03 検討1
「おやおやおやあ?いつもは、『わたしミオちゃんには全然興味ありませえん』みたいなこと言ってるくせにい、ちゃっかりやることやってるんだあ?わたしに断りもなくう?」
座っているあたしの背後から、あたしの両肩に手を置く音遠。その肩を握る力が……痛い…。
「ね、音遠まってくれ、誤解だ!あたしはそんなことしてないっ!ほ、ホントだ!」
いわれのない『濡れ衣』を、必死に否定するあたし。だって音遠の気持ち知りながら澪湖にチョコ贈るって…、それもうケンカ売ってるのと同じじゃないか。
でもあれ?よく考えたら、こんなに否定すると逆に…。
――否定すればするほど、やましいことがある風に見えるぜ……――
荊に言われるまでもなく、この必死さは裏目なんじゃないだろうか…。
「そうですわねっ!確かに美河かなたさんって、意外とそういう女の子らしいところがありますわよね!」
うわ、いつの間にかお嬢様とメイド先輩たちまであたしたちの教室に来てるじゃないか…。お嬢様なんていつもバカにされる側のくせに、ここぞとばかりにあたしをイジってきやがって。
「だってなんてったって、クリスマスに手編みのマフラーですわよ!?いまどき珍しいくらいの、可憐な乙女よ、乙女!そりゃあ恋人にバレンタインチョコだって贈りますわよ!」
くっ…、出来心でやったクリスマスのマフラーが、こんなところであだになるとは…。って、ていうかちょっと待って…。恋人…って。あたしと澪湖のこと、お嬢様にも伝わってるの…?
あたしはいよいよ逃げ道が塞がれてきて、もうなりふり構わずに自分の『無実』を主張した。だが、大した効果はなかったようだ。
「ここまできてしらばっくれるとかあ。そおゆうセコいことする人ってえ、わたし嫌いだなあ」
「ば、バレンタイン……って…恋人……が、チョコ…送るもの……と、思ってたから………かなたさん……は、澪湖の、…恋人……だし……」
「ね、音遠ホントなんだって!ホントにあたしじゃないんだよ!もう、よお子さん!なんでそんな冗談言うんだよ!笑えないよ!マジで笑えないよ!」
音遠の手の力がどんどん上がっていって、つかまれている肩がもう引きちぎれそうだ。
頼むからみんな…、これ以上音遠の心に油を注ぐようなことをしないで……。
「……じゃあ……一体、誰が、くれたんで…しょう、か…?………ハートの、形の……チョコ……レート……」
「ほう、形はハートですか…」
「バレンタインにハートのチョコ。うーん、分かりやすいメッセージっすなー」
「ふふっ、庶民らしい発想ね!恋人への贈り物としては、いかにもありがちなデザインだわっ!」
「…あ、…ちょっ……そんな………」
わたわたと慌てるあたしを放って、好き勝手なことを言う先輩たち。だからそんなことを言うと、音遠が……。
「へえー、ハートの形いー?かあーわいいーねえー……」
「ね、音遠さん…、目が笑ってないです……」
気付いたら、自然と敬語になってしまっていた。先輩たちのあたしイジりは止まらない。
「ハートのチョコレート。チョコ言葉は、『とろける様な恋がしたい』…素敵ですね」
「し、七五三木先輩っ!適当なこと言うなよ!」
ぞくっ。酷い悪寒があたしを襲う。
「ほっほおおー?ミオちゃんとお、とろけるようなあ、何がしたいってえ?」
後ろに立つ音遠の表情は、今は角度的にはっきりと見ることはできない。ただ、怪しく光る両の瞳が、物陰から獲物を狙う獣のようにこちらを見ているのだけは確かにわかった。あたしはにらみをきかされて動けない小動物だ。
「あ、…あと……、そのチョコレート、は……、ラムが……入ってま、した…………ちょっと、大人風、で……かなたさん…っぽい…かな、って……」
「ふむ、ラム酒入りチョコですか…」
「ちょ、ちょっとちょっと、よお子さん!どうしてまた、そういう根拠のないことを……」
「ラム酒チョコ…チョコ言葉は、『酔った貴女をめちゃくちゃにしたい』……エロいですね」
「へえええー…」
音遠の殺気はもうそのころには頂点を迎えていた。そのとき自分の後ろに立っているのが修羅だと言われても、あたしには疑う余地なんてないくらいだった。
「チョコを贈った『犯人』はあ、相っ当、ミオちゃんのことが好きみたいだねえ?ねえ、かなたちゃあん?」
「は、はは……」
ああ、多分あたし…今日の帰り道に音遠に刺されるんだ…。
あたしは人生の最後に好みの顔を見ておこうと、よお子さんの方を向いた。よお子さんはそれを別の意味に誤解したらしく、小さくうなづいて、今回の『事件』について自分が知っていることを、改めて話し始めた。
正直、今そんなの…どうでもいいです………。
……………【伊美よお子の証言】……………
「……わ、私が、さっき目を、覚ましたら…………そこの自分の机に座っていて、……周りを見て……昼休み中…なんだ、って…、分かりました……」
「…ち、近くには……誰もいなく、て……ただ、…ちょうど…かなたさん……が、教室に…入ってくるのが……見えました…………」
「その時……気づいた、んです………口の中に…チョコレートが入っている……こと……」
「……今日は、澪湖……、学校にチョコレートを…もっていか、なかった……はず、……なので……、誰か、から……貰ったのだと……」
「口の中で…………あ、あの………恥ずかしい、んです、けど………舌を動かして、調べて、みたら………、ハートの形、をしている…のが…、分かって……うっすら、ラムの味も、して………」
「そ、そのまま……チョコは食べ、て……しまいました……すいませんっ……」
「…で、でも……そのとき、は…私……かなた……さん、…が、くれたのだと……思って、たから……」
「え…?かなたさん、と……澪湖のこと……ですか?それは……日記を読み、ました………私たちは、日記を……つけて、いるんです…………澪湖は、私のを読んでは……いない、みたい、だけど…………私は、澪湖…のをなるべく……、読むように、して、いて………」
「……クリスマスの日の、ページ、に……『相性バッチリ!最強カップル誕生!』、……って書いて、…ありま、した……」
……………………………………………………
「……な、なるほど…」
よお子さんの話を聞いて、あたしは少し落ち着きを取り戻せてきた。
もちろん、後半の日記のところはスルーだ。
「よお子さんの話をまとめると…。よお子さん、というか澪湖は、あたしが教室を出て行ったあとで、誰かからチョコをもらった。そして、それを食べていて飲み込む前に、よお子さんと入れ替わったってことになりそうだな…」
恐らく、これであたしの『無実』は証明できる。その確信があったので、あたしは落ち着くことができたんだ。




