『久政じゃ!!』
浅井家が、信長と対立をした時のお話。
今回は、ご隠居(久政)視点でお送りいたします。
多少ウザイです。
『久政じゃ!!』
― 歴史秘話.旧勢力の暗躍 ―
これは、尾張上4郡が、守護である斯波義銀を奉じ信長から離反する少し前の出来事である。
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息子から手紙が届いた。
使者は、岩鶴丸じゃ。
最近は、偉そうに『河田長親』とか名乗っておるわい。
供には石田の小倅を連れておる。
「むっ、何用じゃ」
ワシは、少しばかり身構えた。
こやつは息子が拾ってきた奴ゆえ、”元浅井家当主”としてのワシの威光がきかんのじゃ。
またやっかいな奴を寄こしたもんじゃわい。
手紙の内容はこうじゃ。
「パパ、信長の手下の丹羽長秀の奴がヒドいんだ~、僕をイジメるよ。懲らしめてやってよ、お願いだよ~」
(織田家の所業看過することまかりならぬ、使者、丹羽長秀の申し状、甚だ不快である。かねての通り対処せよ)
という内容が、書いてあったわい。
仕方がないのう~、可愛い息子のためじゃ一肌脱ごうかの。
ワシは久政、浅井久政じゃ。
ちなみに、ワシには息子が三人いる。
どれも優秀な自慢の息子なんじゃが、長兄の長政は特に優秀じゃ。
浅井家当主という、つらい仕事をワシに替わって頑張ってくれる孝行息子じゃ。
幼い(胎児というより、受精卵4細胞~桑実胚レベル)頃に人質に出ていたせいか、とてもしっかりとしておる。
お陰で楽隠居できるというものじゃ。
江北の地は、治めにくい土地じゃ。
ワシが当主だった頃は、それはもう酷かった。国人がいうことを聞かんかったからのう。
おかげで毎日、調停や調整じゃ、根回しに毎日遅くまで走り回っておったわ。
皆、一人前に文句をいうくせに、誰も率先して先頭に立つことをせん。
それがどうじゃ、長政は見事に統率しておる。
鮮やかな手腕で、瞬く間に頭角を現しおった。
『さすがは、ワシの子じゃ!!』
どうじゃ、すばらしいだろう。
それに長政は、ワシに5000石の隠居料もくれおった。
少ないと思うか?
そう思うのは、いささか早とちりじゃ! 早いのは嫌われるぞい、もそっと辛抱せい。
もともと浅井家は、国人衆のひとりでしかない。
江北25万石と云っても、他の国人の収入込みじゃ。
それに浅井家の分家連中や直参の家臣、小物に下人・下女の禄を支払えば、そんなに残るものではないわ。
売上高と純利益は、まったくの別物じゃ。
戦には勝てぬし、防衛戦では領地は増えぬ。
その上、頑張った奴には恩賞がいる。
領地が荒れれば、収入は減るし、忠誠心も民忠も下がる。踏んだり蹴ったりじゃ。
本当に個人事業主は大変じゃぞ!!
その点、隠居は楽じゃ。大した責任もないし、皆に気も使ってもらえる。素敵な家業じゃ。
5000石は、大金ぞ。
しかも、普段は小谷城の奥(自宅)におるから、まるまる自分と客分の小遣いとして使える。
固定費や必要経費は息子持ちじゃ。(戦国時代じゃから電気代や携帯代も関係ないわ)
だいたい長政には、養育費すらろくに払っていなかったからのう。オトクな買い物じゃ。
そうそう、大分話がそれたな。
「すぐさま、対処せよとのお申し付けでございます」
気分よう、思い出に浸っておると、長親が不機嫌そうにワシを急かしおる。
せわしない奴め。
「さようか、相分かったと伝えておいてくれ」
「ははっ」
(無愛想なやつじゃ、顔はなかなか良いのじゃから、もそっと愛想よくしておれば男どもにモテるものをのう。
浅井家はノンケだから、まあ関係ないかのう。)
ワシは心のなかに留めておいた、口は災いのもとじゃ。どこに衆道好きがおるやも知れぬからの。
まずは、ご挨拶に参るとしようかの。
土岐頼次殿の陣屋を訪ねた。
頼次どのは、此度の足利義秋公上洛のために美濃の守護として出陣をしておられる。
もちろん兵は、美濃守護代浅井家から出しておるわ。
というわけで、ワシの思い通りにさせていただこう。
「浅井久政罷り越しました。美濃の守護、土岐頼次殿に於かれましては……」
「お義父上どの、かたい言上は、よろしいでごじゃる」
守護とは云っても、飾りじゃ。しかも、ワシの養女を室に迎えておる。
つまりは、こやつもワシの義息子よ、どうじゃ驚いたか?
