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メイドのこと。  後

あまりの話に、私はユリアの言葉を遮ることで止めさせました。

それ以上、話を続けさせれば、多分反吐が出るような言葉が出てきたのでしょうね。

そんなもの、私に聞かせてどうしようというのか。


「許せ、とでも言いたいの?

自分達もこんなに大変だったのだと、被害者なのだと。

だから、許して欲しい。

そして、助けて欲しい。

そう言いたいのかしら?」


そういうことだろう。

指輪の力で助かっている。

そして、これから続けようとしていたのは、私と会ったことでマークが正気に戻れている。私には二人を助ける方法があるんだろう。


ふざけるんじゃないわよ。


「私からすれば、貴方達は加害者なのだと忘れているの?

操られていようが、逆らえないだろうが!私達がどれだけのものを失ったと思っているの!思い出の詰まった家も、家族も!それを、ただ許せとでも言う気なの?

それに、今度のこともそう。

命を狙われていた、助ける為に連れて来たと言いたいの?

それなら、あの街から少し行けばあった隣国に捨て置いてくれれば良かったのよ。それなのに、王都に連れて来た。敵地の中に連れてきて、何がしたいのかしら?結局は、自己保身じゃないの。正気に戻れるから、私を傍に置きたかったのでしょ?

ふざけるんじゃないわよ。

そんな事で、私とリアを巻き込まないで。」



「ごめんなさい。ごめんなさい。」

声を荒げた私に、ユリアが目に涙を湛えて呟くように謝ってきました。

その姿に、ただイライラとするばかり。

でも、この気持ちに任せて手を上げれば、私もマークになってしまう。

訓練を受けたものが、手立てを持たないものに手を上げて許されるわけがありません。


「・・・・マリアが使っている手段に何か心当たりは?薬とか」

「い、いいえ。私が覚えている限り、何も。」

「では、何か感じた異変は。」

淡々と尋ねることで、心を落ち着ける時間を作ります。

それに、マリアが私を殺したいと思っているのなら、どんな方法で来るかなど知っておかねばなりません。この魔道具を外して、さっさと国外に逃げる手立てを講じなくては。家を去らねばならないのは心苦しいけれど、リアにはかえられない。戦争の時に味わった後悔を、もう味わいたくはない。


「そういえば・・・匂いが。」

「匂い。それって、頭が痛くなるような甘い匂いのこと?」

「えぇ。バッカス君が帰ってくると甘い匂いを纏っていて。指輪を持つと無くなるの。

それに、戦争の後は王都中に甘い匂いがあるように感じるのよ。」


王都中に広がる匂いが人心を操る手段だというのなら、王太子妃を称賛する声しか聞こえてこなかったのも頷ける。批判させなければいいのだから。


「さっき、王都の人たちがおかしくなったと言ったわね。」

「マリアが王太子妃になった時、挨拶をするからと王都中の人々を集めたわ。その時が一番酷い、息が出来ないくらいの匂いがしたわ。

笑顔でいなさい。醜いものや老いたものは見たくない。挨拶だというのにマリアが言ったのはそれだけ。でも、誰も疑問にも思わないようで、集まっていた人々が皆ニコニコ笑いだして、次の日から街から年老いた者達や怪我を負った者たちが姿を消したの。全員、家から出れなくなってしまった。

警備や兵士たちが見張ってるわけでは無いの。ただ、どんなに頑張っても家から出ることが出来ないのだと、笑っていたわ。」


・・・王家はもう駄目か・・・

ふと、思いました。

そんな場で、マリアがそんなことをしでかすなんて。

すでに、マリアの手は王太子だけでなく王にまで及んでいるのだろうと。

そもそも、父たちが伝を使って調べた、帝国との戦争の理由がおかしいものだった。

《留学していた帝国の皇子が心に異常をきたし帰国し、その原因がマリアという生徒にあるという。事情を聴き質したい。護衛の同行も許可する故、帝国に向かわせて貰いたい。》

そういった内容が綴られて届いた書状を、王が拒絶したことが全ての発端だった。

それは、狂気の沙汰のように見える。近隣で最も大きな力を持つ帝国からの依頼を断ったのだ。たかが、まだ子爵家の娘でしかなかった一人の少女を守る為に民を全て危険にさらした。

そして、皇国の助力と、帝国内部の動きによって、何とか負けることなく終わった戦争の後、その少女が王太子妃となったのだ。心ある貴族ならば怒って当たり前のこと。

それら貴族たちに家を取り潰すという処罰を下した王家。

だというのに、批判も何もしようとしない、不平不満を言っているという噂でさえも流れてこない貴族たち。

この国はもう、駄目かもしれません。


早く、リアと一緒に逃げないと。

私が無理なら、せめてリアだけでも逃がさないと。


魔道具を外す手段はある。

彼を呼べば。


連絡は、リアに協力してもらえば飛ばせる。

彼が来てくれれば、魔道具を無効化にすることが出来る。


「ユリア。次にマークが帰ってくるのは?」


「分かりません。」

それはそうね。どうせ、学園時代のようにマリアに振り回されているんでしょうね。

「マークがマリアに私達のことを言いつける危険は?」

「多分、無いと・・・。記憶の一部を隠しておくっていう魔道具を用意してあるから。この屋敷以外では貴女たちの事を忘れるようにしてあるの。」


「そう。」

また、魔道具。

確実に、あれが協力している。確信出来ました。

何を考えているの。


まぁ、いいわ。どうせ、信用出来るなんて思えないもの。

ユリアだけでも、裏切らないように誓約してもらおう。


「ユリア。次に帰ってきた時、その指輪をマークに渡しなさい。」

「えっ。」

ユリアは大きく目を開きました。

それは、そうでしょうね。この指輪があるから自傷行為をしなくてすんでいると言っていたばかりですもの。でも、指輪が持っているであろう力なら指輪が無くても何とかなります。


