次郎の想いは?
次郎が、国元へ手紙を送りました。
『 ― 父上様へ ―
拝啓
晩秋の候、いかがお過ごしでしょうか。
早いもので、あれから1年が経ちました。
直親殿のことにつきましては『もう過去の事』と笑えるようになった、今日この頃です。
私の心構えが未熟で、例の出来事について動揺してしまった事も『今は良い想い出』となりました。
敬愛できる主君にお会いできるきっかけと、アイなりました。
剣の腕を見込まれ、指南役として『かの君』にお仕え出きる事となったのは、偶然とは言え、縁が有ったからだと思います。
剣の指南は、私の性格もあり、少しばかり厳しい物となりました。
ですが、私の鍛錬にがむしゃらに食らいついてくる向上心があって、とても好感が持てました。
弱い自分を受け入れ、強くなろうと藻掻き苦しんで……、
さらに、自分を高めようとしている我が君。
その心意気に惹かれたといえましょう。
必ずや良い領主になるだろうと思います。いえ、私がそういたします。
若の傅役、雨森弥左衛門秋貞殿の格別なお計らいで、『若君』に正式にお仕えできることになった時には
うれしさのあまり、頬をつねったほどです。
さらなる鍛錬を課し、組み手の方もご指導いたしました。
将来は、お家を背負うお方ですから、忍びからの不意の仕掛けにも遅れを取らないよう。
徹底的にご指導いたしました。
実践的な指導のおかげか、若君の想いが勝ったのか、この頃では私の方が組み敷かれるまでの御成長遊ばれました。末恐ろしい逸材です。
「民を思い、国を愛する』優しいご主人様にお仕えできる事を、改めてここに御報告いたします。
井伊の谷もこれから寒くなる頃合いですが、どうかお風邪など召されませんように。
それでは、またお便りいたします。
ご健勝で。
― 次郎法師より ― かしこ 』
井伊家の当主、井伊直盛の処に手紙が届いた。
出奔した跡取りからの手紙であった。
微妙に判りにくい文面だが、主を得て元気にやっているらしい。
「は~、致し方があるまいて」
女連れで帰ってきた直親に、直盛とて思うところがない訳ではない。
「元気でやっているんであれば、それで良かろう。
せめて次郎法師の子に井伊家を継がせたかったが……。
まあこうとなっては、本当に致し方があるまいて。親としてせめて幸せを願ってやろう」
傍で手紙をのぞき込んでくる妻に手紙を渡しながら、溜息をついた。
一方、直盛の妻(椿の方)は、次郎の報告を読み解いて、微笑んだ。
「あの子も幸せを掴んだようですね……」
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
《椿の方による、行間解説付き》
『 ― 父上様へ (自分勝手なお父様へ) ―
拝啓(やっほ~)
晩秋の候、いかがお過ごしでしょうか。(一応ご挨拶いたします。私も大人ですから。)
早いもので、あれから1年が経ちました。
(羽を伸ばして清々しています。)
直親殿のことにつきましては『もう過去の事』と笑えるようになった今日この頃です。
(あんな薄情なヤツなど知りません!綺麗さっぱりと忘れました)
私の心構えが未熟で、例の出来事について動揺してしまった事も『今は良い想い出』となりました。
(娘を男扱いする家から逃げ出して正解でした。)
敬愛できる主君にお会いできるきっかけと、アイなりました。
(敬愛できるやしゃ君に出会えたし、愛が成就いたしました。)
剣の腕を見込まれ、指南役として『かの君』(見つけた獲物)にお仕え出きる事となったのは、偶然とは言え、縁が有ったからだと思います。
(恋愛はご縁ですね~。ショタですがなにか?)
剣の指南は、私の性格もあり、少しばかり厳しい物となりました。
(井伊家式恋愛法でアメとムチです)
ですが、私の鍛錬にがむしゃらに食らいついてくる向上心があって、とても好感が持てました。
(ふふふ、効いてる効いてる。うふふ)
弱い自分を受け入れ、強くなろうと藻掻き苦しんで……、
(思惑通り、ニヤッ)
さらに、自分を高めようとしている我が君。
(私のやしゃ君、本当に逸材でした。)
その心意気に惹かれたといえましょう。
(私の方が好きになりました。惚れてまうわ~)
必ずや良い領主になるだろうと思います。いえ、私がそういたします。
(よき領主に仕立て上げて、玉の輿です。お母様から聞いた逆源氏計画です。)
若の傅役、雨森弥左衛門秋貞殿の格別なお計らいで、『若君』に正式にお仕えできることになった時には、うれしさのあまり、頬をつねったほどです。
(傅役とはいえ、男なんてチョロいものです。でも、うれし~夢じゃない。)
さらなる鍛錬を課し、組み手の方もご指導いたしました。
(既成事実作りのための下準備も行います。ショタと、直に絡むのは、もうたまりません)
将来は、お家を背負うお方ですから、忍びの不意の仕掛けにも遅れを取らないよう。徹底的にご指導いたしました。
(おんなの事を教えてあげましょう。プライベートレッスンです。)
実践的な指導のおかげか、若君の想いが勝ったのか、この頃では私の方が組み敷かれるまでの御成長遊ばれました。末恐ろしい逸材です。
(勢いあまって最後の一線まで越えてしまいました。てへ、ペロ。)
「民を思い、国を愛する』優しいご主人様にお仕えできる事を、改めてここに御報告いたします。
(優良物件と『ゴールイン』いたします。私、幸せになりますね、お母様!)
井伊の谷もこれから寒くなる頃合いですが、どうかお風邪など召されませんように。
(井伊谷も良いですが、せめてお母様だけでも来て下さいね。お待ちイタしております。
あ、このイタしては、別に若君とイタしてじゃなくって、さらに籠絡とかではないですよ~、
お母様は深読みしすぎです。)
それでは、またお便りいたします。
(ばいび~)
ご健勝で。
(こちらはお肌ツヤツヤですよ~)
― 次郎法師より ―
(祐子より、幸せの御報告でした。)
かしこ
(じゃあね~お母さん、また報告するわ~) 』
実直な直盛は行間を読まないが…、椿の方は、行間を深読みしすぎる人だった。
椿の方は、腐女子の素質がありそうですね。
でもこのぐらいに行間を読めれば、六法全書でも楽しく読めそうです。
あくまで椿の方の解釈です。
直虎には、ここまでの「黒い想い」はありません。
弟として、弟子として、主君として、まるで我が子の如く愛を捧げます。
直虎のおかげで、新九郎は『井伊直政』のように立派に成長いたします。
いや~、甘ったれた「やしゃ君」を鍛えられるのは、やはりこの人しかいませんね。