「……かような次第で、こたびは尾張の守護、斯波義銀様をお助けしようとする次第でして……」
「浅井家は、ほんに志高く勤勉でおじゃるのう、よきにいたせ」
「御意」
松永久秀の元で、不遇をかこっておった御仁じゃからチョロいものよ。
「警護には、雨森弥兵衛をつけますゆえご安心召され」
「おお、浅井三将がひとり雨森殿をつけてくださるか、これは安心ぞよ」
かくしてワシは、いったん小谷に手駒を取りに戻り、それから美濃へと向かった。
浅井家が守護代を務める美濃は、織田信長の戦禍から見事に復興しておった。
ワシは斯波義銀殿を連れて、稲葉山城に向かった。
「久政殿、本当に、本当にホントでおじゃるな!」
「ご心配召されるな、ホントにホントでござる」
「まるで夢を見ているようでおじゃる」
「我が息子、長政が。ぜひとも義銀殿にも尾張衆を率いて京へ上ってもらいたいと云っておる」
「真で、おじゃるか」
「義銀殿を騙すつもりならば、小谷の須賀谷で御逗留などしていただかんじゃろ」
「須賀谷は良かった。まさにこの世の極楽じゃった」
「よろしければ何時でも来てくだされ、息子も喜びまする。と、その前にひと仕事をしていただきませんと」
「おお、そうじゃった、任されよ。これでもまろは、尾張の守護でおじゃる。浅井家の後ろ盾さえあればなんとかするでおじゃる」
「わが方も、お力添えいたすゆえ、大船に乗ったつもりでご安心めされよ」
「わかっておる、浅井の手腕は土岐殿で実証済みでおじゃる、夢にも疑うことないぞよ」
「それは、安心でござる」
「尾張を手中にした暁には、浅井家を守護代に任じるでおじゃる」
「ありがたきお言葉、いたみ入りまする」
「久政よ、そちも悪よのう」
「斯波様ほどでは」
「ふぉふぉふぉ」
「はっはっは」
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岐阜城下で、長政の配下の者と合流した。
竹中重元、西美濃三人衆、そして……。
とりあえずは、そんなところじゃな。
あとは、奴らに任せておけば良いじゃろう。
年寄りがあまりしゃしゃり出ても、若いものが困るじゃろうて。
ワシは、義銀殿が陣中で不安にならぬよう、お話し相手をしていればよいのだ。
これにかかる費用は、全て長政持ちじゃわい。
いわゆる必要経費というやつじゃな。
義兄弟の井口経親と、娘婿の経元を誘ってやろうかの。
まずは柳ヶ瀬かのう、西柳ヶ瀬もいいのう。金津苑も良いがそれは又のおたのしみじゃ!
このとき信長は、織田家のために泣いて馬謖を斬る思いで、竹千代の故郷、三河・岡崎を攻めていた。
お気楽なご隠居が投じた、一石の波紋。
懸命に戦国を生きる信長にとって、それは悪夢のような話であった。
歴史の裏舞台など、誰も知らないのである。
いや、知らない方が幸せなのかも知れない。
ご隠居さんは、気楽なものですね!
自分を陥れた敵がこいつとは……さすがの信長も納得できないでしょう。
この後は、『長浜ものがたり』戦国編の方も投稿します。ぜひお読みください。
お願いします。
ひさまさでした