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姪のこと。  前

誤字や気になる文を教えて頂き、ありがとうございます。

色々な感想も嬉しく思います。

「リア!」


扉が開き、中にいたリアの姿を見た瞬間に、走り寄って抱きしめました。

「ママ!」

陽当たりのいいソファに座り、絵本を読んでいたリアも、私が抱きしめ返してくれます。

その子供特有の高い体温の体を抱きしめて、涙があふれてきました。

先程まで、どう逃げようか、そんな事ばかり考えていた強張った私の体も心も、解されていきました。


「リア、大丈夫だった?」

体調は変わりないのか、心細くはなかったのか、そんな不安を口に出しながら、私はリアの顔を覗き込みました。


顔色も良く、体の調子も良さそうなので少し安心します。

でも、私が倒れた上に、こんな遠くにまで連れて来られ、どんなに心細かったか。

それに、ここに来たばかりの頃に風の魔法を使ったとユリアに聞かされたので、大丈夫かと心配しました。いつも、というわけでは無いですが、魔力を使うと体調を崩すことが今までにもあったから。


リアは、風の魔法使いを祖とするモルグ公爵家当主を父親に持つ子。あの男はリアの存在を知らないだろうけれど、生まれたリアは皮肉にもモグルの血を受け継いでいました。モグル公爵家は祖である風の魔法使いの血によって、風を操る魔法使いを多く輩出している家です。近年では確認されることはありませんでしたが、歴史を遡れば遡る程、風を操る魔法使いの名前が家系図に多く刻まれています。

セイラ姉様とあの男は恋愛結婚でした。後宮騎士として後宮を中心として仕事をこなしていた姉様に、モグル公爵が一目惚れし、アプローチを懸け続けた後の結婚です。清楚な容姿と仕事に関して苛烈過ぎる一面から『紅百合』と呼ばれていたセイラ姉様と、父親と同じ年代であるモグル公爵の結婚は、国だけに留まらず他国にも伝播したそうです。

そんな二人の子であるリアは、何人もの魔法使いの強い血を取り込んだサルドの血が刺激を与えたのか、近年は生まれていなかった風の魔法使いとして生まれてきました。

今はまだ、未熟なまま生まれてきたせいで心臓が弱く体調を崩しやすいリアですが、大きくなればそれも安定してくると診断されています。そうなれば、魔法ももう少し自由に使えるようになるのですが、今はまだ使用には慎重にならないといけない。その事はリアにもしっかり諭してあります。


「ママ。だいじょうぶだよ。リア、ママが寝てる間、ちゃんと良い子にしてたよ。」


寂しかっただろうし、突然知らない場所に連れてこられて怖かった筈なのに、そんな事も言わずに笑うリアの姿に心が痛みます。

私がしっかりとしていれば、あそこで倒れたりしなければ、こんな事にはなっていなかったのに。

誇らしげに良い子にしていたと言うリアに、申し訳なさを覚えます。

「ごめんね、リア。」

「?」

「まだ、お家には帰れないの。もう少し頑張ってくれる?」

「うん。だいじょうぶ。リア、がんばるよ。だって、リアもサルドの子だもん。」

二年前、一度だけ顔を見せた上の兄テイガが幼い頃から口癖にしている言葉を、リアは気に入ったらしく時々使うことがある。物心付いてから、たった一度しか会っていない叔父のことをしっかり覚えているなんて、少しテイガ兄様に嫉妬します。それだけ、印象深かったのでしょうね。厳つい顔で身体も大柄ですし、何より止めろと言う私やアルト先生の言葉も聞かずに、リアを振り回していましたから。お母様の葬儀以来だからとはしゃぐ気持ちは分かりますが、それならちょくちょく顔を見せろという話です。



「ママが寝てる時も、ママに教えてもらったことをやってたんだよ。」


いざという時にリアが自分の身を守れるように、と教えたことを色々頭に巡らせます。自分の体を気遣って実践しなさいとは前置きして教えたものの、本当に無茶はしなかったのか、心配で仕方がなくなるものですね。

「そう。私が寝ていた間にあったことを報告してくれるかしら。報告するまでが任務なんだから。」

「うん。」


「そうね。まずは・・・ここに来る時は何も無かった?長い距離を移動するのは初めてだから疲れたでしょう。」

調子が良い時に街の中で近所に住む友達と遊ぶことはあっても、街の外から出る、ましてや王都なんて遠くに出掛けることはありませんでした。マークがどんな方法で移動したかは知りませんが、馬車にしても、魔術にしても、リアには慣れぬ事ばかりだった筈です。

「うぅぅん・・・リアね、ここに来るのは覚えてないの。」

どういう事でしょうか?

