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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
07章 チョコレートは誰が為に
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04 検討2

「よお子さんは知らないと思うけど、実は澪湖は四時限目に、持っていたお菓子を全部没収されているんだ。つまりそのあとの昼休み、昼ご飯を食べていた時点では、澪湖はチョコどころかお菓子を一つも持っていなかったってことになる。ところが、さっきよお子さんがおきたときには口の中にチョコが入っていた……。ってことは、そのチョコは澪湖が新しく誰かから貰ったもの、そこまでは間違いないだろう。じゃあ誰から貰ったか?ってことだけど……」あたしは席を立ち、音遠から逃げるように移動する。そして彼女に目を合わせないまま言った。「その『犯人』があたしじゃないことは、音遠、お前が一番よく知ってるはずじゃないか?だって、あたしと音遠と澪湖は、四時限目が終わってからずっと一緒だったんだから。一緒に、弁当を食べていたんだから。あたしが澪湖から目をそらすことはあったかもしれないけれど、音遠の方は、澪湖から片時だって目をそらしたりなんかしてないんじゃないか?」

 音遠はいつもは可愛らしい顔を、「くっ…」と悔しそうにゆがませる。もう彼女にはあたしの言ってることは全部わかったみたいだ。

「つまりそれって、あたしがもし澪湖に何か渡そうとしたら、それを音遠が気付かなかったはずはないってことだよ。途中であたしは先生の手伝いで教室から出ていったけれど、音遠は澪湖とずっと一緒だったよな?あたしが帰ってきたときにちょうどよお子さんが目を覚まして、そのときにはすでにチョコが口に入っていたわけだから、あたしがチョコを渡せるタイミングなんて、無いんじゃないか…?」


 どうだ音遠!?まいったか!

 澪湖のことが好きなお前は、いつだって澪湖のことばかり気にしていて、澪湖ばかり見ている。その事実がある以上、あたしの『無実』の一番の『証人』は誰でもないお前なんだ!

 澪湖に『ハートのチョコ』を贈るなんて奇行をやった『犯人』は別にいる!お前の恋のライバルはあたし以外の誰かってことだよ!悪いけど、今日の帰りにあたしを刺殺するのはお門違いだぜ!?


 あたしは、心の中で音遠への反論をまくし立てた。もちろん、まだ修羅が抜けきっていない今の音遠に向かって、そんな発言を声に出して言うことなんてできない。


「こほん。というわけで、チョコを渡す機会がなかったあたしは『犯人』じゃないことは証明できた。でも、相変わらず『犯人』は誰かっていうのはまだわからないままなわけだけど………でもさ、それってそんなに問題はないんじゃないかな?そうだろう?だってさ…」

 あたしは軽く咳をして気持ちを落ち着けてから、なるべく穏便にこの場を乗り切れるように話をまとめに入る。

「誰からチョコをもらったかは、さすがにもらった本人である澪湖なら知ってるだろう?今度よお子さんが澪湖に入れ替わった時にでもさ、あたしが聞いといてやるよ。それで解決。うん、問題なし。晴れてあたしの『無実』も証明できて、これで……」

「きゃはははははあー!」

 急に、音遠が笑いだした。


「ええー!?かなたちゃんってえ、ミオちゃんの恋人のくせに何にも知らないんだねえ!?ちょお、ウケるう!まぢありえないんですけどお!?」

 あたしを小バカにするように、頭を小刻みに左右に振っている音遠。さっきまでの殺意こそないが、今度はすごくイラつく態度だ…。

「え……どういうことだよ?」


 音遠は腰に手を当て、得意げな顔で言う。

「だってさあ、だってだってさあ!もし誰かがさっきミオちゃんにチョコを渡しに来たとしてえ、その時のミオちゃんが起きてるなんて限らないんだよお!?むしろ、起きてる可能性の方が少ないんじゃないのかなあ?」

 意味は全く分からなかったが、とりあえず、ドヤ顔の音遠はすこぶる腹立たしい、ということだけは分かった。隣のよお子さんの方は、まるで自分が何か失敗を犯して恥ずかしいとでもいうように、頬を赤らめてうつむいていた。

「ミオちゃんの寝つきの良さは普通じゃないんだよお!?ミオちゃんは眠ろおと思えば、五秒かからずに眠りにつけるしい、一度眠っちゃったらそお簡単には起きないんだよお!?かなたちゃんが教室出ていくちょっと前に、ミオちゃんはもうお昼寝しちゃってたからあ、チョコもらった時だってそのまま眠ってて気づかなかったって考える方がずっと自然なんだよお?あはははあ!」

 それは確かにそうかもしれない。年末年始にしばらく一緒に暮らしていた時のことを思い出すと、あたしには結構思い当たる節があった。ただ、そう考えると今度は別のことが気になってくる。


「でもさ、……それってちょっとおかしくないか?」

「?」

 さっきからあたしたちの顔を交互に見ながら話を聞いていたお嬢様は、ほとんど内容についていけていないようだ。ずっと頭の上に疑問符を乗せたまま、きょとんとした顔で首を傾げていた。


