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別れと再会のこと。  前

「妹?マリアに妹が?でも、そんな話聞いた事無かったわ。」

「う~ん…まぁ、会ったら分かるよ。」


マリア・テレースについて、学園にいた時に女生徒達が話しているのを聞いた事があった。それによれば、彼女の家族は一人だったと思います。御両親は入学前に事故で亡くなり、残されているのは年の離れた弟だけ。

そういえば、今マリアの弟はどうしているのだろう。

彼女がああだと知っているのか。それで彼女に協力しているのか、恐れて逃げているのか。それとも…多くの人々のように彼女の犠牲となっているのか。

無事に、逃げ延びていてくれればいい。

イザークの姿が過ぎって、そう思った。


けれど、妹。

学園にいた時、出来る限りの情報を集めていたと思う。だけど、弟がいるのだという事を知れただけで、妹なんて一言の出てこなかった。だったら、シギの言った情報を持っている妹というのは誰のことなのか。

シギに聞き返そうにも、見上げたシギは困ったように笑っている。何時もの軽薄そうで面白がっているようなものじゃない。こんな顔をしている時のシギは、面白がって情報をはぐらかそうとしているんじゃない、言えない理由があるんだと分かる。

「彼女は、エリザと話がしたいって言ってたよ。」

「後でなら、ちゃんと紹介してくれるのね?」

今教えてくれても、と思う。でも、シギは私の確認に頷いてくれた。

それなら、シギが話してもいいという時機を待つのが一番いいということ。

「無理っていうか、言っても信じてくれなさそうって感じかな?ちなみに、テイガも知らないんだぁ。僕とオウキ爺さんと彼女だけの秘密。」

シギが人差し指で頭を掻いて笑っている。その言葉でアルト先生に目を向ければ、シギの言う通り知らなかったらしく驚いていた。

信じてくれない、と判断するような話。だけど、シギも曾お爺様もその方の話を信じている。なら、それがどんな話でも、私達は信じるしかないものなのでしょう。

でも、信じれないような話って…私はすでにマリアという存在事態が信じられないものを知っている。今なら何であろうと受け入れることが出来ると思います。


「さて、じゃあ此処にはもう用は無いね。さっさと出ようか。」


「そうね。」

聞きたいことがたくさん出来た。でも、それらは全て出た後に教えてもらえると約束してくれている。なら、今考えることは国から出ること。

無事に王都から出ることが出来るのか不安に襲われました。

その不安を、リアやイザーク、ユリアに聞かれないように声を窄めて、外から着てくれたアルト先生とシギに吐き出した。

「無駄に目立つような真似をしなければ大丈夫だろうね。」

「そうだな。まるで俺達が見えてないような感じを受けた。」

見れば分かるよ。

二人から、そう同じ答えが返ってきました。

「イザークは俺が手を繋いでいくよ。シギじゃイザークが落ち着かないし、エリザちゃんやリアちゃんだと大変だろ?」

アルト先生ははぐらかしてくれました。それは、イザークが本当に敵だったらという事ですよね。その心配はあります。イザークの意思でないとしても、マリアに操られてしまう可能性もまだ、あるのですよね。

私は頷き、アルト先生にイザークを頼んだ。

イザークにも、アルト先生と一緒に行きなさいと言いつけ、手を繋がせました。イザークはニコニコとした笑顔でアルト先生の名前を口足らずの声で何度も呼んでいました。

「私はユリアの手を繋いでいくわ。リア、大丈夫ね。」

「うん。大丈夫だよ。」

外に出た場合、近くにいればいいのか、体の一部を繋いでいなければならないのか。ユリアの心を守る術を探るのは安全な場所に着いてからにするしかない。なら、今は私が手を繋いでいくしかないでしょう。

そのせいで、一番幼く手を繋ぐべきリアに手を差し出してあげれない。

リアに謝れると、リアは大丈夫だと笑って、力強い目を返してくれました。

「…その子も連れて行くんだね。」

アルト先生が渋い顔をしていました。

「えぇ。放ってはいけないもの。」

その表情が、私達を心配してくれているからこそだと分かっています。

でも、破邪の力を失くしてしまえば自分で自分を殺し始めてしまうユリアを置いていくことなど出来ない。アルト先生は、ユリアはマリアの傍にいた人間だったという事を危惧しているのでしょう。でも、狂気に染まったユリアのあの光景を見ていれば、私と同じように考えると思います。

「分かった。」



「何か少しでも怪しい動きをしたら、俺達は容赦しない。その事を心に留めていてくれ。」

「分かっています。受け入れて頂き、本当にありがとうございます。」

「エリザちゃんは甘いところがあるからね。仕様が無い。」


全員で部屋を出る時、ユリアの横を通り過ぎるようにアルト先生がユリアにそんな事を言っていたなんて、私は気づきもしませんでした。後々にユリアから教えて貰わなければ、私は生涯気づく事は無かったでしょう。




あれだけ私を外に出そうとしなかった屋敷と外の境界線を、シギのおかげで解放された私はあっさりと通り抜けることが出来ました。

「どうしてイザークは解除してくれなかったのかしら。」

そう思ったのは、私が屋敷を出る時にイザークが何の反応も示さずに、ただニコニコと笑っていたからです。

魔道具を解除してくれなかったのは、壊れた心の中でも私を外に出したくないと思っているのかと思っていました。だから拒んでいたとのだと。

でも、それなら私が実際に屋敷の外に出た時に何らかの反応を見せるかも知れないと思っていました。

アルト先生も手を強く握っていたようですが、イザークは何も反応を示しませんでした。

「まぁ、イザークって術を解くのが苦手だったから、それじゃないかなぁ?」

「えっ?」

イザークが?

