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王太子妃のこと。  中

王太子妃は不快、と認識して下されば間違いありません。

どうして、マークがいないの?


王太子妃マリアは応接間に案内され、王宮のものとは比べるのもおこがましい、けれどバッカス家の身分を考えれば十分なソファーにその身を沈めていた。屋敷に到着するまでは上機嫌なほほえみを浮かべていたのだが、屋敷につきマークの不在を執事に聞かされた途端、口先を尖らせ、不機嫌に歪んでいった。


早く探してきて、とバッカス家の使用人の一人に『お願い』し、マークと一緒じゃないと帰って来ないでとまで付け加えた。それはまだ、マリアが馬車を降りで出迎えをしていた時だった為、使用人は屋敷の外へと迷いのない足取りで出ていった。

そして、マリアはマークを待つからと執事に応接間へと案内させた。




薄暗い通路の中に立ち、エリザは覗き見用に作られた小さな穴から応接間の中を見た。応接間の中では、マリアがソファーにだらしなく体を沈め、礼儀もマナーもなく、用意された紅茶を飲み、添えられていた焼き菓子を手の指を舐めながら次々に口に放り込んでいた。

エリザから見えるのは、そんなマリアの、ソファーの背凭れから唯一出ている淡いピンク色の頭だけ。

応接間からじっくりと見ていることがあったのなら、ソファーの背後にある暖炉の上に飾られた、花束を抱える女性が描かれた大きな絵。その細やかな細工が施された額縁に違和感を感じられたかもしれない。エリザは、その額縁に開けられた小さな穴から覗き見ていた。


…………………………………………………………………………




「もう、どういうこと!!

 私がせっかく来てあげたのに、いないだなんて‼」


マリアの、物を口に入れたまま話す声が聞こえてきました。

年嵩の身分の高くない男性が、このようなことをしている所は見たことがあります。人に不快を覚える行為です。平民たちでさえ知っている最低限のマナー。王太子妃という地位にいる者が間違ってもしてはならないことでしょうに。学園の頃、最低限のマナーは出来ていたのに。これがマリアの本当の姿ということでしょうか。



「もしかして、マークも壊れちゃったのかしら。」


体が跳ね、思わず声を出してしまうところでした。


「どうしてかしら?神様がイザークをお仕置きして、『お願い』の力をプレゼントしてくれた時に、使い過ぎると心を圧迫して押し潰してしまうから気をつけてって教えてくれたから、リヴァイでちゃんと練習したのに。どうでも良かったリヴァイと違って、マークは普通に構ってあげてただけなのに?」


爪を食い込ませて握り込んだ両手で口を塞ぎ、唇には歯が食い込む。

そうしなければ耐えられない。

マリアの言葉に気持ちが悪くなります。


イザークは、マリアが「神様」と呼ぶ存在に心を壊された。

ユリアやマーク、王都の住人たちが自我を奪われマリアの命令を聞いてしまうのは『お願い』という力によるもの。一体、「神様」とは何なのか。『お願い』なんて聞いたことも見たことも無い力の効力は。憎悪に染まる頭の端で冷静に考えが巡り、そしてリヴァイ皇子の姿が浮かんだ。


リヴァイ皇子は、マリアの取り巻きだった人だ。帝国の妾腹の第2皇子。妾腹といっても、あちらの国は側室という制度が無く、正妃は何カ国も従えている小さな属国から娶ることが定められているから妾と呼ばれるだけで、その立場はしっかりと確立されている。リヴァイ皇子の母君は、女性で下級貴族の出ながら実力で宰相の座についた方。女性の地位と職が何代も前から認められている帝国であってもそれは異例の事で、彼女は近隣諸国の女性たちの憧れの的となり、属国も合わせた帝国内で老若男女の絶大な人気を誇っていた。そんな彼女に正妃も憧れを抱かき、夫である皇帝よりも宰相との関係を大切にしていたと喜劇にもなっていた。そんな宰相が地位から身を引き、命を懸けて産み落としたリヴァイ皇子は正妃や異母兄弟たち、そして帝国内で愛された存在です。

そんな彼が学園に留学してきたのは、自国では甘やかされるからという理由でした。照れ笑いを浮かべていたリヴァイ皇子の顔を思い出します。そして、彼もまたマリアの傍にいるようになってから様子が可笑しくなっていきました。

学園を離れた後、リヴァイ皇子は心を病み帝国に戻り、帝国が攻めて来る理由となったと聞きましたが、あの頃の私は詳しく知ろうとはしなかった。今更、その事を悔やみます。


「もったいないなあ~マークはリヴァイと違って役に立つし、好きなキャラなのに。」


キャラ?

