『新たなる秩序を求めて』
政治パートです、少しばかり過去にさかのぼり、また現在へと帰ってきます。
京の都で、長政が何をしていたのかを見てみましょう。
『新たなる秩序を求めて』
― 長政君の京でのお仕事 ―
俺は京都守護職に就任し、京の都の警護のために見廻組を組織した。
見栄えのする衣装を着せ、整然と市街を巡回させた。
それにより、目に見えて治安は良くなっていった。
とはいえ、
ただ、それだけでは不十分である。
昔はじめて上洛をした頃は、京の都は、町を守る防衛施設によって、上京と下京が別れていた。
つまり、戦火によって焼かれてしまった為に、小さな町がなんとか二つ残っている状態だった。
近年は俺の活躍もあり復興の兆しがあったものの、将軍義輝公が亡くなった永禄の変で、またもや兵火に見舞われた。
その後、足利義栄を将軍につけようとした三好家が内裏の修築をしていたが、それも朝倉の上洛によって中断している。
つまり、京の町を整然とした都市計画の元に復興させるのは、俺の仕事であるということだ。
やりがいはあるが、頭が痛い話である。
まずは、洛中と洛外を分ける御土居を作らねばならないだろう。
これは、京の都の防衛の観点からも急務である。京は守りにくい土地なのだ。
とはいっても、そんなことにまで俺が金を出すというのも困る。
内裏等の修築、各施設の復興。また政策面でも、貧民・窮民対策が必要だ。
長期的には、河川の改修も視野に入れなければならない。
いくら金があっても足りないし、俺が出すのも理不尽である。
とはいえ、朝廷に金があるはずも無い。
そもそも、もしそんな金があったならば、お公家さんたちは、俺と口をきくことさえなかっただろう。
彼らは、殿上人なのだから。
まあ、俺も今では殿上人なのだが、昇殿してもたいして嬉しいことはない。
「やれやれ、何とかしないとな」
浅井家が損をしないお金の儲け方か……。
こんな話、岩男や友松にはできないな。
というわけで、金のなる木を育てることにしたのだった。
とりあえずは、信頼できるおふたりに俺の案を聞いてもらおうと思う。
もちろん、関白.近衛前久卿とお公家さんこと山科言継卿だ。
俺の動きがばれるとまずいので、山科言継卿に本国寺まで来ていただき、彼の牛車に乗って近衛家へと向かった。
”がらがらがら” と牛車は、京のまちなかをゆっくりと進んでいく。
俺はとても後悔した。しまったなあ、馬を飛ばしたほうが早かった。
のんびり進む牛車では、俺の調子が狂いそうだ。(あ~イライラする。)
お公家さんが、ビビってる。俺を避けるように、かなり端の方に逃げていらっしゃる。
(だって~仕方が無いじゃないか~、そろそろ我慢の限界だぞ。)
とまあ、そんなことがありながらも無事に近衛家のお屋敷に到着した。
俺が援助をしているおかげで、近衛家の財務状態はかなり良くなっている。
ほかの公家衆からいらぬ嫉妬を買わない程度に、屋敷も改修している。
立派な平安調の寝殿造りの屋敷である。 部屋のどこからか、ひょっこりと光源氏が出てきそうだ。
そのとある一室に集まった。
他の公家衆を招かない部屋なのだろうか、前久殿の趣味が全開していた。
「いかがかな、淡海殿」
「まこと結構でございまするなぁ」
多少、行き過ぎているかなとは思うが黙っておこう。
前久殿は、満足そうな笑顔を満面にうかべている。
……まあ、居心地はそれなりに良いので我慢しよう。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
まずは現状把握からである。
現在の朝廷の財源は、ズバリ! 官位(位階・官職)の販売である。
正直な話、これしかない。 笑える。
有力な公家はマシだが、荘園の上がりもほとんど無いという。
あとは各家庭が、姫をどこぞの馬の骨に嫁に売るぐらいだ。
人ごとではあるが、流石に泣けてくる。
そこで俺は考えた。
俺が考える財源は、ズバリ。 位階・官職の販売である。
「え、同じではないかって? 同じですよ、それしかないですから」
「ふざけておるのか」
「まじめに考えて欲しいのう長政殿」
といわれるのも仕方が無い、ようは発想の転換だ。
ちまちま位階・官職を売っていても仕方が無いので、俺はとある計画を打ち明けた。
「関白様、言継卿。 今、官位の需要がそれほど無いのは何故だか、お考えになったことは御座いますか?」
「むむっ、最近で代替わりをした有力どころは毛利と三好ぐらいかのう?」
「さようでおじゃるな、後は先日将軍がらみで巻き上げたくらいですな?」
「そうです、それではあまりドカンとは、儲からないでしょう?」
「そうじゃな、戦続きで皆渋っておるからの」
「そもそも戦の資金と、朝廷への奉公のどちらを優先すべきなのか考えるなど、そこが間違っております」
「そうはいっても、仕方あるまい」
「皆、お家の事情があるゆえのう」
ふたかたとも諦めきった表情だ。
「そのように、朝廷がないがしろにされるのには原因がございます」
「何じゃと?」
「それは何でおじゃる」
先ほどとは違い、身を乗り出して話に食いついてきた。
ちょっと、顔が近すぎます!
