06 検討4
事情聴取を終えたお嬢様は、頭を抱え込んでうずくまってしまった。その姿は誰がどう見ても、『事件』が迷宮入りになって途方にくれている迷探偵だ。
さっきの話を聞くまでは、あたしの中でも音遠が『犯人』に違いない、話を聞けばすぐにボロを出して『真相』は明らかになる、とたかをくくってなめてかかっていた。
ただ音遠の言った、『澪湖が寝ている間にチョコを渡す必然性がない』という話を考えると、それも少しおかしい気がしてくる。『犯人』を音遠と仮定したら、必ず澪湖にチョコが渡せるように、澪湖が起きているうちに渡す方が自然なはずだ。『寝ている間に食べられてしまう』ということを知っている音遠なら、なおのこと、起きている間に渡した方が自分の気持ちをアピール出来ていいはずなんだ。あたしはそこがどうしても引っかかった。
正直、今の状況で『犯人』を特定するのは、お嬢様が迷探偵でなかったとしても難しいだろう。あたしにも皆目見当がつかなかった。
ふと見ると、よお子さんがあたしと音遠を交互に見ながら、何か思いつめたような顔を作っている。どうやら彼女は、あたしと音遠のどちらかが『犯人』だと言う最初の仮説にたち戻って、あたしたちに『自首』してくれるように目で訴えかけているようだった。
確かに、彼女の立場にしてみれば、動機があるのはあたしたち二人のどちらか、ということになるのだろう。ま、当然あたしが『犯人』じゃないことは、あたしは知っているのだけれど。
音遠は音遠であたしと同じ気持ちだったのかもしれない。いつまでたっても事態は硬直状態で、好転しなかった。
ついにしびれを切らしてしまったよお子さんは、最後にはこんなことを言い始めてしまった。
「あ、あの……じゃ、じゃあ……もう大丈夫、です。……どちらが、チョコ、……をくださった……のでも……大丈夫、です……私が……お二人に、……お返し、をすれば………」
あたしはため息をついて首を振る。
「…よお子さん。それはいけない。そんなのはだめだよ」
だってあたしは、よお子さんにお返してもらえるようなことをしていないのだから。
「ちょっとお、よお子ちゃあんー!」
音遠も口をすぼめて、不満気な態度だ。
でも、あたしたちがいくら言っても、よお子さんの決意は強くて変わらないようだった。この『事件』が解決しない限り、このままだとよお子さんは自分の提案を押し通してしまいそうだ。勿論、そんなよお子さんだけが割りを食うような解決法を、あたしは断固認めるつもりはない。認められちゃ、いけないんだ。
「…わかったよ」
だからあたしは覚悟を決めた。
「じゃああたしが、澪湖にチョコをやったやつを探し当ててやるよ。澪湖のためじゃない。もちろん自分のためでもない。よお子さんのために」
「てかあ、よお子ちゃんが言ってたようなそんなショッボいのが、わたしのだって思われたらあ、すっごい不本意なんですけどお?そんなの全然納得いかないんですけどお?」
言いながら、あたしとよお子さんの間に割って入る音遠。
「かなたちゃんに任せとくとお、なんか最終的にそおゆうことにされそおで怖いんだよねえ、わたしい。だからあ、わたしも『犯人』探しするけどお?てかあ、わたしの方が先に見つけるつもりですけどお?」
あたしたちの言葉を聞いて、「は、はあ…」と、ちょっとめんどくさそうに苦笑いしながらうなづくよお子さん。正直彼女にとっては、さっさと誰かが『自首』してくれた方が手っ取り早くてよかったのだろう。
「じゃあじゃあー、自分は音遠に協力するっすよー」
「わ、わた……わたしは……」
「わたくしとお嬢様は、皆さんとは別軸で捜査を続行いたしましょう」
「…そ、そうね!待ってなさい伊美澪湖!『犯人』はきっとわたしが……」
きーん、こーん、かーん……昼休みの終了を告げるチャイム。
「ごほぉっ!や、やばいですわ!また、遅刻記録更新してしまいますわっ!い、伊美澪湖っ、捜査は放課後からにさせてくださいねっ!ほら、行くわよ貴女たち!」
言いながら、一目散に去っていくお嬢様たち。
かくして、『謎のチョコレート事件』捜査網が出来上がったのだった。




