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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
10章 夏のイレギュラー(前編)
97/152

03

 ギラギラとした真夏の太陽が照りつけるビーチ。ただそこにいるだけでも汗があふれ出てきそうな灼熱の中で、元気よく動いている少女たちがいる。

「よぉーしっ!オンちゃん任せてっ!せぇーのっ……あ、あっれー?」

「ああん、ミオちゃんおっしいいー。もうちょっとだったよおお?次はあ、絶対当たるよおー」

「おーほっほっほー!伊美澪湖、貴女さっきから全然なってませんわねっ!本前川さんに頼りっきりじゃないの!そんなことではわたしたちのチームの足元にも……」

「お嬢様。わたくしたちのチームの失点は、今のところ全てお嬢様のせいだということ、分かってらっしゃいますか?」

「う、ぎゅう……」


 ビーチに出た一同は、あらかじめ用意されていたコートとボールを使って、ビーチバレーで遊んでいた。

 今戦っているのは、澪湖と音遠チームVS百梨とイクチーム。音遠とイクは特に問題ないのだが、澪湖と百梨の方が精一杯味方の足を引っ張っているおかげで先ほどからどちらのチームも失点を繰り返し、試合は接戦を極めているようだった。


 そこから少し離れたところには、先ほど澪湖が持ってきたビーチパラソルが立てられていて、簡単な観客席のようになっていた。



「か、か、か、かなたちゃん…、そ、そ、その半裸…、す、すっごいエロ……あ、いや、かわいいですよっ!まるでAV……あ、いや、映画の女優さんみたいですよっ!せ、せ、先生にもっとよく見せてくれませんかっ!?はあ…はあ…はあ…はあ…」

 パラソルの下で、体育座りをして小さくなっているかなた。先ほどまで着ていたタンクトップとショートパンツはなくなり、今の彼女はビキニ姿になっていた。そんな露出度の上がった格好が彼女には恥ずかしくてたまらないようで、長い腕と脚を最大限に活用して、体育座りのポーズで自分の体を覆い隠していた。

 勿論、周囲の女性陣にコンプレックスを感じていたかなたが、自分から進んでそんな状況になった訳ではない。十数分前、今は澪湖たちが不毛な試合を続けているバレーコートで、かなたはイクとヨツハのチームとビーチバレーで戦うことなり、それに大敗してしまった。今の格好は、そのときの罰ゲームとしてイクたちに水着を取り上げられてしまった結果なのだった。


 しかもそんなタイミングに限って、どこから湧いてきたのか高校の数学教師、琢己詩歌が現れたというのだから、かなたは相当に不運だと言えるだろう。ジロジロと、それこそ舐め回すように自分の体を見る詩歌に、かなたの恥ずかしさは頂点に達し、今のポーズのまま動けなくなってしまっていたのだった。


「た、琢己先生…、あんまり見ないでくれないかな……。あ、あたし、この格好あんまり人に見られたくないんだけど……」

「大丈夫ですよっ!」

 姿勢を低くして、詩歌はかなたの腕や脚の隙間から、何とか隠された部分を覗き込もうとしている。

「先生は、恥ずかしがってるかなたちゃんも、全然イケる人ですからっ!…って…て言うか、むしろそっちの方が…大好物なんですからっ!……はあ…はあ…はあ…」

 詩歌の格好は、白いTシャツに紺色のパンツ型の水着。胸には「六年二組 しいか」と書かれた名札が貼ってある。それは、詩歌がこの日のために、いや、むしろかなたに見てもらうためだけに特別に取り寄せた水着で、体操着とブルマをモチーフにしたものだった。

 相当贔屓目に見ればその格好は、低伸長で小学生のような容姿の詩歌にとてもよく似合っていて、ある種のノスタルジーを感じさせる素敵なコーディネートだ、と言うことが出来るのかもしれない。

 だが、ブルマなんてとっくに絶滅しているこの時代にいい年をしてそんな水着を着ているというのは、普通に考えればまともな神経ではなく、かなたを含めた一同はその水着を一目見た瞬間にドン引きした。そして誰から言い出すわけでもなく暗黙の了解として、詩歌の水着については一切触れないことにしようと決めたのだった。