まさか、マーク。リアに何かして気絶させたとかじゃないでしょうね。そうだとしたら、顔を見せるなと言ってしまった後ですが、一発殴らないといけませんね。

「覚えてない?」

リアに向けていた微笑が少し引き攣るのを必死に我慢しながら、リアに聞きました。

「うん。ママが倒れちゃった時、リア、ママを助けたくって風を使ったの。でも、猫さんがリアの風食べちゃって。リア、眠くなって。起きたら、ここにいたんだよ。」


「猫?」


「うん、黒い猫さん。おうちの中にいたの。」


黒い猫?それは・・・黒い猫は、あいつが使い魔として使っている動物。しかも、まだまだ弱いとはいえリアの魔法で生み出された風を消してしまったなんて・・・やっぱり、あいつが動いてる。確信しました。一体、何がしたいというのか。サルドを捨てたのは自分なのに。あの時、表情も出さずに私を見下していただけのくせに。・・・・あれも操られている?・・・いいえ。そんな事はないでしょう。だって、あれもまた、サルドの子。曽祖父オウキ・サルドの血を引いているのです。破邪の力を持っているのですから、操られるなどという事は無いでしょう。混乱した学園に感けて、事件の前から会っていなかった事を今更ですが悔やみます。忙しい両親や兄たちに代わって、あれの様子を見ているべき私が、あれを止めれたかも知れない私が!私がもっと、あれと話合っていれば何かは変わっていたのかも知れない。そう思うだけで心が苦しくなります。

・・・・・・あれに会う時があったなら、私はきっと・・・



「それでね、起きたら、とっても嫌なのがいっぱいあったの。お着替えとかご飯とかしてくれるおじいちゃんやおばあちゃんも変だし。だから、リアね。風でビュオーって嫌なの追い出したんだよ。

そしたら、おじいちゃんもおばあちゃんたちも、変じゃなくなったの。」


黒いドロドロとしたものに心を支配されそうです。

けれど、目の前でリアが手振り身振りで風を起こした事を説明してくれているのを見て、少しだけ心が晴れました。

そうですね、今はリアの事を考えなくては。

リアを守って、逃げ延びる事だけを。

あれに向かうのなら、多分私も死ぬでしょう。それだけの実力があれにはあります。よくて刺し違えれるかどうか。リアをしっかり育て上げるまで、私は死ぬわけにはいかないのに、そんな事をするわけにはいけない。


「それにしても、リアにも破邪の力が有ったのね。一緒に練習しましょうか?」

風を使う事で破邪を行なえたのなら、少なからず力があるのでしょう。

兄たちは髪などの体の一部を媒介にしてしか、破邪の効果を人に与えることは出来ないと言っていましたから。

私も、こんな状況なら破邪の力をもっと使いこなさなければいけないでしょう。『悪しきもの』が何なのかも分からなかったからと、曽祖父が使っていたという小手先の術ばかりを練習して、破邪の力を伸ばすことを忘れていました。曽祖父が亡くなったのは私の一つ下の弟が生まれてすぐの事。テイガ兄様なら何か覚えているかも知れない。テイガ兄様の結界術の一部も、曽祖父に教えられたものだと言っていましたから。

「する!アルト先生が、ママみたいだったら幽霊も怖くないよって言ってたもん。」

幽霊?

そういえば、リアよりも年が上の子供達の間で幽霊の話が流行っていると、お隣の奥さんが言っていましたね。

私は見たことはありませんが、兄たちが見たとか居たとか仲間内で話しているのは聞いたことがあります。首を傾げている私に、お前は近づくだけで幽霊消してしまうから、と言っていましたね。

サルドに破邪の力を持ち込んだ曽祖父は、そんな幽霊や『悪しきもの』を払うことなく手下にしていたとお婆様や、曽祖父を直接知る大人たちが言っていたので、確かに存在はしているというのは理解してはいるのですが・・・。




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