少年少女は期待を膨らませる
キリの問題で少し文字数が短くなってしまいました……
早朝、俺こと東藤 晴人はとあるバス停に立ってバスを待っていた。
春の季節ということで気温はそこまで低くはなく、日光が眩しくも肌を照らしている。
このバス停には現在かなりの人数が並んでいて、その全員が学生であり今日から高校生となる人達だ。
いわゆる新入生というやつである。
かくいう俺もその中の例にもれず、新入生としてこの場に立っている。
しかし既に二十分程並び続けているのだが、いまだにバスに乗れる気配がない。
いや、バス自体はちゃんと来ているのだ。
さっきから二分おきくらいの頻度で回ってきていては並んでいる新入生達を送っていってる。
ただ乗客の数が多すぎてそれだけの高頻度であっても捌き切れていないのだ。
「あー……、バスまだかよー。そろそろ足の裏が痛くなってきたんだけど……」
俺のバス停の到着が若干遅れてしまったので、思ったよりも後方の列に陣取るハメになってしまった。
くっそ……もっと早く家出るべきだったな……。
並んでいる人数が多いせいで前も後ろもかなりギュウギュウな状態であり、満員電車もかくやという様な密着具合である。
ついでに言えば、正直足が痛くなってきた事に加えて手持無沙汰すぎてすることがない。
なのでスマホでもいじるかと思ってポケットに片手を突っ込もうとした時、ちょうど見透かしたように横から幼馴染の声が飛んできた。
「あー!晴人ったらなんでそんなやる気のなさそうな顔してんのー?。もっとポジティブな表情しようよ!!」
西条 柊。同年齢で家が隣同士ということで幼いころからずっと付き合いのある、設定的にもはやテンプレートすぎるレベルの幼馴染である。
「だって、なんでこんな並んでんだよ。おかしいだろ、桜陵学園の生徒って大体は中学からの繰り上げって聞いたはずなんだけど。外部生は全体の三割だけって聞いたんですけど。なのにこの人数って、多すぎだろ……」
「それはもうしょうがないよ。あそこって凄いマンモス校って話だったし、これくらいが普通なんじゃない?」
「……マジか。これで三割ってどんだけいるんだよ…………?」
「あの桜陵学園だからね。むしろそのくらいの人数が必要な理由でもあるのかもしれないよ」
今バス停で待っている学生達の全員は、実はすべて同じ学園に向かう事を目的としていた。
そしてそれこそが俺たちの新しい高校、『桜陵学園』である。
共学の全寮制であり、全国でも有数のマンモス校であるらしい。
敷地も広く、山一つ分が丸々敷地の内に入るらしい。
この学園とは前に二人で高校の受験校探しの際、柊が適当に持ってきた高校のパンフレットの一つとして入っていた。
先の情報もそのパンフレットからのものだ。
だが、それを読み込んでいくごとにつれて、どう考えてもおかしいんじゃないかと思ってしまうような荒唐無稽なことが書かれていたのを見つけた。
『我が学園に入学することが出来たなら、その学生にはもれなく「特別な力」が与えられます』。
…………。
いやホントに意味が分からない。
「特別な力」ってなんなんだ……、最近の学校ってのはこういう謎かけみたいなウリ文句が流行りなのだろうか?……いや普通にありえないです、はい。
ともあれ、初めそれを見た時の俺は桜陵学園という存在に対し当然のようにヒキ気味の対応をしてしまったわけだが、柊の方はそうでもなかった。
柊はパンフレットを見るなり新しいおもちゃを貰った子供みたいな表情で俺に向かって、「ここにしよう!晴人、私この学園に入学する!」と言い出したのだ。
柊は普段は快活で礼儀正しい奴だ。
誰にでも分け隔てなく接することができるし、基本常識的な性格をしている。
だがこいつには一つ厄介な性格を持っていて、面白いことに目がない。
昔から自分の興味が惹かれるものに出会うと、それに向かってどこまでも突き進んでいってしまう。
しかも今回のように思いっきり目を輝かせて言ってきた場合なんて、もう絶対誰かの言うことなど聞かないパターンだ。
個人的にはこの学園の勧誘文句に柊が見事に嵌ったようにしか見えなかった。
しかし「特別な力」という言葉がよほど気になるのか、普段と違って押しの強い柊の様子を見た俺はそれでも多少言い返したり他の学校を勧めたりしたが、やはり押し切られてしまい結果的には柊と一緒にこうして桜陵学園に入学することに決まってしまったのだった。
「晴人。ちゃんと荷物持ってきた?今日から寮で生活するんだから持ってきたい物は全部持ってこないといけないよ」
「心配しなくてもちゃんと全部あるはずだっての。お前は俺の母親か。ていうかさっき家出るときホントに聞かれてその時に全部確認したから大丈夫」
「あ、そうなんだ。いやー、私は昨日の準備も楽くて夜遅くなっちゃったから、そんなに眠れなかったんだけど、晴人はどう?」
「……まあ入学するんだからさすがに普通ってわけにはいかないけど、一応調子は良いほうだな」
「えー何その無難な返事ー。楽しみじゃないの?」
口をとがらせて言い返してくる柊に対して俺は肩をすくめながらもパンフレットの件を思い出した。
「まあ例の「特別な力」っつーのにはやっぱ興味があるけどな」
「だよね!一体なんだろうね?あれって」
「さあな。まあでも多分なんかの精神的な心構えとかアドバイス的な感じだと思うけど」
「夢がないなぁ……。もっとこう、超能力が使えるようになるとかじゃないの?テレポートとか、テレキネシスとか色々有るじゃん。」
「いや、それは夢を見すぎだろ……」
この科学の時代にホントにそんなことを期待している奴がいるのなんてこいつくらいのものだろう。
こういう部分を除けば普通に良い奴なんだけどな……
「お、やっとバスの順番回ってきたみたいだよ」
と俺が柊の性格について思案していると、いつの間にか列がだいぶ進んでいたらしく俺達の立ち位置もだいぶ前になっていた。
「次に来るバスには乗れそうだな。はー、やっと乗れるぜ……」
「そんな疲れてたの?多分この順番だとバスに乗っても座れないと思うよ?」
「あー……、とりあえず乗れるだけマシだと考えるしかない」
ぶっちゃけ立っているだけなんだけどな、なんでこんな疲れてるのだろうか。
俺の様子に「あははは、大丈夫?」と聞いてくる柊。
いやなんで笑ってんですか柊さん……。
やがてバスがやってきて、既に何度も見たぞろぞろと学生がなだれ込む光景が生まれる。
俺達もその流れに乗って前へと進んでいく。
俺達の予想はどうやら当たっていたらしく、ちゃんとバスの中に入れるようだ。
そうして満員になり、数多の学生を中に詰め込みながらゆっくりとバスは出発していった。
登場人物
・東藤 晴人
・西条 柊