「はあ…はあ…はあ…。そ、それにしてもかなたちゃんは、半裸がよく似合いますね、へへ…。こ、このビーチでもかなたちゃんほど半裸が似合う人なんて、他にいないんじゃないんですかっ!?ビーチの視線はかなたちゃんの半裸に釘づけですよ?このこのー!いよっ、半裸オブザイヤー!」

「いや……できれば()の方じゃなくって、水着を着てる方にフォーカスして欲しいんだけど……」

 てか、半裸言うな…。

 さっきからずっとこんな調子で、かなたのビキニ姿に自分の劣情を暴走させている詩歌。それに恐怖を感じていたかなたは、何か大変なことが起こってしまう前に早くバレーの試合が終わって、奪っていった水着をイクとヨツハが返してくれないかと、心の底から願っていたのだった。



「おー、かなたちゃーん!かわいー水着だねー」

 そのとき、ビーチの向こう側から渕上茶央美が歩いてきた。

「う……」

 なるべく自分の今の姿を人に見られたくないというかなたの切なる思いは、詩歌に続いてまたしても裏切られたことだ。それどころか、逆にどんどん人が集まってきているような気がして、かなたは心の中で悲鳴をあげずにはいられなかった。

 これ以上自分の貧相なビキニ姿なんて見られてはいけないと、彼女は体を覆う四肢に更に力を入れ、全力で防御態勢をとる。

「あ、ああ…ど、どうも…」

 しかし同時に、かなたは無意識の内に鋭い眼光を向けて、近づいてくる白い水着姿の茶央美の全身を上から下まで、くまなく観察もしていた。それは時間にしてコンマ数秒。そしてその観察を終えると、かなたは茶央美に対してある判断を下した。

「ちっ。こいつも『持ってる』やつか……」

 やさぐれた態度で、舌打ちをしたかなた。向かってくる茶央美の凹凸のはっきりした女性らしい体を見て、そんな彼女のことを自分の敵と認識したのだった。


「なんかよう?」

「おわっ、何でいきなり怖い顔してんの!?……ってかさー聞いてよ、かなたちゃーん!このビーチの男の人みんな変なんだよー!?こんなにかわいい私が前を歩いていくのに、誰一人声かけてこなくってさー……」

 詩歌が一歩前に出て、茶央美とかなたの間に割り込む。

「ちょっと貴女…。何勝手に、かなたちゃんに近づいてきてるんです?」

「あ、琢己せんせーも来てたんだー!ってかてか、その格好すっごいウケるんですけどーっ!」

「……渕上さん、変なのは貴女じゃないんです?折角私たちが水入らずでイチャイチャしているところに空気も読まず入って来るなんて、正気の沙汰とは思えませんですけど?そんなことでは、社会に出たとき苦労しますですよっ!?」

「い、いや……先生何言って……」

「そうだよせんせー何言ってんのー?なんか分かんないけど、すっごいおもしろーい!あはははー」

 向かい合う形になった茶央美と詩歌。茶央美はいまいち事情がつかめておらず、ただただ、おかしな格好をしておかしなことを言っている目の前のチビッ子を笑っているだけだった。一方そのチビッ子の方は、自分の意見が正しいことを完全に疑っていないようで、あくまで真顔で茶央美を睨みつけている。

「今なら許してあげるですから、お子様はさっさと自分の部屋に帰って、夏休みの宿題でもやってるがいいですよっ!これから私とかなたちゃんで、R18の大人の時間が始まるですからねっ!」

「だとしたら、あたしもまだ18じゃないからアウトなんだけどね…」

「あははー。大人の時間だってー。そーんなの……ん?」

 笑顔が少しひきつる茶央美。詩歌は止まらない。

「だって見てくださいよ今のかなたちゃんをっ!こぉんなエロい格好して!完全に私のこと誘ってるとしか思えないでしょうがっ!?こんなの、『私はいつでも準備オーケー!』って言ってるのと、おんなじことじゃないですかっ!」

「い、いやいや……」

 先生こそ、ご自分の痛々しい格好をちゃんと見てくださいよ……と、かなたは心の中で思った。だが、詩歌の言葉があまりにも馬鹿馬鹿しいのと、ただでさえ恥ずかしい自分の格好が余計に辱められたような気がして、かなたはうまく言葉を出すことが出来なかった。