シギを見上げれば、シギの顔に嘘はありませんでした。

イザークは全ての属性を操れる魔法使いで、学園に入学する前から城から協力を求められていた。そんなイザークに苦手なものが、魔法に関して苦手があるだなんて…。

「知らなかっただろぉ。イザークは何でも出来るよって顔した魔法使いだけど、実は術を解除したりするのは大の苦手だったんだよ。」

「知らなかったわ。」

「他人に、特にエリザにはカッコつけた所しか見せようとしなかったしね。」

イザークの姉なのに。そんな風に思い、シギからも目を逸らしてしまった私の頭をポンポンと叩く優しさ手が辛く感じられる。

「大丈夫。イザークが治ったら、ゆっくり話せばいいんだよ。そうしてお互いを知ればいいんだ。姉弟っていったて他人なんだから」

アルト先生の声が、私の中に落ちるように胸に響きました。

「そうそう。ゆっくり話せばいいよぉ。どうせ、テイガに殴られて強制的にゆっくりさせられるだろうし、ね。」

「まぁ、確かにな。まずは一発入れられるだろうな。それ以上は、全部が終わった後に回すくらいの頭は残ってるだろうし。」

何かと手の早いテイガ兄様なら有り得る事です。

昔はよく、私がテイガ兄様に叩かれていました。もちろん、手加減はされていましたし、今思い返せば自分で頭を抱えるようなものですが、それをされる理由もあった。それをイザークは呆れて見ていました。

「しんみりしちゃってる所で悪いんだけど。僕は此処に残るから。」

リアの肩の上にいたネズミ姿の曾お爺様がそう言って地面に飛び降りた。

「えっ?」

「オウキ爺さん、何する気だよ?」

このまま一緒に行くのだとばかり思っていた私達は驚き、この場にいる誰よりも曾お爺様の様々な所業を知り、体験しているシギが唸り声のようなものを上げて曾お爺様を睨みつけている。その口元を引き攣っていて、危惧するようなことがあるのだと理解出来ました。

「嫌だなぁ。まるで僕が何時も何かをやらかしてるみたいじゃないか。エリザやリアに誤解させるような事を吹き込むんじゃないよ、シギ。それに、こんな端くれじゃ何も出来ないよ。心配することはない。」

鋭いチーチーという音を上げ、足をバシバシと地面に叩き付けている様子は本物のネズミのようでした。曾お爺様に説明されても、シギはあまり納得のいっていない様子で、地面の上のネズミと睨みあっていました。

「ここまで来たついでに、城に入って敵の様子を探りに行ってこようかと思ってね。あと、墓の様子を見に行ってもいいね。」

「危険では?」

ネズミの体とはいえ、警備が厳重な王城に入るのは難しいはずです。

「あぁ、本当に可愛い子だね、エリザ。大丈夫だよ。これは只の端くれ。いざとなれば切り捨てる。そうすれば、本体に傷一つ付かないんだ。君たち二人と本当の姿で会って抱き締められるのを楽しみにしているよ。」

「本当の姿っても、人の体だけどねぇ。」

四足でチョロチョロと走り、私の足の甲に頬ずりをしているネズミ。

普段ならば悲鳴を上げていたかも知れません。でも、こうしてみると何だかネズミが可愛く見えてきたのはどうしてでしょうか。

そんな風に考えていて、ネズミに集中していたせいか、シギの言葉を聞き逃していました。

「ちょっと借りただけだよ。大丈夫、その内ちゃんと返すから。」

ネズミの口から出た言葉で、シギが何を言っていたかを思い出そうと頑張り、そして探り当てたシギの言葉に顔が引き攣りました。

人の体。

よく、物語などにある幽霊に乗り移られる、憑依といわれている事のことでしょうか。本当に、悪霊なのですね、曾お爺様。

「分かった、エリザ。こういう人なんだ。」

「ちゃんと、無事に返して下さいね、曾お爺様。」

「大丈夫、大丈夫。無駄に元気の良さそうなのを借りたから。」

そう言って、オウキ・サルドを宿したネズミは颯爽と走り去っていきました。


「まぁ、あれは放っておいても大丈夫だから。行こうか。」

「えぇ。」

屋敷の使用人用の裏門を開け、外に出ました。

むせ返るような、頭をハンマーで殴られ、磨り潰されているような痛みが襲ってきました。鼻に入ってくるのは、屋敷の中でマーク、マリアから感じたあの甘い匂い。

あの二人から香るそれも濃く甘いと思っていましたが、王都に漂うこれもそれに劣らない程の濃厚でドロドロと感触があるような匂いです。

外に出る前に繋いだユリアの手に力が入ったのを感じました。

「大丈夫?」

「えぇ、大丈夫よ。…本当に…大丈夫。良かった。」

私と一緒だとしても外に出ることに不安があったのね。ユリアの目に涙が滲んでいるのを見てしまった。良かったと呟く声は、私にしか聞こえない程小さいものだったけど、そこに含まれている安堵はしっかりと感じ取れました。


ユリア達に話は聞いていた。

ニコニコと笑い続ける王都の住人達の話は。

けれど、想像したものと実際に見るものは、やはり違いました。


裏道を潜り抜ける中、大通りの光景を僅かに見る事が出来ました。


ニコニコと笑って行き交う人々。

誰かとぶつかろうと、荷物を落とそうと、子供が転んでも、誰もニコニコとした笑い顔から表情を変化させない。

そして、裏通りには同じようにニコニコと笑い、汚れたり、ボロボロに解れたりしている服を着たまま、表通りから見えないよう見えないようにと不自然な歩きをして裏通りの中を行き交っている老人たち。


その光景に、不気味で背筋に怖気が走りました。

とても気持ちが悪く、思わず声が上がりそうになる口元を押さえ、その手も震えていました。


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