私のこと。 前
感想などをたくさん頂き、ありがとうございました。
色々と説明表記など行き届かないことがあり、不快な思いをさせた方々にはくどいようですが、お詫びを申し上げます。
一つ、連載していたものの区切りをつけて終わらせましたので、早速一つだけですが書き上げました。長くなったので二つに分けました。
待って待ってと言った割に、と呆れるとは思いますが、お付き合い頂けると嬉しいです。
書いた本人が言うのは何ですが、エリザが相当な子になってしまいましたので好き嫌いが分かれるかも知れません。ご注意下さい。
※最後の曾祖父の辺りで、一つ文が抜けていたので訂正しました。危うく、エリザをナルシストにする所だった…
はじめまして。
私は、エリザ・デュ・サルド。
嫁き遅れの22歳の女です。
いえ、爵位を失ったのですから、ただエリザ・サルドと名乗るべきですね。
デュは、誇り高き騎士候家の証の名。国に裏切られようと、この身に流れる国を守り続けてきた血の証は、きっと死ぬまで忘れることはないでしょう。
今は亡き、大切な家族たちの顔とともに。
それに、貴族では無くなったのですから。嫁き送れというのもおかしな話。平民では20でも30でも結婚せずに自分の力で収入を得ている女性もいらっしゃいますものね。私も、そんな風になれるようにもっと頑張らなければ。もし、もしも、こんな私を貰ってくれるという方がいるというのなら、リアの為にも稼ぎが良くて、有能で、ちゃんと私の話を聞いて論じあえる、そしてリアの事を可愛がってくださる方なら考えることもあるでしょうね。
将来、リアの事を欲しいという殿方があらわれたら、それ以上の条件でないと許しはしません。
サルド騎士候家は、シャール王国で我が家だけに与えられた唯一の爵位です。我が家以外に騎士候を名乗ることが出来る家は無いと初代国王が明言しています。山と森と草原、そして小さな村が三つという、他の貴族達に嘲笑われている程度の領地しか持たない貴族。ですが、我が家はある一点を持って如何なる貴族よりも、王族よりも王に近くにあり、進言を許される立場でした。
それは、国防。
騎士候家に生まれた者は、幼くから身体を武器にすることを学び、武器を我が身体のように動かすことを学び、いかなる事態にも対応出来る戦略を学び、それらの内より得意とするものを極めます。そして近衛騎士、軍人、軍師、魔術を得意とするのなら魔術師団、女であれば後宮騎士、表立つことを苦手とするのなら諜報部へ。生まれたその時より、王家を、そして王族を守ることを誇りにしています。
始まりは、シャール王国建国に遡ります。
この国が出来る前には、腐敗と貧困にあえぎ混沌の名を欲しいままにする国がありました。初代王は仲間と共に立ち上がり国を滅ぼして、周囲の大国などを戦争の末に黙らせ、国を建てました。
私の先祖であるサルド騎士候は、初代王の幼馴染であり、彼の夢の為に武力を振るったそうです。闘いの天才であった彼は、友を愛し、新しく出来るであろう夢の国を愛し、そして何より戦場を愛したそうです。まぁ、要約すると夢見る脳筋だと我が家では語られています。我が家以外では、強くて素敵な騎士様だと言われているようですが、それは初代王や彼の仲間たちが実際の初代様の姿を外に漏らしたらヤバイと考えられた上での8割妄想の産物だとも・・・。
実際の彼は、強い敵に会えば笑い、自分の血を見れば喜ぶ、そんな人だったそうです。
現在に及ぶ領地の小ささも彼が決めたこと。
戦争が終わり、夢の国が建国された後、王は初代様に領地を渡そうとしました。
けれど、初代様は「そんな重たいものがあっては、有事の際にお前の元に駆けつけるのが遅れてしまう。そんなものは必要ない。お前が俺に信頼というものをくれることが何にも勝る。」これは我が家の伝承にもありましたので真実でしょう。
それでも、他に示しがつかないし、初代様の功績によって叩きのめした他国から横槍が入ると言った王。
「ならば、山と森、草原と小さな村が三つ。それだけでいい。」
顔を引き攣らせながら、王はそれでもいいかと承諾したそうです。幼馴染を良く知る王は、謙虚だ何だのと感動する貴族たちの中で唯一気づいていました。その言葉の意味に。
「ならば、山(訓練用アスレチック)と森(サバイバル訓練用)、草原(戦略訓練用)と小さな村が三つ(彼が懇意にしている傭兵たちの村・彼を崇拝している部下たちの村・戦争の時に彼を慕って付いて来た剣奴たちの村)。それだけでいい。」
その言葉の通り、子供の頃から日常の遊びとして山に行き、ナイフ一本で森に放り込まれ、兄弟で組別して草原で戦争ごっこをしました。
そういえば、村はどうなったのでしょうか?
