表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長政はつらいよっ!弱小浅井はハードすぎ!!  作者: 山田ひさまさ
~ 秩序を取り戻すために ~
109/111

『戦のあとで 三好との攻防』

長政視点で、淀の戦いのあとの頃を語ります




『戦のあとで 三好との攻防』



 淀の戦いの勝利によって、将軍擁立を巡る両陣営の争いの行方ゆくえは三好勢に大きく傾いた。

洛南に展開する三好勢が、洛中を守る浅井を圧迫する様相を見せていた。


「昔ならば、もうとっくに決着がついていただろうな」

俺は、傍らに控える海北友松に話しかけた。


「浅井家、松永・内藤、それに畠山殿が健在です。未だ互角以上ではないでしょうか?」


 俺の発言を弱気と捉えた友松が、俺を力づけようと意見する。

小谷にいた友松は、自分宛てに届いた書状を見て慌てて駆けつけて来たからな。

確かに、こちらもいまだに勢力を保持している。だが……。


「友松よ、そう単純ではないぞ、将軍よしあきを立てた朝倉が敗れた以上、情勢は明らかに三好に有利だ」


「そうでしょうか? 京の都を押さえている浅井家が義秋様についている以上、負けることなど考えにくいのですが……」


「浅井は負けぬ。 しかし、飾りとはいえ戦に弱い将軍に誰が付いていくか? この様な事態の場合、義秋公がもともと武家ではなく(元)僧侶であるのが具合が悪い」


「確かにそう言われればそうですね、『平島公方と寺の僧侶ですか』そう考えると、確かに問題ですね」


「頭がいたいわ。」


「いっそのこと、義秋公を見捨てますか?」

「見捨てるもなにも、居所が判らん。三淵藤英や細川藤孝までが探している。逃げたのではないと思うが」


「まったく困ったことですね」


「公家の方々も、朝倉の遁走に動揺しているようだからな。とりあえず茶会でも開きたいのだ」


「はっ、仰せつかったものは、確かにお持ちいたしました」

友松は、茶器が入っているであろう風呂敷づつみを掲げて見せる。彼の後ろには多くのつづらが積まれている。

何とか公家衆の動揺を最小限に抑えたい。こいつら風流組だけが頼りである。


「そうか、後は三好の出方を伺いながら何とか落とし所を見つけなければな」

「と言いますと?」


「義栄公、義秋公どちらを将軍に担ぐにしても、なるべく穏便にしたいんだ」

「なるほど」


「義秋公を副将軍、もしくは越前公方に据えて和議を結ぶ形で、義栄公を将軍に立てても構わん」


 俺は、取り急ぎ修正した構想の一部を打ち明ける。

「そのようなことまで、お考えだったとは」


「義秋公の不在も、そう長くは隠せないだろう」

このままでは、義秋公の政治生命は終わってしまうと言っても過言ではない。


「どちらに往かれたのでしょうね?」

「俺にも判らん」



 とりあえず、洛中の動揺を抑えるべく手を打っている。


 浅井軍は、山科・嵐山に駐留させた。

また御土居の建設と称して、黒鍬衆を洛内に入れている。


松永・内藤軍は、一旦兵を大和・丹波へと引き上げている。

畠山殿には、引き続き摂津・河内に睨みを聞かせてもらっているが、少々きつくなってきている。



 畿内の国人衆の動揺は大きい。

まあ当然だろう。

主力たる朝倉軍が潰走してしまった以上、三好軍が戦場において有利なのは、誰の目から見ても明らかなのだ。


いずれは、三好に与するものが、大勢現れるだろう。


「頭がいたいぜ」


他にも懸念はある。


 どうやら若狭武田家を主導している沼田祐光の一派が、若狭の独立を画策している模様だ。

義兄のところまで飛び火をしないといいが、心配だ。

姉上を通じて、それとなく伝えておこう。


堺も、三好を表面上は受け入れているようだ。

もともと昔から三好家とのつながりは深いから、もしかすると靡くかも知れないな。


丹波は、再び群雄割拠の様相を見せ始めている。赤井辺りが真っ先に動くかな。


本願寺が浅井に対して好意的なのが、せめてもの慰めだ。

その代わりに、比叡山延暦寺と興福寺が不満そうだが、なんとか中立を保ってくれている。



そう思っていた。




― 義栄擁立 ―



そんな薄氷を踏むような、息の詰まる情勢がしばらく続いていた。


11月11日


 突如、比叡山延暦寺、興福寺・春日大社。ほか多くの有力寺院が、足利義栄公の擁立を支援することを表明した。

いきなりの発表に、畿内にある多くの寺が騒然とした。


 浄土真宗・浄土宗以外の多くの宗派が、その流れに乗り始めた。

伊勢長島の顛末を聞いたのだろうか?

