02 side-B 1
日曜日のそのファミリーレストランでは、その名に違わずに多くの家族客を見ることが出来た。
騒がしく泣き叫ぶ子供たちと、それを申し訳程度に注意したり、あるいは全くしなかったりしている親たち。そんな賑やかすぎる店内で、窓際の席で一人で黙々とドリンクバーのコーラをすすっている美河かなたの姿は、いくらか異質に映る。
だが、そんなかなたよりもさらに異質な客もいた。少し離れた席からかなたの姿を熱心に観察している、三人の少女たちだった。
「くうぅー!やっぱりかなたちゃんは違いますねぇー!ただのコーラをあそこまでエロく飲める人が他にいますでしょうかっ!?いや、いない!これは断言できますですよー!はいー!」
「………」
琢己詩歌が、店内をさらに騒がしくするように大声をあげる。
「ねえー……この人と一緒の席嫌なんだけどお、わたしいぃ……。この人と知り合いだとか、思われたくないんだけどおぉ……」
そんな彼女にはっきりと嫌悪感を感じている本前川音遠は、テーブル向かいの二十六木ヨツハに対して不満を訴えた。
「ま、まーまー…、琢己せんせーも、こー見えていー大人っすからー、最低限の常識は持ち合わせていると……思うっす、よー……た、多分ー…」
詩歌が年上で、自分たちの通う高校の先生であることを考慮しても、ヨツハは自信を持って彼女をフォローすることが出来ない。『詩歌が何かやらかしそうになったら、それを力づくで阻止する』という役目で今日ここにいる彼女は、自分の出番が来ないことを心から願っていた。
入店してから三十分以上、かなたはドリンクバーだけでこのファミレスに居座っている。音遠はそんな彼女の方を見ながら、詩歌に聞いた。
「てゆうかあぁー?今日かなたちゃんが、ミオちゃん以外の別の恋人に会うってゆうの、ほんとなのおぉ?確かにさっきからあ、誰かを待っているみたいだけどおぉー…」
「ええ、間違いないですよ、はい…。私にはその確信があるですよ…、だって……だってそうでなければ今日は、本当はかなたちゃんは私とデートをしているはずだったですからっ!」
彼女は悔しそうに歯を食いしばって言う。
「…一昨日の金曜日、実は私は、かなたちゃんをデートに誘いました。『絶対何にもしないから!』、『映画とお茶だけ!本当に映画とお茶だけだから!』と言って、完ぺきに誠実なところをアピールしたというのに、かなたちゃんはなかなかYESと言ってくれませんでした…。でも、そういうシャイなところも、かなたちゃんの可愛いところですからね…。私にとっては、それだけでも十分、『ありがとう』、『ごちそうさま』でした……」
「ああ?」
苛立ちをあらわにする音遠とヨツハ。
「といっても私はそれで諦めたわけではありませんでした。朝かなたちゃんが学校に登校してきてから、放課後かなたちゃんが家に帰るまで、メールや電話、ときには耳元でつぶやいたりして、数分間隔でずっとかなたちゃんをデートに誘い続けたんです。回数にして百八回。ここまでくるともう軽いサブリミナル効果で、逆にかなたちゃんの方から私をデートに誘ってもおかしくなかったと思うのですが、かなたちゃんはやっぱり首を縦に振ってくれなかったです………それって、おかしいですよね!?」
途中から詩歌を無視して、音遠は帰り支度を始めていた。詩歌は続ける。
「それで最後にはとうとう、家にまで押しかけてかなたちゃんを問い詰めたです。そしたら、かなたちゃんはやっと教えてくれましたっ!『日曜は、人に会う約束があるから…』と!」
「それ多分…単純にい、付きまとわれるのがうっとおしかっただけでえ……誰でも同じようなこと言うからあ…」
音遠はやれやれという顔で、席をたって帰ろうとする。だがちょうどそのときかなたの前に誰かが現れたのを見て、彼女は急いで席に座り直した。
詩歌は小声になったものの、まだしゃべり続ける。
「…散々問い詰めるまで、人に会うことをずっと秘密にしていたのはなぜですか…?相手は貴女たちでも、千本木お嬢様でも、伊美澪湖でもありませんでした…。それどころか学校の生徒でもないと、かなたちゃんは言っていました…。これはつまりもう!学外にいる秘密の恋人に会いに行こうとしているとしか……んぐっ」
詩歌の口をおさえて、黙らせるヨツハ。音遠は身をかがめてかなたから自分が見えないようにしながら、現れた女性を観察していた。
ウエーブのかかった長い茶髪、すらりと伸びる脚を強調するような短めのタイトスカートに、ブランド物のバッグ。
長身で大人っぽい色気のあるその女性は、かなたのテーブルの向かいの席につくと、心の底から嬉しそうににっこりと笑いかけた。
「カナちゃん、今日はアリガトね。会いにきてくれてさ」
「別に…」かなたは気まずそうに目をそらす。「あたしが姉さんに会わない理由なんて、無いじゃないか…」
かなたの姉、励歌は目を細めて、久しぶりに会った妹の姿を感慨深そうに見つめていた。




