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テイガ・サルドという男。 後

死の荒野が戦場となって3日後、荒野を見渡せる崖の上にテイガたち4人の姿はあった。


崖の下に広がる荒野では、ホークス侯爵たちが決死の思いで戦い続けている。テイガ達が向けた事で一端は押し切られそうになったものの、テイガが急遽呼び寄せた仲間達が参戦したことで戦況は持ち直し、今は拮抗状態を保っている。圧倒的な戦力差の中で、何とか持ちこたえている状況だった。


「あ~この戦力差なら、この辺りが限界になっちまうか?」


崖の上から広野を睨み、テイガは頭を掻きむしる。

本当だったなら、テイガたち4人もあの場にいて、3日もあれば皇国軍を壊滅させることだって出来た筈だった。あの、謎に満ちた御輿を暴き、破壊してしまう事も出来ただろう。





介入した直後に、アリス達の援護を受ける中で魔術を練り上げ、『火矢』『氷棘』『風刃』と連続した攻撃を御輿に向け放ったものの、御輿に届く前に結界に阻まれてしまった。一切御輿から離れず馬に乗って笑っている青年が結界を生み出しているのだろうと、テイガ達は予想している。

結界によって攻撃を阻まれるというといっても、テイガ達には結界を破る方法も結界ごと御輿を破壊する方法もあった。

四人で目配せをし、御輿に近づき二つの方法を用いようと決め、動き始めた。


彼等が兵士たちを薙ぎ払い、御輿に向かう道を開いていた時、四人を驚愕させ、戦線から離脱させる事態が起こった。


己の武器を振り回し敵を薙ぎ払っていたテイガの頬に一筋の傷が生まれ、血が流れ出たのだ。背後からの攻撃に勘付いたテイガが咄嗟に振り返り、体を仰け反らなければ、その攻撃はテイガの頭に直撃していただろう。

面白い。テイガが攻撃を仕掛けた敵の顔を拝もうと、それが放たれたであろう方向へと目を向けた。

「まじ、かよ…」

獰猛な笑みを浮かべていた顔が、驚愕の表情に固まったまま一瞬にして焦りと戸惑いの色に染まることになった。

テイガの様子を、彼に目を向けないまま気にかけていたアリス達にも異変は伝わり、その視線が向かう先を目で追った。

そして、アリス達の顔も、テイガと同じように驚愕し、戸惑いに染まったのだった。


テイガ達四人は戦場から離れることを余儀なくされた。

そうしなければ、現れた敵とこの場で戦えば敵味方関係なく消え去る事になっていたかも知れないからだ。さすがにそれはテイガ達にとっては後味が悪く、何より周囲に気を取られ隙を作ればテイガ達が死ぬ可能性さえあった。




「あぁああああ!クソッ。」

「五月蝿いわよ、テイガ。予想し得た事態。していなかった私達が愚かだったのよ。」

思い出しても腸が煮えくり返ると頭を掻き毟り地団駄を踏むテイガ。その様子を横目で見上げ、冷たい言葉を吐き捨てるアリスだったが、その手は隣に立つテイガの腰をトントンと優しく叩いて宥めようとしていた。

「叫びたい気持ちも分かるから止めないが、集中を乱すなよ、テイガ。」

一瞬だけ、テイガを睨みつけてから前方に視線を戻すカーズ。

今、彼等の前方にはピンク色の光を放つ結界によって敵の攻撃を阻んでいる。

テイガ達が崖の上に留まっているのは、彼等の命を執拗に狙って攻撃してくる襲撃者たちの攻撃を引きつける為であり、戦況を確認しやすくする為でもあった。

現れた敵に驚愕した後、冷静に状況を判断したテイガ達は、ホークス候爵に説明とすぐに代わりとなる者たちを寄越すという言葉を残し、この崖の上へと移動した。

そして、どうやらテイガ達だけを狙うように命令されているらしい、ニコニコと笑う襲撃者たちはテイガ達を追いかけ移動し、テイガが作り出した結界越しに攻撃を仕掛け続けてきている。

「あの女にも、こんなことを考える頭が有るんだね。サルドにサルドをぶつけるなんて。意外過ぎて感心したよ。」

「いや。あの毒女にそんな頭は…。」

3日、手を緩めることなく攻撃し続けている者たちの顔にテイガたちは嫌という程見覚えがあった。サルドの名を名乗る者たちに、強者として名を轟かせている者たちだった。

その内の二人は、特によく知っている。


「悪い。下が限界だ。もう、待てねぇ。」


「結構よ。十分してくれたわ。」

「そうそう。それに、逃げとけったのに捕まっちまう奴が悪いんだよ。」


ボロボロになりながら向かってくる敵の最前列にいるのは、アリスの父親である男と、カーズの父親である男。彼らは剣の柄を持つ手から血を流しながらも、ニコニコと笑い結界を攻撃し続けている。

