12 真相2
学校の玄関へと通じる廊下を歩いている、百梨とそのメイドたち。
カツカツと小気味よい音をさせて、早足で進む百梨の顔は真っ赤に染まっていて、口は苦いものを我慢して食べているときのような、ジグザグと波打つ形になっていた。
「……あ、貴女たち、気づいてたんでしょうっ!?もうっ!早く言いなさいよっ!」
前を向いたまま、叫ぶように言う百梨。メイドたちは、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたまま、無言でついてきていた。
「と、というかこれ、どういうことよっ!何で『わたしのチョコ』が、伊美澪湖へのバレンタインチョコになってるのよっ!じょ、冗談じゃないわっ!そ、そんなのおかしいじゃないっ」
怒りというよりは、恥ずかしさからくる照れ隠しで大声で叫び続ける百梨。顔が赤いのも、体が少し震えているのも、当然同じ原因だ。
「っていうかー…」
そんな様子を見かねたのか、ヨツハが口を開く。ただ、百梨を馬鹿にしたような顔は相変わらずそのままだ。
「むしろどうして気付かなかったのか、自分らの方が不思議だったっすよー?澪湖ちんが差出人不明のチョコをもらったー、って聞いた時点でー、もしかしたら自分のあげた物かも…、って思うじゃないっすかー普通ー。さっきの『ビニールの袋』を見て、やっと自分のチョコのことだって気付くなんてー…」
「だ、だってっ!」
百梨は振り返り、二人のメイドをにらみつける。
「わ、わたしちゃんと、書置きしておいたのよっ!?付箋紙に『皆さんでどうぞ召し上がれ。HappyValentine!』ってメッセージと、名前を書いて……」
メイド二人は、ついに吹き出してしまった。
「ええ、ええ。確かにお嬢様は書置きしてましたね。昼休みに一年の教室に来た時に、どういうわけか美河様も音遠もいなくて、唯一いた澪湖様はぐっすり眠ってしまっていて……。それで仕方なく、書置きを残すことにしたんですよね?ご自分のチョコの袋に、付箋紙を貼り付けたんですよね?それについては間違いはありませんよ。だって、その付箋紙をはがしてゴミ箱に捨てたのは、わたくしなんですから」
「な、な、なんでそんなことすんのよーっ!お、おかげで『謎のチョコ』とか言われて、なんかすごい大事になっちゃったじゃないー!?」
イクに向かって腕を振り回す百梨。イクはその攻撃を事もなげにかわしながら、ヘラヘラと笑っていた。
「え?どうして、ですって?そんなのもちろん、決まってるじゃないですか。『そのほうが面白くなりそうだから』ですよ……?あはは…」
「………!」
声にならない声をあげる百梨。彼女は今、恥ずかしさと怒りが頭の中が入り混じって完全に混乱していた。そんな彼女を放って、ピンと指を立てたヨツハがマイペースに話を進める。
「いろいろ疑問はあるでしょうっすけどー。とりあえずー、まずは昼休みに何が起こったのかを振り返ってみましょうっすー………」
そしてヨツハは時系列にそって、その日の昼休みに起こったことを説明し始めた。
「重要なのは、かなたちんが教室から出ていった後の二十分間なんすよー……」
……………………………………………………
12:45―
かなたちんが先生に呼ばれて教室から出ていくっす。この時点では、眠っている澪湖ちんのそばに音遠がいたっす。もちろん、澪湖ちんはチョコをまだもらってないっすよー。
13:00―
おじょー様と自分たちが、学外のレストランから学校に戻ってくるっすー。そのあとおじょー様は、二年の教室で同級生とお話ししようとして、ことごとく断られてたっす。自分はおじょー様の隣でその一部始終を見て笑ってたっすー。
イクちんだけはこのとき別行動をしていてー、一年の教室にやってきて、吉中朋ちんに教室に出入りする人をメモってもらうようにお願いしてたっすー。
実は自分ら、レストランでお昼食べてるときに、おじょー様が澪湖ちんたちにチョコをあげるつもりだ、っていうのを聞いていたんで、この時にちょっといたずらしてやろうって考えてたんすよー。朋ちんがこんなにいい働きをしてくれたのは、うれしい誤算だったっすけどねー。
朋ちんにお願いだけしたら、イクちんはすぐに教室を出て行っちゃったっすね。澪湖ちんの寝顔を見るのに夢中だったせいで、音遠はイクちんが来たことには気づかなかったみたいっすー。
13:02―
音遠がトイレに行くっす。ここで澪湖ちんは一人きりになっちゃうっすね。
そしてその直後に、かなたちんが言うところの『不審者』が教室にやってきたっす。
あ、先に断っとくっすけどこの『不審者』、自分らの仕込みじゃないっすよ?この『不審者』に関しては完全なイレギュラーでー、正直自分たちも誰なんだかよくわかってないんすよー。
そんでー、その『不審者』はかなたちんの席に座って、しばらく澪湖ちんを眺めた後で、またすぐに教室を出ていったっすー。
13:03―
同級生とお話ししようとして失敗したおじょー様が、寂しさを紛らわすために一年の教室に来たっす。自分こういう、同年代とか年上に相手にされないからって後輩の前でデカい面する心の小さな人間って一番嫌いっすー。
あ、でもおじょー様の場合は、年下の一年生にさえ相手にされてないんで、もう別格すね。むしろ、どうやったらそこまでみんなに馬鹿にされるようになるのか教えてほしいくらいっすー。
そんで、しばらくは澪湖ちんが眠っていることに気付かずにおじょー様は一人で話しかけたりしてたんすけど、それに気づいた後は、机の上にバレンタインチョコを置いて書置きをして、恥ずかしいんでさっさと自分の教室に戻ったっすー。
イクちんが書置きを捨てに来たのもこの直後くらいっすかねー。
13:04―
澪湖ちんが眠ったまま、手の届く位置にあったおじょー様からのチョコを『自動的』に食べ始めたっす。チョコは結構量があったはずっすけど、まあ澪湖ちんなら一分あれば余裕で完食っすね。
まあ、実際は途中でよお子ちんに切り替わっちゃったせいで、最後の一個が口の中に残っちゃったみたいっすけどー。
13:05―
かなたちんが教室に戻ってくるっす。と、同時によお子ちんが目を覚まして、おじょー様のチョコが口の中に入っているのに気付いたっすー。
13:10―
自分の教室に戻っても、やっぱり同級生に相手にされなくて暇だったおじょー様が、澪湖ちんの教室にまた戻ってきたっす。自分のチョコの評判でも聞きたかったんすかね。数分前に来たばっかりなのに、すぐ戻ってくるなんて落ち着きないっすなー。
一応澪湖ちんの机の上のチョコはなくなっていたから、きっとみんなに分配されたのだろう…、でも、自分から「美味しかった?」なんて聞くのは恥ずかしいから、誰かが言ってくれるのを待っていよう……、そんな感じの心境だったんすかねー?ま、もちろんチョコを食べたのは澪湖ちんだけなんで、誰もおじょー様のチョコのことなんて言うはずないんすけどね-。
で、そんでほとんど同じくらいに、音遠もトイレから戻ってきて、ぎゃあぎゃあと『謎のチョコ』の話をし始めちゃったので、もう自分のことは忘れちゃった、と……。
……………………………………………………




