07
私は、教室の後ろの扉を、音がしないようにゆっくりあける。もうとっくに朝のホームルームは始まってるけど、うちのクラス担任は七十過ぎのお爺ちゃん先生だから誤魔化せない事はない。途中から潜り込んで、さも「あれ?私ら最初からいましたけどー?」みたいな顔してしれっとしてれば、なかった事にできるんじゃない?
これはまさに、シチューにカツを見いだす、田中がぼた餅的なハッピーターン。ちょっとおなかすいたな…。
何故か頬を赤らめてモジモジしているオンちゃんと手を繋ぎながら、半分くらいまで開けた扉から教室に入る。勿論扉近くのクラスメイトには余裕でばれるけど、そこは餅つ持たれつってやつで、黙っててもらう。
オンちゃんの席は、廊下側のすぐ近くだったので、わりと簡単に先生が黒板書いてる隙を狙って滑り込めた。でも私の席はちょっと遠い。教室の一番後ろの一番奥の窓側。所謂主人公席?
ほら、私この話の主人公だから。今朝だってパンくわえて登校なんてしちゃったし。そのうち超絶イケメンの男の子と曲がり角でぶつかって、運命的な出会いとかしちゃって、そんでその男の子が実は転校生で同じクラスで、「あー、あんたはあのときの!」なんて…。あれ、なんか嫌な予感する…。
「お、今日からよろしくな」
何故か私の隣の席には、私と同じ制服を着た『かなた』の姿があった。
「イケメンの…化け物…」
そいつの見た目は今はただのボーイッシュな女子高生だったけど、私は昨日の恐ろしい姿を思い出して体が震えてしまう。
「外見はわりと自由に変えられるのさ。今はカナの外見のまんまにしてるから、あのときほどは怖くないよな?つーか、クラスメイトに化け物はひどくないか?いや、『化け物なみのイケメン』って捉えると、むしろものすごい誉め言葉か」
茫然と立ち尽くしてた私に、先生のしわがれた声がかすかに聞こえた。
「転校生の美河かなたさんですよお。仲良くしてくださいねえ。遅刻常習者の罰として、伊美さんにはこれから一週間、彼女のお世話係をお願いしますよお」
『そいつ』は静かに目をつむると、かなたと交代した。
「いい忘れていたが、荊のことは他の人間には言わないでいてほしい。二人の秘密にしておいてくれると、助かる」