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私のこと。  後

訂正:家名が混乱していましたので、直しました。手抜かりがあったら、また直します。

「サルド騎士候家の娘が、大人しくしていると思っているのかしら?」


私は今、寝台から降りて、ネグリジェ姿のまま部屋に立っています。

あれから一日が過ぎ、その間に何度か年嵩なメイドが食事やお茶、薬を持ってきましたが、着替えだけは用意してくれなかったので仕方ありません。

まだ少し重たい感じがする頭を我慢して、部屋の中にあった椅子の背を両手で持ち上げる。

そして、それをガラスが嵌まりサンサンと日の光を部屋の中に差し込んでいる大きな窓に向かって、下から振り上げました。



バキッ


「あら、まぁ。」

そう簡単に行くとは思っていませんでしたが、ガラスが割れる甲高い音は聞こえず、窓の外にあったバルコニーに破片が散らばるわけもなく、ガラスにヒビ一つ生まれることなく、粉砕したのは椅子の方でした。貴族として培った目で見ても安物では無く、今の私では目を丸めてしまう程の値段がついていたであろう椅子が脆いということは無いはず。


それに、椅子が窓に当たる瞬間を私は見逃しませんでした。


振り上げた椅子は窓に当たってはいません。

窓より一cm程手前に透明な壁がありました。椅子が当たった瞬間にその壁が揺れることで光の波形が生まれ、私に存在を気づかせました。


「結界術?」


巨大な魔力を持ち、それを手足のように操ることで奇跡を生み出す魔法使い。

何も必要とせずに、己の身体一つで魔法を生み出す彼らは万に一人、生まれるか生まれないか。生まれたとしても一つの属性だけを操る魔法使いだけで、伝説にあるような全属性を操れる魔法使いは数百年の歴史の中でも、一人しか生まれていません。近頃では魔法使いの家系でさえも何代に一人しか生まれなくなっている希少な存在です。

そんな彼らの術を欲した結果、誕生したのが魔術師です。

媒介を使い、周囲の魔力を集めて、魔術を使う者。

魔力と知識と才能を持って学べば、小さい大きいを問わなければ使えるようになる技です。強い力を求めたサルド家は多くの魔法使い・魔術師の血を取り込みました。ですので、兄弟たちも、私も魔術を使えます。ただし、私は小さな魔術しか使えません。私が似ているという曽祖父の血だそうです。


「結界術を使えるような魔術師は滅多にいない筈。たかだか伯爵家の、その息子の屋敷に使われるような安い術ではないのに。」

結界術は操作が難しい上に、使いようによっては長い時間の維持を必要とする為、結界術を使う者は、媒介に多くの魔力を集め続ける集中力を必要とする。それに、自分以外に干渉されない結界の為には自身の魔力を多分に練り込む必要がある為、自分自身の魔力が多くある者にしか使う事が出来ない術だ。

それ故に、結界を使える魔術師は重宝され、高額な報酬で仕事を請け負う。羨ましいわ。私にも使えたら、もう少しリアに楽な生活をさせてあげられるのに。

マークは、王太子の乳兄弟とはいえ、たかだか伯爵子息。まだ伯爵位を継いではいない筈。どういうことかしら?

臨時収入でもあったのかしら?

王太子の訴えを受けた王によって潰された貴族や民たちから押収された財産は全て王家に入ったと聞いている。王太子が、いえ王太子妃が懇意にしている彼等に流した?あの方なら、やりそうな事ね。友達は何よりも大切なの。お世話になったらお礼は大切なのよ。確か、そう言っていたもの。自分を助けてくれている大切なお友達の彼等に何らかのお礼をしなければと微笑む姿が容易に浮かんでくる。


「まぁ、いいわ。こんなに簡単に行くとは思っていないもの。」

隣の部屋といわれても、この目で確認した訳でもなく。リアの居場所も分からないのに馬鹿な真似はしない。逃げるのならば、ちゃんとルートと方法、支度を整えてから。大丈夫。幼い頃にした大脱走ゲームの教訓は頭に入っているわ。

今の私なら、下の兄からでも逃げられるのに。結局、最後までジェイド兄様を負かせる事は出来なかったわね。


「変ね。」


これで私が確認したかったことは、ただ一つ。

私が大きな騒ぎを起こして、どれだけの人間が、どんな人間が、どのくらいの時間で駆けつけてくるのか。

それなのに、それなりに大きな音だった筈なのに誰も来ない。


部屋の中の音が外には漏れないようになっているのか。

人がいない。いえ、そんな事は無いわ。仮にも残った数少ない伯爵家の息子の屋敷。それに、粛清に巻き込まれて失脚した王妃に替わって王国の貴婦人の頂点に立つ王太子妃のお気に入りの一人であり、王太子の乳兄弟である近衛騎士。

人を雇う余裕は十分にある。

貴族の役目として、その身分に見合った数の使用人は必要だもの。

では、どうして?