彼らからの攻撃による被害を抑える為に戦場を離れた時、近場に待機させていた仲間たちに連絡を取るのと同時に、操られている者たちを助ける事が出来る人物にも連絡を取った。その人物が帝国を仲間にする為に動いている事は分かっていたが、彼に距離など関係は無い事、何より助ける事が出来る力を持つのはテイガ達が知る限り、彼とエリザ、リアだけであり、その三人の中で力を完全使いこなせているのは彼だけだった。


けれど3日。

一向に、返事さえも返ってくる気配がない。

時折崖の上から魔術を用いて援護して戦場の拮抗を保たせ、結界で阻む事で敵となったサルドの者たちを留めていたテイガ達にも、そして荒野で戦い続けている者たちにも限界が訪れようとしている。

結界を張り続けているテイガの魔力も底を突き始めていた。

これ以上の疲弊は、負けを認め戦場を去ることも難しくなる。


「アリス、カーズ。下がってろ、俺とバーグがやる。」

「そうだね。」

肩を回して、テイガは結界に攻撃を続けている男達に向かい足を進めていく。

バーグも刀を鞘から抜いてテイガの後を追う。

「馬鹿言わないで。」

「そうそう。下手な優しさなんて気持ち悪いだけだ。」

アリスはテイガの背中に拳をいれ、痛みに悶えるテイガを追い抜かしていった。その両手をポキリポキリと鳴らしている。

バーグも、自分の肩を同じ位置にあるカーズの頭を叩き、二本の鞭を手に取ってアリスの後に続く。

「息子の優しい忠告を無駄にするような奴だが、親父だ。俺の手で始末はつける。」

痛みが一向に引かない中、テイガがアリスの背中を睨みつける。

「アリス。」

「大丈夫よ。あっちは、この3日間でボロボロよ。私の力なら、動きを止める程度で終わらせることが出来るわ。それよりも、貴方は大人しく休んでいなさい。」

背後にいるテイガに見えるように、頭の上に持ち上げられたアリスの手の周囲が歪んで見えた。

結界は外からの進入を阻むもので、中から出て行くことを阻むようには作られていない。

アリスとカーズ、そして、ならば他を担当しようとバーグが結界を踏み越えていこうとした。


バサッ

ピギーッ!!!!!!!!!

上空から大きな翼が羽ばたく音が聞こえ、奇妙な泣き声が耳を突き刺した。


「ゴメンよ。間に合ったのかな?」

四人は咄嗟に耳を手で塞ぎ難を逃れることが出来た。しかし、襲撃者達はただ攻撃を繰り返すばかりで耳を塞ぐことなく音の直撃を受け、地面に倒れていっていた。

「遅いよ、爺様。」

倒れた襲撃者達の上に降り立ったのは、普通よりも少しだけ大きな鷹だった。その嘴からは若い男の声が飛び出す。

テイガはそれに驚く事もなく、悪態をついて返した。

その声は、間違いなくテイガ達が助けを求めた相手のものだった。

「仕方がないだろう。帝国の子が中々複雑に染み込んでいて大変なんだから。まるで血が染み込んで乾いた布みたいだよ。現役の頃だったら楽に出来たんだろうけど、今の僕じゃぁねぇ。ようやく一段落っていうところだよ。」

ピギュピギュという小さな泣き声に重なって、男の声が聞こえてくる。

その声は、大変だと愚痴っているのに、その本質では楽しんでいるような気配を伝えている。


「爺様。あっちはどうにか出来るか?」

襲撃者に気を配る必要が無くなったことでテイガは肩の荷を落とし嘆息した。そして、張り続けていた結界を解除し、毛繕いを始めた鷹に向かい、顎で崖の下を示しながら問い掛けた。

「無理だね。」

鷹から聞こえる声は、あっさりと言い捨てた。

「あの御輿、昔ならいざ知らず、今の僕じゃ対処出来ないよ。あれは元凶に近い。周りにいる皇国兵はどうにか出来るけど、治した途端に支配されたんじゃ無駄な力を使うだけだ。

だからね、テイガ。協力してあげるから、さっさと撤退する。そして、エリザに協力させる。じゃないと、手遅れになってしまうよ。」

「やっぱり、エリザか…」

「お前の考えは分かるよ。エリザに危険な事をさせたくないんだろう。」

鷹が翼を羽ばたかせ、意識を失った襲撃者の上からテイガの肩へと飛び移った。

「それも分かるけどね。どうしてだか、強い破邪の力を持つ人間っているのは、子供の頃から無意識の内に悪意を排除してしまうせいか甘ちゃんが多いから。エリザが戦いに関わるのは無理だろうね。でも、今はそんな事を言っている場合じゃない。それは分かるだろう?」

声は、テイガに優しく諭す。

その声に、テイガは舌打ちをしながら頷いた。


「良い子だ。」

「やめろよ。俺が幾つだと思ってるんだ。」

「幾つだろうと、僕から見たら可愛い子供だよ。だから、早く『自称神様』を始末して、皆の顔を久しぶりに見たいと思っているんだよ。可愛い子供達の笑顔を見たいんだ。」

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