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別れと再会のこと。  後

本日二話目となります。

「で、それは?」


テイガ兄様が指差したのは、アルト先生の後ろで手を繋がれているイザーク。

そうだ。

テイガ兄様に説明を…、イザークの事を伝えなくては。

「に…」

ゴッ

テイガ兄様に話かけようとした。けれど、それは遅かったようです。

テイガ兄様の空を切る拳がイザークのお腹に吸い込まれるように入りました。

イザークは何の抵抗も出来ず、防御をとることも避けることもなく、ただ自分に向かってくるテイガ兄様の拳を見ていただけでした。


「何で、ここにいる?って聞くのも後だ。

今はこの一発で我慢しておく。

詳しい事と状態、残りの俺の怒りは安全な場所に戻ってからだ。

覚悟しておけよ。」


体を折り曲げて咳き込んでいるイザークの前で、テイガ兄様が凄んでいる。

テイガ兄様の体から感じる怒気は、それを向けられていない私の肌までピリピリと刺激してきます。それはユリアも同じだったようで、体を強張らせていることが手から伝わってきます。


テイガ兄様の怒りもよく分かります。

私もそうだったから。

でも、イザークの事を説明しないと。怒りが解けないのだとしても、ちゃんとイザークの事を理解してからでないと、テイガ兄様自身が後悔することになる。


にぃに。


頭を下げていたイザークが顔を上げた。

舌足らずな声で、幼い口調で真っ直ぐにテイガ兄様を見ていた。

「は?」

テイガ兄様が呆けた声を上げ、イザークの事を凝視している。

その気持ちは分かります。私も信じれらなかったから。


「ごめんなさい、にぃに。ごめんなさい。きらいにならないで」

目を大きく開けテイガ兄様を見たまま、ホロホロと涙を流すイザーク。そして自分を殴り、怒りを露にしているテイガ兄様の体に抱きついた。

「な、何だ、これ?」

抱きついたまま涙の溢れる目をテイガ兄様の体に押さえつけるイザーク。その体を恐る恐る触り、自分から引き離そうとするテイガ兄様。

けれど、イザークは嫌々と目を押さえ付けたまま首振り、放れたくないと訴えている。

その様子に、テイガ兄様が息を吐いて困った顔を浮かばせた。

「イザークは、マリア・テレースの言うことを聞くだけの意思の無い人形になったんじゃなかったのか?何だ、これ?」

「知っていたの、テイガ兄様。」

「あぁ。つい最近まで王都に近づきさえしなければマリア・テレースの影響は排除出来たからな。情報は集められた。こいつが『人形』って呼ばれるくらいに可笑しくなってたのは知ってた。無表情で自我の無い行動で、マリアの命令で魔術を行使するっていう戦争前の話と、戦争の後のマリア・テレースの命令も聞かない木偶人形って話だな。それで、このガキみたいなのは聞いてないぞ?」

これは何だ?

そう首を傾げ、しがみ付いてくるイザークの体を指で突いているテイガ兄様。

「ユリアもそう言っていたわ。」

「ユリア?」

テイガ兄様にユリアを紹介しました。

テイガ兄様の言葉にあった「つい最近まで」というものは後でゆっくりと聞こう。何だか嫌な予感がするのでうが、どうか勘違いであって欲しいと願います。


「へぇ、あのブルーゴの娘か。あの女の、金魚の糞だっけ?」

ユリアの状況について説明した。それでも、テイガ兄様がユリアを睨みつけるのを止めようとはしませんでした。いいえ、これが普通でしょうね。私が甘過ぎるだけで。

「詳しい話を色々としてもらうからな。」

「分かっています。私が知ることは全てお話します。」

「テイガ兄様、ユリアには破邪の指輪が必要なの。どうにかならないかしら?」

婚約指輪に嵌める白い石は当主が用意するもの。テイガ兄様ならどうにか出来る。そう思い尋ねました。何時までも私の傍を離れないということなど不可能です。あの白い石があれば、そう思ったのです。