彼らの目には、浅井家が本願寺に肩入れしていると映ったようだ。



 そして、意外な事実が明らかにされた。

なんと、義秋公は興福寺で筒井家に捕らわれているというのだ。 

大戦おおいくさの最中に、のこのこと興福寺へと出掛けていたらしい。


俺は頭を抱えた。

「あり得ない、義秋殿は何も考えていないのか?」


「考えていないんじゃないでしょうか」

側近として控えている長親が、呆れた口調で俺に同意する。


「上洛軍に松永久秀じいさまがいる以上、筒井順慶は三好に付くと思わないのか?」


「思うも何も、あのふたり思いっきり敵対していましたよ」

小姓として控える高虎までもが、呆れ声で大和の状勢を補足した。


「だよな」



 数日後。

興福寺において、足利義晴の次子.足利義秋は、将軍位継承権の放棄を宣言した。

そして、再び興福寺一乗院門跡の覚慶として出家したのであった。



 万事休す!


 これで、将軍職を継ぐものは、足利義栄となった。

洛中に入る義栄公の御一行を、指をくわえて迎え入れるしかなかった。


11月末日、すでに任官許可が出されていた足利義栄は、京へ入り正式に従五位下左馬頭に叙任された。



天下の趨勢は、三好に決まったと思われた。



 しかし、禁裏は、本年は大きな戦があったので慶事にふさわしくないこと。

また、御所・清涼殿の修築が未だ完了されておらず、将軍宣下を来年以降にしたいこと。

加えて、献金額・朝廷に対する誠意が不足している。

と判断し、『将軍になるには時期尚早である』と表明した。


 つまり朝廷は、義栄に対して左馬頭だけ正式に叙任して、将軍宣下を保留としたのだ。

また足利義栄を推す勢力に対しても、さらなる献金を要求した。

(やってくれるぜ)


 しかしそれとは別に、

正月の春の除目で盛大に ”将軍宣下” が行われるのではないか? 

公家衆は、今のうちに多くの献金を得ようと必死なのだ。

という憶測が畿内各地で流れた。



 朝廷の強気な態度に、三好家、三好派の大名・国人、寺社は戸惑いを覚えた。

京の南を三好勢2万余が陣を構え、ゆっくりと北上する姿勢を見せ、朝廷に圧力をかけてくる。


 対して浅井家1万は、洛中、嵐山、鞍馬口、そして山科に陣を構え静かに睨み合っていた。

朝倉が逃げ去るという急な事態に対し兵力を増員したものの、劣勢は否めない。

それに、俺自身一大決戦をするつもりはない。



 俺は、東寺近くの仮陣屋で警備部隊の指揮を取っている。

「朝廷は、またずいぶんと強気だな」


「背後に長政様がいるからですよ」

「左様でござるな」


 長親の言い草では、まるで俺が黒幕のようではないか。

それに直経、お前までヒドいじゃないか。同意していないで、不敬罪で岩男をぶん殴れよ。


まあ、このふたりが傍に控えてくれているだけで心強い。


 この事態に直経が俺の側にいるのはおかしいかと思うが、下手に暴走されてはたまらないしな。

いざという時は、確実に俺を守ってくれる頼りになる男なのだ。



「正直こわいな」

 俺だってただの人間だ、怖くなるのも仕方がないだろう。

このような脆弱な陣など、本気で攻撃されればすぐに蹂躙されてしまうだろう。


 京の町中で戦をするわけにはいかない。浅井の本隊は洛外に展開中だ。

あくまでも、相手が手を出してこないことを想定した布陣なのだ。

仮に何処かの戦線が破られれば、公家衆を引き連れ京からトンズラせねばならん。



何をかくそう、春の除目のことをそれとなくリークらしたのは俺である。


「あまり追い詰めてしまっても困るからな」


「さすがは殿でござる」

「相変わらずの腹黒ですね」




運命のときが、刻一刻と迫っていた。




『 なろう作家? になって、トクしたこと 』

おかげさまで、思ったより多くのかたから感想をいただきました。

今後の執筆の励みになります。


ありがとうございました。


                   ひさまさ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