「……あたし、この格好自分の意志でやってる訳じゃなくってさ…」

「もしかして貴女、かなたちゃんのこと狙ってるんです!?貴女ごときお子様が、かなたちゃんとひと夏のあやまち出来ちゃうとか思っちゃってるんですっ!?」

「い、いやー……あ、あの、私そーゆーのはちょっと…て、てゆーか…」

 詩歌は茶央美につかみかかる。

「私は、かなたちゃんが中学のころから狙ってたんですからねっ!この春に一緒の高校にいけることになって、やっと願いが叶ったんですからねっ!?だから、昨日今日かなたちゃんのこと知ったようなガキになんか……」


「え、ま、マジ……ですか?」

 さっきまではまだ少しは余裕のあった茶央美から、今は完全に笑顔が失われていた。

「か、かなたちゃんと琢己先生って……そ、そうなの……?つ、付き合ってたの…?」

 どうやら詩歌の言った馬鹿馬鹿しい妄想を、彼女は真に受けてしまったらしい。そんなことありえないと思っていたかなたは、予想外の展開に驚き、大いに焦った。

「ちょっ、ちょっと、何言ってるんだよ!そ、そんなわけないだろっ!これは先生が勝手に言ってるだけで…」

「そうですよ!かなたちゃんと私が付き合ってるなんて、そんなわけないでしょうがっ!」

 何故か一緒に弁解する詩歌。茶央美も、「あ、あれ?じゃあ一体……、どうゆう関係?」とその言葉を信じかける。だが…。

「これはただ、かなたちゃんの耐え難い魅力に、かなたちゃんが四六時中垂れ流しているメスのフェロモンに、私が虜になってるだけですよっ!私はかなたちゃんにとって、ただの性奴隷ですよ!」

 一瞬弁解を期待させて、速攻で裏切る詩歌。茶央美はそれも完全に信じてしまったようで、今では二人を見てガタガタと震えだしていた。

「え、え、ま、マジ…ですか……?せ、性どれ……そ、そういうのって……本当に、あ、あるんだ……えー……えー……」

 急に彼女は勢いよく回れ右をする。

「し、失礼しましたーっ!お二人でごゆっくりどうぞーっ!」

「お、おい!ちょっと待てって…」

 かなたの言い訳も聞かず、そのまま茶央美はビーチを逃げるように走り去ってしまった。


 彼女の猛ダッシュでまき上がった砂粒が収まると、パラソルの下は再び、詩歌とかなたの二人きりになる。

「あいつ、本当に信じちゃったのかよ…。後で誤解を解いておかないと…」

「ぐふ……ぐふふ……邪魔ものは居なくなりましたね?そ、それでは……」

 制止する者のいなくなった、二人だけの空間。詩歌は最初の状態に戻って、不気味な笑い声を出しながらかなたににじりよる。

「えふふふ…か、かなたちゃん……そ、そろそろ、いいですよね?人前でそんな半裸な格好をしてるってことは…ぶふぅっ……オーケーって、ことなんですよね…?」

「いやいや先生、ふざけるのもいい加減にしてくれないと…」

「ねえ、かなたちゃん……か、か、か……かぁなぁたぁちゃーんっ!」

 そして最後には、かなたに向かって飛びかかってきたのだった。体育座りしているせいで、逃げ出すのが遅れるかなた。その変態小学生がすぼめた口が、かなたの口と接触しそうになった、次の瞬間……。


「いい加減にしろって、言ってんだろうがぁーっ!」

 それまで体を隠すために使っていた腕と脚を解放して、かなたは襲いかかる恥女を思いっきり巴投げにした。

 フルスイングのホームランが決まったかのように、詩歌はぽーんと綺麗な放物線を描いて数十メートル先に飛んでいく。そして少し時間をおいてから、「ぐえっ!」というカエルを踏みつけたような声を出して浜辺に叩きつけられた。


「付き合ってらんないよっ!」

 詩歌がどうなろうともはや知ったことではないかなたは、憤りをあらわにして、その場を立ち去ってしまった。


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