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長政はつらいよっ!弱小浅井はハードすぎ!!  作者: 山田ひさまさ
~ 秩序を取り戻すために ~
111/111

『小谷にて』

長政を待つ、小谷の様子です。

『小谷にて』



”バシッ” ”びしっ”


”バンバン” ”ずどびゅう”


道場の中、はげしい竹刀の打ち合いが響く。



”ずだ~ん”

「まっ、参りました」


もろに竹刀を食らってひっくり返ってしまった。


「むう」

”ばっしーん”


「いてて、ひどいですお母さま」

頭をさすりながら抗議する。ありゃりゃ、稽古着が破れちゃったよ。


「虎丸、師匠と呼びなさい。親子の情など無用です」

凛とした出で立ちで、姿勢を崩さない師匠おかあさま

こりゃぁさっさと立ち上がらないと、滅多打ちにされるな。仕方がないここは、弁舌を使おう。


「はあ、はあ。そこはそれ、かわいい息子なのだから手加減してください」

息を整え、話で母の気を逸らす。お母様は意外と単純だからな。


「何を甘いことを、戦場で命乞いなど井伊家の次代として許しません!」

あれ? さらに威圧感が増してしまった。


「いや、ここは稽古場ですし……」

(弁舌が効かないだと)


「虎。いつの間にやら、口が達者になったようですね、誰の影響です?」

きつい眼差しで射すくめられちゃったよ。ははうえ~っ、実の息子に向けていい目じゃないよそれ。


「じ、陣内かな~?」

あいつならば生贄にちょうどいい、俺はとっさに答えた。


「ほほう、あの者が弁が立つというのですか?」


「つ、鶴千代です」

(すまん鶴千代ゆるせ)

鶴千代は、六角騒動のおりに引き取られた蒲生(氏郷)鶴千代のことである。

俺の片腕になる人材として、御父様から直々に僕の配下につけていただいた。


「はあ、素直にそういえばよろしいのです」

呆れたと言わんばかりに竹刀をおさめてくれた。


「はいすみません」

(は~っ、命拾いしたよ)


目の前で凄んでいるのが、祐お母様だ。


 僕の母上は、普段はなぜだか? おじろうさんだ。

皆から、次郎と呼ばれて頼りにされている。とっても強くてかっこいいへんじんなんだ。

城下へお出かけする際、綾姫様、縁様、泰華殿にお雪さん。お母様たちはみんな頼りにしているよ。


「「「「次郎さんがいれば安心だ」」」」といっている。




 そうなんだ僕には、お母様が大勢いる。

普通はひとりなんだそうだ、それってさびしいよね。僕は恵まれているなあ。


 御父上なんて、ご幼少のみぎりよりお母さまと離れ離れに暮らしていたそうだ。

だから、『家族みんな仲良くしなさい』と、事あるごとに言われている。


5歳のころ我儘を言って2か月も山寺に預けられた時は、本当に泣いてしまったよ。




 僕は、井伊 夜叉法師 

お母さまから、虎のように強くなれと、『虎丸』と呼ばれている。


今年7歳になる。

本格的な鍛錬を始めたところだぞ。

先ほどは、はは……、いや師匠に稽古をつけてもらっていた。


 稽古は厳しいけれど、それが終わったらとっても優しくしてくれるんだ。

なんでも、井伊家流”アメとムチ”というらしい、よくわからないけれど御父上と同じ修練法だそうだ。

効果は絶大だそうだから、きっと強くなれると思う。

お母さまも、「虎は筋がイイから先が楽しみだ」と言ってくれるよ。


御父上からも、「済まぬな、やしゃ……いや虎、頑張れよ」と励ましていただいた。

その上に、なんと脇差までいただいた。うれしいな。


母上とお祖父様は、それを知って。

「浅井の剣となり盾となれ!」

と、多大な期待を寄せていただいた。長男だからとっても信頼されているよ。


浅井を支える井伊家の次代として、精進したいなあ。

御父様おとうさまや、直盛おじい様みたいに恰好よくなれるかな。


よ~し、もうひと頑張りしちゃうぞ。



 え、なんでそんなに浮かれているかって、そりゃそうさ。

もうすぐ御父様が小谷・長浜に返ってくるんだ。


いま城下総出で、お殿様を迎える準備をしているよ。

城内も家臣のみんなが、そわそわしている。


宿老とか言われている”じっちゃんたち”に至っては、すでに宴会の準備と称して飲み始めているよ。

今年もいい酒ができたそうだ。



兄弟たちと一緒にお出迎えをしないとな。


同い年の那月姉なつきねえと、一つ下のはなが、母様たちに混じって正月の衣装の支度をしている。

気が早いと思うな。


5つ下の愛姫あい、6つ下の、嫡男長浜丸さま。それに、蔵良くららゆめ

そして、生まれたばかりの長寿丸殿がいるけれど、みんな乳母たちが世話をしている。

まだ一緒に遊ぶのは早いかな。

絵札遊トランプびとかは、愛姫たちにはまだ早そうだし。

つまんねえな。


 そう思ってひとりたそがれていると、部屋の片隅にあたらしいおもちゃがあった。

お正月用の贈り物だろうな。ほんと御父上もマメだな。

物色してみるとその中には、凧、メンコ、おはじき、福笑いなどがあった。


 年末に一人でさみしく凧を上げるのも、滑稽だ。

俺は迷わず福笑いを選んだ。

面白そうな福笑いだし、別に一人でもできる。でもそういう問題ではない。


 ひとり仲間はずれも寂しいので、俺は愛姫と福笑いをした。まだお正月じゃないけれど別にいいよね。

まだ幼い愛は最初はなんだか判らなかったみたいだが、それが顔であると気づくと興味を持ってくれた。

「意外と面白いな」

思わず熱中してしまった。


「あはは」「ホホ」

愛姫は、お母様に似て笑い方がお上品なんだよな。

母様じろうとは大違いだ。


御父様が友松に作らせた、『おもしろ福笑い』はとんでもなく面白かった。

これ絶対流行るわ。


知らないうちに、那月姉と、華も加わっていた。

兄弟仲良く福笑いを楽しんだ。


「「「御父様、早く帰ってこないかな!」」」


「ねえ見て」

何かを見つけたのか華が指差す。


「「「雪だ!!」」」


窓の外には、雪がチラチラと舞っていた。


「「「つもるかな~?」」」



~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~



「はっくしょ~ん」


「おや、殿。風邪でござるか?」

出迎えてくれた、安養寺、大野木が心配する。


「大丈夫だ」


「いけません早く小谷に帰って温泉に入りませぬと」

「ささ、殿。皆が待っておりますゆえ」


「おいこら、宴会は晦日にしろ! 俺はしろにかえるぞ~」


「ははは、何をおっしゃいますやら。皆さま待ちかねておりまするぞ」

「「「ささ、こちらへ!!」」」


「はなせ~」


くして、小谷城下須賀谷の夜はにぎやかに更けてゆくのであった。


みな、雪見酒と洒落込んだそうな。




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