「それから、指輪と一緒に手紙を渡してちょうだい。」

私はもう、顔を見たくないから。

手紙で済ませる。

ユリアのように言い訳がましい事を言ってくるのなら、私は何をしてしまうか分からない。


《始末は自分で付けろ。王太子が間違ったものを選び国を危機に晒しているのなら諌めるのは、一番近くにいる貴方。人心を操るなどという、マリアがやっていることは国を滅ぼす行為。今、討たねば国は彼女の玩具として壊されていく。貴方が騎士として剣を捧げたのは誰?マリアでは無い筈。ならば、騎士の忠義を持ってマリアを討ちなさい。その後に貴方がどうなろうと知ったことではない。私の前に二度と姿を見せないで。本当に後悔しているというのなら。》

部屋にあった紙とペンで、スラスラと迷いの無いペン先で書いていきます。


これで、マークがどうなろうと私には関係ありません。

捕らえられて処罰されようが、死罪となろうが、逃げようが、彼女に服従しようが。

関わりたくないし、顔を見たくもないし、興味も持ちたくない。

そんな気持ちだけなのです。


後は、ユリアがこれをマークに渡す前に、助けを呼べば。


それと・・・

「ユリア。誓約をしてくれれば、私は貴女を助けるわ。」

「誓約。」

「そう、私を裏切らないと。嘘偽りを言わないと名前を賭けて誓うのなら、新しい指輪を用意してあげる。」

またペンを持って、紙に誓約の内容を書きます。それをユリアに見せました。

「これに、名前を書いてくれればいい。破れば、罰を受けることになるけど。」

「罰。破らなければ、助けてくれるの。」

ユリアが真っ直ぐに私を見つめてきます。

これに署名すれば、これまでの話の真偽も分かります。

誓約の内容に、私にこれまで語った事にも嘘偽りが無いという文を加えましたから。


悪しきものを見破る『破邪の巫女』の術なのだと、本には書いてありました。曽祖父に色や部位などが似た私は、力もまた受け継いでいました。曽祖父は弟が生まれたすぐ、私が1歳の時に亡くなったので直接な教えは受けていませんが、彼の残した書物で必死に勉強しました。他では兄弟や従兄たちに敵わない私でも、これだけは唯一勝てるものですから。他の、曽祖父の血を持っている者たちは自分に向かってくるものを処理するだけで、破邪の力を外に放出しているのは私だけなのだそうです。あまり自覚はありませんが。


「えぇ、指輪というか、あの石を用意出来る人に連絡を取れば。それに、私の傍に居れば指輪はいらないでしょう。でも、私は誓約無しでは貴女を近くに置ける程、信じることは出来ない。」

「分かりました。」

強い口調で正直な思いを言ったので、少しは迷うかと思ったのに、ユリアはペンを取ると名前を書きました。

書き終わり、誓約書が淡い光を放って効力を発揮している様子を眺め、ユリアの様子に異変がないことを確認します。

彼女が言っていたことは本当だったようですね。

ひとまずは、一安心ということでしょうか。



「今の所は、これでいいわ。リアの所に行きます。」

用意された服に一人でさっさと着替え、誓約書を折り畳んで服の中にしまいました。

そして、ユリアに案内されリアのいる部屋に向かいます。


「・・・バッカス君が言うには、リアちゃんは貴女の子だと・・・・」

先に行くユリアが、恐る恐る聞いてきました。

本気で信じていたのか、あの男。

「だと言ったら?」

「・・・セイラ様の子ではありませんか?」

久しぶりに聞く、お姉さまの名前。

あぁ、そういえば。ユリアは義兄だった男の姪でしたね。

「何故?」

裏切らない存在となったとはいえ、知られたくは無い話だったのに。

「貴女が眠っている間に、リアちゃんが屋敷の中に気持ち悪い匂いがすると風を吹かせたの。そうしたら、他の人たちと同じように笑顔を浮かべ続けていた使用人たちが元に戻ったのよ。」

「・・・あの子は・・・・」

そういう所は、騎士候家の血というのでしょうか。それとも、聡い子と思っていてもまだ幼いからか。

「風は、モグル公爵家に流れる魔法使いの得意としていたものだから。そうなのではないかと思ったの。」

さて、どう返事をすればいいのか。

ユリアの立場では公爵家に報告に行けはしないけど。裏切れないのだけれど。でも、何があるか分からないし・・・。


「安心しても大丈夫よ。公爵家はもう無いから。」


立ち止まり、振り返ったユリアの言葉に、私は内心でホッと息をつきました。


「ここが、リアちゃんの部屋なの。」

ユリアの前にある扉をみて、ようやくリアに会えるのかと安堵しました。

マークに関しては、これで終わりです。もう二度とエリザの前に姿を見せることは無いでしょう。じゃないと、本当に駄目男過ぎる・・・。

こういう退場をしたキャラの行く末の定番が三つくらい思い浮かんだのですが、仮面ルートだけは無いです。


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