「分かった。すぐには無理だが用意しよう。」

「ありがとう、テイガ兄様。」

「ありがとうございます。」

涙を流し頭を下げて喜ぶユリア。

「良かったね、ユリアちゃん。」

大人しく見ていたリアも、ユリアの傍に寄り添って一緒に喜んでいた。


「リぃぃア。」


それまでの真面目に引き締めた顔は何処にやったのか。

テイガ兄様が突然、気持ちの悪い声を上げてリアの体を抱き上げた。

その体に、大人になったイザークの体を縋りつかせたまま、イザークとリアがぶつからないよう器用にも、リアの体を抱き締めている。


「会いたかったぞ、リア。テイガおじちゃんだぞ。」


デレデレと垂れ下がった顔は、リアが生まれた時、三年前に帰ってきた時にも見せていたものだと思い出した。

「テイガ兄様、リアが潰れる!!」

リアの体の半分はあるだろうテイガ兄様の腕でギュウギュウに抱き締められたリア。最初は抱き上げられて喜んでいたリアの顔にも、苦しげな表情が浮かび始めていた。

「なんだ、エリザ。拗ねてるのか?そうか、お前も構って欲しかったのか。」

全然、私の言葉を聞いていないテイガ兄様がリアを抱き締める腕を片方にして、空いた片方の腕を私に向かって伸ばしてきた。

ユリアと手を繋いだままの私をどうしようと言うのか。

そもそも、腕にはリア、腰にはイザーク。それで、私をどうしようというのか。


「さぁ、エリザ。」


テイガ兄様の腕が私の腕をとり、引き寄せようと力が加わりました。


「キャッ!」

私と手を繋いだままのせいで、私と一緒に引っ張られることになったユリアの悲鳴が上がりました。それでも、まだ手を離そうとせず力が増したのは、王都を出た後でも不安があるのでしょう。そうよね、まだ香りが漂ってくる気がするもの。


「テイガ、止めろ。」

「そうそう、そういう事はティグに入ってからにしなよ。強制的に大人しくなりたいのぉ?」


足に力を入れてテイガ兄様に抵抗する私と、リアとイザークというハンデがありながらジワジワと私を引き寄せていくテイガ兄様の攻防は、私の前に割り込んだアルト先生の制止と、シギの力を使った制止によって、終わりを迎えた。


「ティグ?」

シギに触れられ脱力しかけたテイガ兄様が慎重な手つきでリアを降ろしていた。イザークはしがみ付いたまま離れようとしなかったが、アルト先生に声をかけられ大人しく腕を離していった。

リアを離し、イザークから解放されたテイガ兄様は力を吸われた事でフラフラの頭を抑えて立ち竦んでいる様子でした。

そんな中で、私が気になったのはシギの口から出てきた名前です。


ティグは、北にある羽ばたく鷲の紋章を掲げる小国ながら大きな力を持つ王国の名前だ。シギの言葉を察するに、私達が逃げ延びる場所はそのティグ王国だと言う。


他国との交流を極力避けている彼の国と、どうやって協力を漕ぎ着けたのか。皇国も帝国も、マリアの取り巻きにその出自の者がいたから早々に巻き込まれたと言える。なら、ティグ王国はどうして?



あぁ、そうか。

思い出した。

ティグ王国の、数年前に即位した王を支えていると噂の妹姫の名前。

それは確か…





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ねぇ、アズル。」


「なんですか、私の麗しき女神。」


ソファに腰掛け、マリアの体を横抱きにして自分の太ももの上に座らせる。

片腕はマリアの腰に添えられ、もう片方の腕はソファーの前に置かれたテーブルの上の、大皿に盛られた果物の中から赤い実を一つ、アズルは手に取り上げた。

そして、その実を自分ではなくマリアの口元へと運んだ。

マリアはアズルによって口に運ばれた赤い実を口に含み、わざとらしくアズルの指先に口付けをした。アズルはその感触を味わいたいと考え、少しでも早くと急く様子で自分の口へと指を運んでいた。


「私、早く皇国に遊びに行きたいわ。」

「あぁ、いいですね。貴女の好むように城を一掃させましょう。あぁ、待ち遠しいものですね、貴女を早く招けるようにしなくては。貴女という女神の姿を見る事が出来るというのなら皇国の者たちも喜びましょう。」

「うふふ。お願いね。でも、城だけじゃ駄目よ。醜いものは全部、片付けておいてね。」

「分かっていますよ。貴女の望む美しい世界の為にも、醜いものは全て片付けておきましょう。あぁ、早く見たいですね。美しい貴女が治める美しい世界を。」


「ふふふ。もうすぐよ。もうすぐ見せてあげるわ。その為にも、皆には頑張ってもらわなくちゃ。」

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