マークが鍵を持っていて、部屋に入って来れないだけ?いいえ、外に誰かが来た気配は無いわ。訓練代わりに行ったケイドロという曽祖父が伝えた遊びで、気配を読むのは得意だもの。しばらく必要としなかったものだけど、昨日から神経を尖らせて十分当時レベルに戻せたと思う。


「もう少し、様子を見てみようかしら。」


窓の近くに転がる、椅子の破片に目を向ける。

大きく尖った破片はネグリジェの中に隠し、椅子に使われていた金具や装飾の石を拾い上げる。

ネグリジェの裾を破り、その布片に金具と石を包み込む。

部屋に備えつけられている暖炉の上に置かれた燭台を手に取り、針に刺さった蝋燭を抜く。

良かった。これはピンが出ているものね。

ピンが外に出ていないものだったら、他の手を考えなければと思っていたので安心しました。

部屋を見回した限り、他にも色々使えそうなものはあるけれど、ピンが一番後々の事を考えると最適ですもの。

燭台から突き出たピンを、利き腕ではない左腕の肘から下に当て、薄く筋肉を傷つけないように一本の傷を作っていく。

血がちゃんと出てくるように、でも動きに支障が出ないように。

そうして流れ出た血を、先ほどの金具と石を包んだ布へと染み込ませていく。

十分に真っ赤になった包みを確認して、再びネグリジェの裾を破り傷の上にきつく縛りつける。

真っ赤に染まった包みに手を当て、自分の魔力を流し込み、しばらく・・・。


「これで、媒介は完成ね。」


本来なら、いえ普通の魔術師ならば、月光に長い年月の間当て続けるとか色々と難しい過程を必要とするだろうけれど。私が今必要としているのは、私用の小さな魔術が使えればいいだけのもの。それに、力を取り込み続けたサルド本家の血程、媒介作りの最良の材料は無い。


「さて、と。騒ぎが起こった時の、リアがどんな対応をされるかについては心配だけど。あの子もサルド家の子。ちゃんと相応の教育はしてきた。大丈夫。」

そう自分に言い聞かせる。

どの道、何かの動きを起こさない限りは逃げ道はないもの。

あの子を守るのは私の役目だけど、大事にするだけが守ることじゃない。

あの子には、私が両親や兄たち、そしてリアの母親であろう姉から教わった事をしっかりと伝えてある。まだまだ未熟だけど、姉に似て聡いあの子は幼いながらに、すでに幾つかの術は見につけている。その内の一つが父親の血によるものなのは考えたくもないけれど。


「始めるわ。」

誰に言うでもなく宣言する。


意識を高め、包みから出した赤くなった金具や石を手の平の中に置いて、空に向かって差し出した。


「始めは『風』。」

言葉を共に、部屋の中の空気がうねり、先ほどの床に転がる破壊された椅子の破片へと向かう。ここで普通の魔術師ならば詠唱を必要とするものだが、それもやっぱりサルドの血。詠唱なんて闘いに邪魔なもの。とうの昔に詠唱破棄の方法はサルド家によって編み出されている。

風の突撃を受けた破片は、さらに粉砕され、粉々になった。何度もそれを繰り返し、粉はまるで小麦粉のようになる。


「次も『風』」

粉砕された元・椅子の破片たちを中心に風が巻き起こり、部屋の扉に向けて運んでいく。小さな竜巻のようなものに運ばれた細かい粉は扉の周りの空気を白く染めていく。


その様子に満足して、私は先程割ろうとした窓へ背中をつける。

この手の結界は、触っている全てを包み込んで守ってくれる。

豪快で野獣のようだと子供に泣かれる顔に似合わず、上の兄の魔術の専門が結界だったので私自身は使えないまでも結界術には少し詳しくなった。


「最後は『火』」

白い粉の中心に目を向け、そこに赤い炎を想像する。

そうすることで、その場所にチリチリと小さな火が生まれた。



そして、生まれた大音量。



窓に張られた結界に包まれ、爆風の中にあっても怪我一つ受けることはないものの、耳をつんざく音には痛みを感じ、眉を顰めるしかありません。


私が得意とすることは、小さな魔術を幾つも同時に使えること。

私には、これが普通のやり方で、家でも何を言われるでもなく使っていたのですが、王立学園の授業の中で異色なことだと習いました。

普通の魔術には媒介と詠唱が必要で、魔術を発動する際には媒介に魔力を集め詠唱することが必須。それ故に複数を同時に使うことは難しく、連続で使おうにも一つの術が終われば媒介に力を集め直し、次の魔術の詠唱をしなくてはならないそうです。

どうしてだと教授にも土下座で聞かれましたが、始めた時から使えるので理屈なんて分かりません。解明の為の実験に協力して欲しいと言われたので、安全を保障するならと承諾しましたが、それも粛清のせいで駄目になってしまいましたね。教授はお元気かしら?



何かをする度、何かを考える度に、懐かしい記憶に辿りついてしまうのは、こんな場所にいるせいかしら?過去はもう、どうすることも出来ない。感傷に浸っている場合ではないというのに。

しっかりしなさい、エリザ・サルド。

リアと一緒に家に帰る。

ついでに、チャンスがあったら王都に仕掛けでもして。

それだけを今は考えて。



「さぁ。どうなるかしら?」


もくもくと煙が立つ、扉があった部分に目をやり、屋敷の反応を待つ。

もしも、これで誰も来ないようなら、リアを探しに行きましょう。





エリザ・サルドは微笑んだ。

ケイドロ?ドロケー?

色々名前はありますが、私はケイドロでした。


粉塵爆発って好きなんです(笑)


こんな主人公は駄目でしょうか?

続きを読んでもいいと思っていただけると嬉しいです。

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