プロローグ
初めまして青蜻蛉です。
駄文ですがよろしくお願いします。
異能や超能力、魔法といったもの対して諸君は一体どのような思いを抱くだろうか?
この地球には基本的に存在が認められていない超常現象にして超自然。
もしかしたら俺達の知らないところではそのような技術や法則といったものもあるのかもしれないが、しかしほとんどの人達においては漫画やアニメを見て自分もいつか使えるようになってみたいと、切実に憧れるだけだと思う。
中学生になって厨二病をこじらせたり、後はせいぜいが幼稚園か小学生あたりになって『ファイヤーボールッ!!』などと声を上げ、超能力者や魔法使いといったものになりきるようになるのが限界だろう。
そうやって成長していくにつれて段々と現実を知っていき、二次元と三次元の枠組みを作り上げていくのだ。
指先から火の玉を起こして相手に投げつけることはできない。
ワープなんていう気の利いた移動方法もない。
透視能力で女の子の服を透かしたり、着替え中の部屋を覗いたりなんてのももちろん不可能だ。
世界にはそんな都合のいい力なんてものはない。
誰もがそういった理想と折り合いをつけて現実と向かい合って生きている。
それが現代の普通の人間のあり方だろう。
でも。
でもだからといってそれは、何も超常現象に対して憧れるのをやめた、というわけではないはずだ。
あくまで折り合いをつけただけであって、人は誰しも心の中に好奇心や冒険心を持っている。
例え何歳になったとしてもそういった心はあるだろう。
俺の心にもある。
大人になっても、子供心にあるはずだ。
なら、それを叶えてくれる「場所」があるとしたら、どうだろう?
憧れていた超能力者や魔法使いに、自分もなれるとしたら。
火球を投げたり、ワープをしたり、透視能力が使えるようになったりして小躍りするのかもしれない。
果たして、その「場所」は俺にとって「学園」という形をとって姿を現した。
そして、俺が初めて『能力』を発現した時の反応は小躍りなんかではなく、ただ立ちつくしてしまうという、何とも味気ないものだった。
学内にいくつかある体育館の一つで、俺は二人の人物と一緒にいた。
「これが……俺の、俺だけの力…………?」
俺の周囲をキラキラと輝く無数の光の粒子が廻っている。
数えきれないほどの量の粒子は俺の足元から頭上までを範囲に回転しており、こうしてみると自分が小さな世界の中心になったような気分にさせてくる。
土埃を巻き上げて球状の光膜の様な外観を作り出していた。
「おおおおおおぉぉぉぉぉ………………!?これが晴人の能力かぁ……凄い綺麗だね!」
見とれている僕に代わって、すぐそばにいた女子生徒が光の粒子に負けないくらい瞳を輝かせて感想を言っている。
幼馴染でもある彼女に素直に喜んでるのを見て俺も少し嬉しい気持ちになった、なんてちょっと恥ずかしいことを思ってしまったところで、茫然としていた俺の意識もようやく我に返ってきた。
「でも、確かにとんでもなく綺麗だけど、これ見ただけじゃあまだどんな『能力』なのかわかんないなぁ…………。あ、じゃあ名前見せてよ晴人。『能力』の名前って確か電子生徒手帳に書いてあるんでしょ?」
言われて僕はポケットからタブレット型の携帯端末を取り出す。
この端末こと電子生徒手帳は「学園」で生活する上での必需品であり、学内のあらゆる情報が記載されている。
そしてその中にはこの「学園」を最も特徴づける『能力』についての情報も存在した。
なので俺は生徒手帳を操作して目的の情報を探し当てていく。
「えーと、俺の能力名は…………えー、あ、あったあった。…………『スターダストライン』って書いてあるな」
「『スターダストライン』?ん~、なんか余計わかりにくくなったような……、星屑の線?」
他にも『能力』についても情報は乗ってあったけど、肝心の効果についてなどには全く書いてなかった。
どうすりゃいいんだ…………?今の所俺の『スターダストライン』についてわかっているのは光の粒子を発生させて自在に操れるということだけだ。
それだけでも十分凄いってことはわかるけど、でもさすがにもうちょっと何かあってほしい所だ。
と、俺が自分の『能力』について考えていると、この場にいたもう一人の男子生徒が笑いながら言ってきた。
「まあ、でも最初は皆こんなもんだよ。まだ発現したばっかで理解が及んでいないんだから制限がかかるのはしょうがないさ。俺の時もそうだったし、これからの訓練次第で色々分かってくるはずだぜ。」
人差し指を立てながら解説する彼に思わず聞き返してしまう。
「黒崎先輩、そうなんですか?」
「ああ。むしろこんな初期から発現させる事が出来るなんてむしろ有望な方だよ。遅い人だと半年くらいかかってしまう人もいるしね」
……おお、なら俺は「学園」ではエリートという括りに入るのではないか?