戦争ごっこに付き合ってくれていた彼らの行方が気になります。
風の噂で、騎士候が取り潰しになった後、村も潰れて跡形もないと聞きました。
彼らなら野でも山でも、例え砂漠であろうと生きていけるでしょうが、心配です。もしも、国が軍を差し向けたなんて事だったら・・・。
いえ。そんなはずはありません。そんな余裕は無い筈です。あの後、すぐに帝国と何時戦線が開くかも分からない緊張状態になったのですから。
親族たちも心配は無いでしょう。
初代様は強くなることを望まれました。
それがご自身だけではなく、子孫も。
武器と素手ではありますが、自身と互角に戦う事が出来た女性を妻にして、8人の子を残された初代様。晩年、遺言を残されました。
血を極めろ、と。
その遺言に従い、我がサルド家は代々強さを持つ方を伴侶としました。
剣に優れた男がいると聞けば、女性ながらに馬を駆け。
魔術に優れた女性がいるとなれば、幾つもの山を越え。
魔法使いがいると聞けば、海を越え。
果てには、破邪の巫女、薬師、学者・・・
ただ唯一の強さを求め続けました。
時折、その血を本家である我が家に戻しながら。
父が言うには、爵位を失った瞬間に国内にいた親族たちは全て、他国に逃れるように手配したと。強さを求めるが故に世界各国に散っている親族たちの下へ行ったと言っていました。
ただ、代々王家に忠義を捧げ、国を愛することを誇りにしてきた父は、どうしても国の外に出る事は出来なかった。豊富な資源と希少な魔石の潤沢な鉱脈を持つ我が国の軍事を将軍職として支えてきた父には、サルド家が国を離れたらどうなるか、周囲の国々がどう判断するのかを理解していたのです。父たちは軍を十分に鍛えていました。けれど、それさえも霞む程に我がサルド家は名を轟かせ過ぎていました。負ける負けないに関わらず、サルド家が国を離れた瞬間に、王国の何処かには焦土が生まれていたことでしょう。
今思えば、離れてしまえば良かった。戦争が始まる前に。
国などよりも、家族が揃って笑っていられる方が良かったのに。
あぁ、駄目ね。
泣いている暇なんて無いのに。
そんな暇があるのなら、早くリアと一緒に帰れるようにしないと。
そんな家に生まれた私でしたが、身体を動かすことは苦手で、兄弟たちが難なくこなす事も手間取ってしまったり、出来なかったり。
家族の前で悔しさと申し訳無さに泣いたこともありました。
家族たちは優しく慰め、お前はお前の得意とするものを伸ばせばいいと言ってくれましたが。
私は、薬師であった祖母と、破邪の巫女であった曽祖父に似ているそうです。
身体を動かすことが苦手な所と手先が器用なところが祖母に、
肖像画を見る限り顔が曽祖父に。
あぁ、決して男顔というわけではないですよ。勘違いなさらずに。
東方の海の先にある島国で「破邪の巫女」という代々女が担う役目に特例中の特例で就いていた曽祖父は、家に飾ってあった肖像画にある晩年の姿でさえも美しい女性に見える方です。その曾祖父に所々の部位が似ているそうです。曾祖父は、その容姿を利用して若い頃には色々と悪さをしていたと話に残っています。巫女という立場にありながら中々に邪悪な曽祖父を曾祖母が殴って矯正したと父に教わりました。お前はそうなってくれるなよ?という忠告と共に。
まぁ、色々と語って、何が言いたいのかといいますと。
愚かなマーク。
誇り高きサルド騎士候家の娘である私が、大人しく虜囚の身に甘んじていると思っているのかしら?
ふっふふふ。