「だってさ…。あたしが先生に呼ばれて教室から出て行くときには澪湖はもう眠っていて……あたしが教室に帰ってきたときにちょうど、『よお子さんとして』、目を覚ました。音遠の言い分を信じるなら、その間はずっと目を覚まさなかっただろう、ってことだよな?」音遠は自信満々に頷く。「でもさ、よお子さんがチョコを見つけたのは、口の中なんだよ?ってことはさ、澪湖は必ず一度は起きているはずなんだよ。起きて、チョコを口の中に入れているはずなんだよ。だとしたら、誰かがチョコを渡しに来たときに起きた、ってのが、一番自然じゃないか?まさか『犯人』が、寝ているあいつの口の中にチョコを押し込んだわけでもあるまいし……」


「ああーあ!これだから、しろおとは困るうー!」

 素人?…むしろあたし、澪湖のエキスパートとかにはなりたくないんだけど……。額に手をかざして、やれやれといった表情で首を振っている音遠。

「悪いんだけどさあー、あはははあ。それって全然普通なんだよねえ!だってえー…」嫌味ったらしく笑う音遠。「ミオちゃんは眠ってたってものを食べることが出来るんだよお!?どれだけぐっすり眠っててもお、手の届くところに食べ物があったら、ミオちゃんは手を伸ばして自動的にそれを食べちゃうんだからあ!」



 じ、自動的…って……。


 あたしは愕然としてしまった。

 よお子さんだけじゃなく、澪湖も割とあたしの予想を裏切ってくれる。まあ、澪湖の場合には、予想を下回るってことなんだけど。


「……眠りながら食べるって、あいつ…、バカもいい加減にしないと体こわすぞ……」

「太りますわよ……」

「寝る前は歯磨きしないとー…虫歯になっちゃうっすよー……」

 お嬢様も二十六木先輩も、さすがにそこまでのバカにはついていけなかったようだ。それらしいことを言いながら、完全に顔は呆れている。

「寝チョコ……チョコ言葉は『…」

 七五三木先輩、それはもういいから………。


 その場で笑顔なのは音遠だけ。気まずそうにうつむくよお子さんが、いたたまれなくてかわいそうだった。



「つ、つまり…」

 気を取り直して、あたしは話を元に戻す。

「つまり、誰かが澪湖にチョコをあげたのは、あいつが眠っている間だった可能性が高いってことだよな?つまり澪湖に聞いたとしても、誰にもらったかはわからないだろうと……。ま、どっちにしろ一つ言えることがあるよな!?」

 はっきりさせておきたいことは強調しておく。

「一つ確かなのは、そのチョコを贈ったのはあたしじゃないってこと。だってあたし、その時は先生の手伝いで席をはずしていたんだからっ!どう頑張ったって、あたしが澪湖にチョコを渡せるわけがないんだよ。だからさ……、だから、犯人は別にいる!何にせよ、それだけは確実なんだよな?な?」

 これは動かしがたい事実だ。この事実の前には、さすがの音遠も黙るしかないようだった。


「じゃ、じゃあ……誰が………」

 自分がお返しする相手がわからなくなったことがよほどショックだったらしい。悲しげにつぶやくよお子さん。ちょっと申し訳ないとは思うけど、あたしはそれよりも自分の『無実』が証明できたほうが嬉しくて、晴々した気持ちだった。




「おーほっほっほー!」

 お嬢様が急に背筋を伸ばして、声を張り上げてあの馬鹿みたいな高笑いを始めた。

 その隣にぴったりくっつく七五三木先輩は、どこから取り出したのか大きな白い布を持っている。


「イク!」

「はい、お嬢様」

 言うなり、先輩はその白い布でお嬢様を包み込む。そして一瞬、もぞもぞっとその布の中が動いたと思ったら、次の瞬間にはその布をサッっと取り払い……。

「お困りのようね伊美澪湖!貴女のその悩み、この名探偵百梨様が、たちどころに解決して差し上げますわ!おーほっほっほー!」


 布を取り払ったとき、お嬢様はさっきまでの学校指定の制服姿ではなく、丈の長い茶色いチェックのコート、チェックの帽子、口にはパイプをくわえた、…いわゆる名探偵ホームズのような恰好をしていた。以前クリスマス会であたしを早着替えさせたのと同じ技術で、七五三木先輩がお嬢様の恰好を変えてしまったようだ。くわえたパイプから煙の代わりにシャボン玉が出てくるあたり、嫌煙ムードの今のご時世への配慮も行き届いていて抜かりがない。さすがだ。

 あまりに突拍子もない行動に、リアクションできずに困っているあたしたちを置いて、お嬢様はまた高笑いする。


「おーほっほっほ!首を洗って待ってなさい『犯人』!伊美澪湖に無理矢理チョコを食べさせた卑劣な所業、きっと悔い改めさせてみせますわよ!おーほっほっほー!おーほっほっほー!」


 なんだか面倒臭いことになってきたな…。

 お嬢様があんまり内容を理解できてないことはさておいても、だんだん大事になっていく事態に、あたしはかすかな不安を覚え始めていた。


 そんな気持ちをつゆとも知らず、お嬢様は早速、あたしたちに事情聴取を始めた。

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