「それは何故か?、それは、むやみやたらな官途状の発給が原因で御座います」
「むっ」
「官途状か?」
「ええ、身分卑しき者ですら、皆。なんとか右衛門、何何介を名乗っております」
「うむ」
「そうじゃの」
「このようなことでは、秩序は保てますまい」
「で」
「どうするのじゃ」
「ですから、そこを見直すべきなのです」
俺が、おふたかたに提案したもの。
それは……、
『受領名の横行によって、国司ほか官職の地位が著しく低下した』として官途状を廃止することだ。
この時代、○○の守とか××の介といった官職の大半は私称である。
とはいえ、まったく勝手に名乗っているのかといえば、そうでもない。
守護が、官途状なる許可書を発行しているのだ。
つまり、褒美をけちるために、朝廷の唯一の財源すら彼らは奪っていたのである。
またそれを貰った家臣たちは、ありがたがって代々大事に守っているのだ。
例外といえば、守護大名や大大名が他の家との差別化を図るために、朝廷から正式に位階・官職を得る時くらいなのだ。
あとは嫡子の元服の箔付けだろうか。
まあ、そういうわけで、そこのところをバッサリとやっちゃおうという訳だ。
俺は正式に官位をもらっているからな、実害がないのだ。
それにこういうことは、将軍不在の折が一番やりやすい。
何せ、将軍候補といえど、将軍宣下を受けて正式に任官するまでは、何の政治的根拠がないのだ。
もちろん力がある将軍候補相手には無理な相談だが、幸い今は、候補がふたりいて勢力が割れている。
この時期ならば、他の守護たちも文句が言いにくいだろう。
多少の融通を聞いてやれば、余計な口も出すまい。
『千載一遇の好機である』
そう認識している。 というか、俺がそうさせた。
「もちろん、色々と課題が御座いますし、反発もありましょう。しかし、手をこまねいていては物事は悪くなるばかりですぞ」
俺は、さらにたたみこむように続ける。
「今が最大の好機なのです。ひとたび将軍が決まってしまえば、もはやそれまでですぞ」
「確かにな」
「長政殿のいうとおりやも知れぬ」
どうやら納得していただけたようだ。
先だっての、左馬頭任官さわぎで三好と朝倉を手玉にとったことが自信になったのか、反応は良さそうだ。
とはいえ不安材料がない訳ではない。武家からの反発は、避けられないだろう。
もちろん、不満を受け流すことも考えている、むやみに敵は作りたくないからな。
「とはいえむやみに混乱を招くのもよろしくありません」
「うむ」
近衛様の方は、よく考えたら当然のことと考えていらっしゃるようだ。
「そうじゃな」
山科卿が、あからさまに安心している。やはり懸念しているのだな。
「ですから段階を踏まえて、まずは国の司から改めましょう」
「「段階を踏むのじゃな」」
「ええ、主君が率先して官職を買えば、下の者もそれに習うしかないでしょう」
「やれやれ身もふたもないのう」
「まったく、大名の位階はともかく地下人にまで官職を売りはらうとは」
おふたかたとも呆れていらっしゃる。
「実際、身もふたもないです。霞を食べて生きられるならそれも良いでしょうが……」
「仙人ではないのだから、そうはいかんのう」
「先立つものは、必要じゃ」
ふたりとも身分があるにも関わらず、かなり苦労しているようだ。
俺は、とりあえず、不満をそらすための過渡期の対策として……。
”先の”、”前”を付けて呼ぶことを採用した。 何しろ先例があるからな。
『これは混乱を避けるための温情である』と、公表するのだ。
たとえば、『先の美濃守』とか、『美濃の前司』とかだ。
”信濃前司行長”とか、聞いたことあるだろう? まさにそれなのだ。
一応、官職があって偉そうだが、実はプータローという事だ。
まあ、この方の場合はちゃんとした国司のはずだったから、位階を保持している分、偉いと思うが。
「元銀行員」とか、「前職は警察官でした」とかである。うさんくさい。
”今、何してんだよ!”
ありていに言えば、前市長とか、元国会議員である。
”おまえ、もしかして……落選したんじゃないんか!”
そういえば判るだろう? これは、ある意味大名としては”恥ずかしい罰”なのだよ。
それに気づけば、位階・官職を買わざるを得まい。
というわけで、俺が率先して位階・官職を買おうと思う。
早急に金を振り込まないと、公家衆が文字通り干からびてしまう。
家臣にも、随時官位を買うようにすすめるとしよう。
まあ、官職の方は、俺が一括購入して恩賞代わりに渡すんだけれどな。
とりあえず、妙案を出した代わりに格安で奴らの官職を購入しよう。
どうせ元手はタダだしな。
それと平行して、大名家の家系の再調査を行おうと思う。これは、松平とかの嘘の報告を防ぐためである。
「あ~、いそがしい、いそがしい」
という訳で、目下の所、関白様・お公家さんと共謀して、新たな位階・官職を割り当てる素案を作成している。
浅井家の分を、先に確保しておきたいからな。
「長政よ、本当におまえの目の付け所には驚かされるわい」
「いえいえ、たまたま巡り合わせが良かっただけでございます。義兄上」
「ふふふ」
「しかし、考えたものじゃな麻呂達には思いも付かぬわ」
「岡目八目というヤツですよ、たいしたことは御座いません。言継卿」
「「「ひとまず酒宴と行きますかな」」」
京の秋は、なんとも風情がある。
しかし、季節は足早に過ぎてゆき、やがてさむい冬がやって来る。
明日はいよいよ、”アートインながはま”開催です。
題名ではございません。
長浜の行事です。