つかの間の平穏、の影で。
新九郎は、それなりに前向きに進んでいます。
北近江は一応安定しているらしい。
とはいえ、今後マジ危ないんだから、今のうちに内政に励んで国力をつけて欲しいものだ。
まずは国力増強が最優先だ、近江は比較的食料の生産量には余裕がある。
戦国時代は食糧不足による収奪と口減らしという側面があったらしいが、
近江には、そこまでの深刻さはないようだ。
ただ、京という巨大な消費地を傍に抱える以上、食糧問題は最重要課題である。
食料の備蓄、ひえ、あわ、そばなどを栽培し飢饉に備える。
木材の伐採、炭(木酢液)の生産
山岳部の農地の開墾と炭焼き
植林、栗、果樹を植える。
伊吹山の薬草の調査
この辺りについてはそれほど技術的な問題はあるまい、爺を通して国元の家老に丸投げしておこう。
あの父上でも内政に関してはそれなりの評価があったはずだし、少しは期待したい。
まあ、考えているとは思うが、一応確認しておいてもらおう。
養蚕は江戸時代からの長浜の特産だが、環境的には問題なく作れるだろうから、製造法の確認と桑の木の植林を指示しておくか。
確か蚕の糞もアレに使えたらしい。
雨森弥左衛門秋貞(爺)が国元に話をつけてくれたおかげで
さらに研究の為の人材を数名ゲットした、雨の森の秘密基地で実験だ。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
俺も12歳だし、そろそろ元服も近づいてきたかな?
現状としては。
京の支配勢力は足利将軍家、細川から三好、松永へと移っているが、
畠山、波多野、若狭の武田を加え未だ混沌としている
将軍義晴公を迎え入れた定頼公の時のような勢いが今の六角には無いのかもしれない。
まあ、義賢様は本心では、あまり京に興味が無いみたいだからな。
敢えて危険な京には手を出さずに影響力のみ最大に行使、商売は順調、おいしいポジションだ。
三好と対決するには背中がねぇ~。
京へ動く為には、江北の浅井がどうしても気になるのだろう。
父、久政は穏健であるが、浅井の将は雪国気質だし、武辺者も案外多くいるからな。
温暖な江南の商人気質とは又違うのさ。
話はまったく変わるが……、
最近、お雪や縁が、妙に色気づいてきたような気がする。
事ある毎に肩を寄せたり、手を繋いだり、軽いスキンシップをしてくる。
祐子姉の影響だろうか?ひょっとして対抗心を燃やしているのかな?
屋敷が変わり、別に暮らす縁は気づいてないかもしれないが、
同じ屋敷に住むお雪は、俺と祐子姉がたまに仲良くしているのに気づいたかもしれん。
乳兄妹だし、気づかないはず無いか。
そうこう思案している間に、湯殿で身をぬぐってもらう際、お雪に抱きつかれ、あせってしまった……。
お雪を立てれば、縁も立ててないといけない。
女の嫉妬は恐ろしいからな。
とはいえ、他家の子女を抱くわけにはいかないから、やさしい態度でお茶を濁している。
城下に誘ったり贈り物をしたり、歌を贈ったりだ。
なんだか淡い恋っていう感じで、照れくさいもんだ。
肩を寄せ仲良く手をつなぎ(気付いてはいないだろうが恋人つなぎである)
歩く姿を二つの影が見ていた。
城下の視察に平井家里屋敷を訪れていた、六角家の当主六角義賢とその重臣平井定武だ。
「あの二人はずいぶんと仲が良いな」
「御意」
「さて、平井、浅井の小倅どうする?」
「取り込みは、順調かと?(このままで、いいんじゃないっすか~)」
「それはいい。どうじゃ、やはりその方の娘と仲が良いようだ。嫁にやってはどうだ?」
「う、まだ早いでござる」
思わず顔をしかめる重臣に笑う義賢
いつの世も、いつまでたっても父親は娘離れが苦手であるようだ。
「浅井の嫡子が六角の重臣平井の娘と恋仲であるのなら、浅井も納得しよう」
「しかし、浅井久政はともかく浅井の家中は武骨者です。六角の支配下に来るのを、甘んじて受け入れるのを嫌う者も多うございます」
「ふーむ。それならば猿夜叉丸を一度『小谷』に返してやるか」
「折角の人質をですか?」
「さすがに十数年もおれば人質の意味が薄かろう? 何せまだ一度も江北の地を踏んではおらんのだからな。うっかりしていると、弟を次期当主に据える勢力が出かねんぞ」
「確かにそれは避けたいところです。浅井で育った当主など、まさに六角の敵にしかなりません」
「そうじゃ、浅井の嫡子は六角の平井に懐いておるしのう」
「猿夜叉丸が後を継いだ方が都合がいいのは、もちろん判りますが…、返してしまっては何かと…(寂しいです)」
「定期的に観音寺城へ来させれば良いではないか?それに、離れ離れになればこそ、燃えよう。猿夜叉丸を、ご執心な娘を嫁にするのも可能ではないか、ん?」
「はあ」
「それに仮に、人質が必要ならば弟をさしださせたほうが多少は愛着がある分、久政めにも有効であろう?」
「確かにそうでございますな」
「久政は家臣に舐められておるし、利発な嫡子を返してやれば、皆、将来性のある猿夜叉丸の元に集うだろう」
「ご慧眼です」
「という事でゆくゆくは、首輪に鈴をつける意味でも、そなたの娘をつけねばの」
「ははっ」
ん、ようやく話が動き出しそうです(笑)
今だ大人からは、猿夜叉丸扱いされている新九郎です。