中学では途中からロクに登校もしなかった俺が今年からモテ期に入り、女子から黄色い声援をもらえることになる可能性もあるのかもしれない。
「いやー、何も知らない人がファンだとしたらそれもあるかもしれないけど、晴人の性格知った人なら絶対そんな声援送んないと思うよ?」
「はあ?なんでだよ。俺の性格に何か問題があるなら教えてもらおうか」
「だって晴人って基本的にクズだし」
暴言を言った柊に俺が掴みかかっていると、黒崎先輩が「まあまあ」ととりなしてきた。
「ここの規模は広いし、それに合わせて生徒も結構な数在籍してるから、有名になりたかったらかなりの努力をしなくちゃあいけないぜ。生半可な力じゃあ俺ら上級生はもちろん、同学年の連中にも勝てないかもね」
さっきと違ってニヤリとした笑いで、自身が有数の実力者でもある黒崎先輩が挑発してくる。
それは初めて『能力』を見て浮かれていた俺たちを上から押さえつけるかのように、強烈な重圧を持って発された。
「「…………。」」
「おっと、今ので怖気づいちゃあまだまだだよ。東藤クンも無意識に『能力』が解除されている」
「あ…………?」
慌てて周りを見るとさっきまで空中で回旋していた光の粒子が綺麗に消えていた。
……あれほど目立っていたのに気づかないなんて、それ程までに黒崎先輩の雰囲気に呑まれていたらしい。
横を見ると柊も驚いた顔で黒崎先輩の顔を見ていた。
今までの気さくな性格からの突然の変化に驚いているようだ。
だが柊は同時に、恐らく幼馴染の俺ぐらいにしかわからない程に小さく笑ってもいた。
それは、まるでサプライズを受けて嬉しさで思わず笑ってしまったという感じであり、柊はその表情のまま口を開いた。
「……いいね、やっぱりこうでないといけないよ。この「学園」はやっと私が心から楽しめると思った場所だもん。最初から少しくらい壁があったって、むしろこっちから大歓迎だよ」
「……おおぅ。結構気圧したはずだったんだけど、普通に言い返されちゃったよ……。ま、そのほうが将来が期待できるか。」
見返すように腰に手を当てて言い返す柊に若干驚きながらも、黒崎先輩は気を取り直して話を戻した。
「よっし、じゃあその気合いに応えて今度は西条ちゃんの『能力』について検証していこうか」
「おお、やっと私の出番か!いやー、楽しみだね。見てなよ晴人!私も凄い『能力』発現してみせるから覚悟してなよ!」
そう言って腕まくりをして黒崎先輩と話し合う柊。
自らの新しい可能性を夢見て期待を膨らませている姿は、見ていて微笑ましい。
が、それは俺の方も同じだ。
これから始まるであろう、予想もしない様な面白おかしい出来事が起こることを願い、
それに何より、それを実現させてくれるこの「桜陵学園」に期待して俺はーー