マリアは時々、意味の分からない言葉を発する時がありました。


「そういえば、イザークも最近見ないかも。まぁ、あれはペットの猫みたいなものだから、別にいいけど。主人公である私に攻撃して怪我をさせたんだから、自業自得だわ。」


イザークがマリアに攻撃した?

だから、ああなってしまったと。


「マークかぁ。やっぱり、エリザを殺させたのが駄目だった?でも、あんな生意気な女、死んで当たり前なんだから。マークの隣に立つのでさえ恥ずかしいような地味女の癖に、すかした顔して笑っちゃってさ。この世界の主人公は私なんだから、モブはモブらしく端っこで大人しくしてろっていうのよ。しかも、あんな黒髪に目って。私を嵌めて殺したあいつにそっくり。あぁ、やっぱり拷問して殺せば良かった。マークが来たら、どんな風に惨めったらしく死んだか教えてもらわないと。

あいつと違って傍に置いても良かったのに、あいつの家族も全員駄目だったわね。神様もバグだから早く削除しないと大変だって言っていたもの。私の世界にバグは必要ないもの。綺麗で皆が笑って私の事を愛してくれる世界なんだから。」


マリアは私が死んだと思っている。マークがそう報告して信じたのか。と冷静に考えている私だった。でも、マリアの言葉は考えないようにしてもジワジワと私の頭と心を蝕んでいく。

バグ?意味は分からない。でも、私たち家族をマリアと神様は世界から消し去ろうとしたということは、はっきりと理解できた。


それに、殺された?マリアが…?

では、ここにいるマリアは一体なんだというの?


「父親と次兄っていうのは、まぁまぁ見える顔だったから私の傍にいることを許してあげようとしたのに断るし、変な顔するし!長男なんて最悪。女に縁がなさそうな顔だから優しい私が話しかけてあげたのに

無視するし!」

お父様とジェイド兄様は、整った顔で黙っていれば貴公子として人気だったようですが、無愛想な上に戦闘狂、さわやかな顔してドがつく鬼畜な人たちでした。テイガ兄様は野獣とあだ名されるような人。そう、マリアは三人にも近づこうとしていたのですね。取り込めなかったということは、やはりマリアには破邪の力が有効。…破邪の力が弱いとはいえイザークも「神様」という存在が出てこなかったら、ああなってしまわずに済んだのでしょうか。


「母親はババアだからどうでも良かったけど、長女は最悪だったわ。隠しキャラを私から横取りしたんだもの。カノン・ドュ・モルグ公爵。全攻略キャラの好感度を上げたら出会う筈の、渋い美声の年上セレブキャラ。なのに、なんであんな女と結婚してるのよ。しかも、幸せそうにと人前でベタベタして見せびらかすし。」


驚くしかない。

マリアが、義兄まで狙っていたなんて。

まさか…


「ふふふ。カノンもバグに汚染されたせいで私の『お願い』が効き辛かったけど、親族って奴等を使って離縁させてやったら、ちゃんと言う事聞いて、あの女を屋敷から叩き出して、あの時は楽しかったなぁ。あの信じられないって顔。主人公の私から奪ったことは罪なんだから罰は必要よね。でも、『お願い』で仕込んだ毒であの女はすぐ死んだらしいから、許してあげる。私は優しいから。」


セイラ姉様も、マリアに殺されていたの?

確かに、あんなに強かった姉様が憔悴しながら死んでいったなんて信じたくは無かった。でも、それだけ義兄と仲睦まじかったからだとばかり思っていた。

しかも、こんな理由で?

そんな方法で?


「カノンったら、私の許しも無く何処か行っちゃったけど、家を失くしておいたから困ってすぐに私の所に許しを乞いに来るわね。」


姿を消した義兄は正気に戻っているのか。そうだと言うのなら、義兄は大丈夫なのか。絶望しているのではないか。もし、正気に戻り絶望しているのなら、リアと会わせてあげなければ。姉の眠るお墓に知らせてあげないと。



リアの父親カノンさん。年甲斐も無く、親子程年の離れたセイラに一目惚れして押して押して押し捲って、サルド父と戦って、セイラを娶った渋系おじさま。

さぁ、今は何処にいるのか…

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