何処からか攻めてきたのか?どこと戦さをするというのだ。それに、若とは?」
「とりあえず、鐘の丸の評定の間にお越しください」
鬼のような形相の二人に殆どひきずられるように、軍議の席に引っ張り出される久政。
まるで罪人の様なぞんざいな扱いである。
「お前、ら……(まさか?あのことを知ってしまったのか?)」
軍議の席には多くの家臣、国人衆が、顔を見せていた。
すでに8割方は揃っていた。
一番に口を開いたのは、赤尾清綱だった。
「御一同、ご登城かたじけない。我ら浅井家を旗頭とする江北の国人衆一同は、六角ずれの支配下に10年という長い時間、領民の為、北近江の為に風下に甘んじて来た。しかし、我らは今度の六角義賢の通達には我慢ならん」
「そうじゃそうじゃ、折角の浅井の若の門出をないがしろにしようとは、六角めは横暴じゃ。」いつもは温厚な堀が声を荒げる。
「浅井を侮辱しょうという腹づもりだ」磯野より同意の声が上がる。
「若に一門では無くたかだか家臣の娘を、無理に押し付けようとするとは、舐めておるわ」安養寺氏種
「押しつけるのみならず、若様にわざわざ敵地観音寺の城に出向かせ、あまつさえ敵の家臣と親子の盃を交せとはいかなる料簡か。浅井は六角の犬(家臣)ではござらぬ」新庄直頼
「だいたい向こうが嫁入りするのじゃ、こっちは城で待つのが道理じゃ。」三田村国定
「浅井の若の元服にかこつけてやりたい放題じゃ。」弓削家澄
「六角は常識や道理と云うものを知らんのだ。」浅見道西
「百歩譲って平井めが小谷に来れば、良いだけのことだ。」百々盛実
浅井の宿将・武将が、各その不満をぶちまける。
「そなたらの存念はよくわかったが、ここで平井殿の娘を拒否すれば六角との戦さになるやもしれん。」
「殿!戦になるではありません、戦をするのです。」
「勝算はあるのか?(無理であろう?)」
「ございます。我らにかかれば六角など容易いものでござる。先だっての上洛戦も奴らわざわざ京まで赴きながら
右往左往しておったとのことでござる。」
「確かに戦では埒があかなかったらしいが」
「それに、若に総大将になっていただければ士気もあがるというもの」
「だから、しばし、待て。(何じゃこの新九郎人気?)まだ元服もしておらぬ猿夜叉丸を戦に出せるものか。いきなり戦さの差配などできぬぞ。」
「若は何もしなくともよろしゅうございます。ただいてさえくださればいいのです」
「しかし・・」
なおもいいつのろうとする家臣らを久政は、とりあえず止めた。
「あい、わかった。お主達の申し状。皆の総意じゃな?六角との開戦は許可する。じゃが、猿夜叉丸の初陣は別じゃ。儂も息子にはこんなゴタゴタさせずもっと良い戦場を用意してやりたいのでな。」
わざと新九郎の幼名を口にして自重を促そうとする久政。
「おお、そうじゃ」
「若の甲冑がまだじゃった」
「良き馬を探しているところじゃった。」
「御意にございます」
反論するものは誰もいない。
(ふう仕方が無い、とりあえず小競り合いにて、お茶を濁すしかあるまいて。)
「皆の者、敵は六角ぞ我に続け~、猿夜叉丸に吉報を届け酔うぞ。」
「お~っ」
こうして浅井の大将、久政は場当たり的に、戦を始めることとなってしまった。
かに見えた・・・。
ガラッ、扉が開き、雨森清貞(清次、秋貞)、遠藤直経が、評定の間に姿を現した。
そして、その後から悠然と浅井新九郎が、評定の席に乗り込んだ。
「馬鹿者!!なんの為に俺が六角に人質になっていたか、お主ら判らんか?
小谷の為じゃ、江北の為じゃ、皆を死なせとうない、農民達を苦しめとうない。
そうじゃから、恥辱を忍び我慢をした。」
「「「「若?」」」」
「お主らの大義はなんじゃ!!『江北を守ること、領民を守ること』じゃろ。つまらんことで粋がって戦争するつもりか?今、六角と戦ったら、たとい勝てたとしても将軍に弓引く謀反者じゃぞ?」
「六角、斉藤、朽木、若狭の武田。将軍家、細川、三好、松永、畠山に盟友朝倉までが敵になるわ。
そんな事すら判らんと何が軍議じゃ!!」雨森清貞が、すかさず現状を述べる。
「しかも、勝つ準備もできておらんではないか。」
「もちろん六角とは10年ぶりの戦になる。にもかかわらず事前の用意など出来てはいないでは、話にならんわ。」
あの遠藤が吠えた。
戦評定は、お流れと相成った。
勢いだけで北近江の浅井久政が六角領に対して侵攻できるはずがなかった。
― 京では低迷気味の義賢ではあるが、浅井相手に易々と勝利をおさめ名声を上げるだろう。そして当初のもくろみ通りに浅井氏を従属下に置く。
なんというか六角に上手く既定路線に乗せられたと言おうか。
どうせ『いくさ』をやるなら六角軍が上洛している隙を突けば良いのに…本気で怒らせると不味いか。
『お茶を濁すだけのいくさ』か、完全に向こうの思惑通りなんだろうな。
急襲したにもかかわらず事前に敵の伏兵が配備されていた、負けましたでは世話が無い。
遠藤と雨森のおかげで暴発を抑えられたから、被害が無かったのが幸いだけれど。
六角側が『無理な要求をして浅井方は手のひらの上で踊らされていただけ』の話だ、先が思いやられる。
浅井方はしばらくおお戦をおこなっていなかった為に、戦の勘が鈍っているのでは?危険なことだ。
国力が多少上がっても、そんな事は戦国の世界では通用しないという事をまざまざと知らされた。 ―
「本当に世の中ままならんものだな」
祐子に膝枕をしてもらいながら、愚痴をこぼした。
またもや父、久政は、いらん恥を家臣達にさらしてしまった。
俺を守る為だったようなので申し訳ないが、出来れば家臣の暴走を止めてもらいたかった。
もちろん俺だって、こんなあほらしい戦で初陣なんてゴメンである。
たとえ戦闘に勝っても、後が続かない。
経済の中心京・堺の交易からハブられるのだ、地味に死ぬわ。
確かに勝てば、俺なり浅井の名声は上がる。が、そんな甘い考えは危険だ、単純に負ける要素しかない。
俺的にはあのくだらない演説もアホらしいのだ。
今年は天候にも恵まれ豊作になったというのに、ちっとも喜べないではないか。
小谷に帰ってはや2年、それなりに成果を上げることが出来ていたのでこれからだと思っていたというのに……
浅井の若様。はツライよ
シンちゃん!!じいさま達に、愛されていますね。
(浅井の若君という人、若君という人のニュアンスが少し違います。)
ついにシンちゃんも元服を迎えます。
本当の意味で責任ある立場で、行動することとなります。




