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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
07章 チョコレートは誰が為に
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02 謎の提起

「ちょ、チョコぉー?あたしがぁー!?澪湖にー?な、なぁーんでそんなことを…」

 ついついフランク…というか、バカにする感じになってしまったのは、あんまりにも驚いていたからだ。そのくらいあたしには、よお子さんの言ったことが奇想天外、荒唐無稽に響いたんだ。


「だ、…だって…、あ、あの………」

 言いづらそうに口ごもる彼女の頬が、段々赤くなっていく。あたしは申し訳ない気持ちになってきて、慌てて訂正しようとした。

「あ、いやっ、よお子さん…」


「あああー!今ってもしかしてよお子ちゃんなのー?」


 そのとき突然、クラスメイトの一人があたしたちの間に割り込んできた。

「よお子ちゃーん、この前ありがとねーホントー!すっごい助かっちゃったー!」

「あ、あ……はい……よか…った…です…」

 うつむいて照れるよお子さん。やっぱりかわいい。

 冗談とかふざけたわけでもなく、あたしはそのとき純粋にそう思った。結局、タイプはタイプなんだよ。よお子さんのこと。


「かなたちゃん知ってるー?よお子ちゃんすっごいんだー。私が最近できた彼とのデート、何着て行ったらいいかわかんねーって騒いでたらー、デートプランまでこみこみのトータルコーディネート決めてくれてー、しかもそれがもうばっちりヒットしてさー…」

 馴れ馴れしいクラスメイトから語られたよお子さんの一面は、またしてもあたしの知らないものだった。澪湖の壊滅的センスと違って、よお子さんはそういうのちゃんと出来る人なんだ…。やっぱり、よお子さんはすごいな。

「だからこれ、そのお返し!……にしちゃあちょっと安すぎるけどさ。まあもらってよ、友チョコだよーん」

 そう言って、そのクラスメイトはよお子さんにきれいに包装された四角い箱を手渡した。

 ああ、そっか、そういうことか…。だからさっきよお子さんは…。

 そこでようやくあたしは、バレンタインが今日だったってことを思い出したんだ。相変わらず女子力ゼロだ。


「あ、……そ、そんな………ありが、とうございま…す……」

 遠慮していたよお子さんだったが、最後には恥ずかしそうにそのチョコの箱を両手で受け取った。そのとき、机から付箋紙を出して、何かを書いてそのチョコの箱に張ってからバッグにしまっていたのを見て、あたしは少し不思議に思った。


「どうせ澪湖に渡したら、一人で黙って全部食べちゃうでしょー?だからよお子ちゃんになるの待ってたんだー私!澪湖はともかく、よお子ちゃんとは私、もっと仲良くなりたいと思ってるよー?今度一緒に遊ぼうよー!じゃ、まったねー」

 そう言って、そのクラスメイトは去って行った。

 いろいろとよお子さんに聞きたいことが出来たあたしは、早速それを聞き出そうと顔を近づける。だが、すぐにそれにも邪魔が入った。


「ねえ?今、よお子なんだって?」

 今度は別のクラスメイト。メッシュが入った赤いロングヘアーに、トゲトゲしいアクセサリー。スカートから覗く脚には、大きな眼の形のタトゥーが入っている。正直、あんまりかかわってこなかった、というか、かかわりたくなかった系の人だ。

 鋭い釣り目であたしたちをにらんでいるそのクラスメイトに、ついつい警戒してしまうあたし。だが、途端にそのクラスメイトはよお子さんに、にっかあ、と子供みたいに笑いかけた。


「この前の曲、マジすっげーよかったよ。あれのおかげで、この前のライブ、うちらが一番盛り上がったかもしんない。やっぱよお子に頼んで良かったわ」懐から、緑と黒のキノコ柄の小さな箱を取り出す。「うち、あんまこういうのやんないんだけどさ、よお子には特別。マジ、次のライブこそは絶対こいよな?お前が作詞、作曲なんだからさ、誰よりお前に聞いてもらいたいわけ」

 ちょっと恥ずかしそうにそう言って、そのロックスタイルのクラスメイトが無理やりよお子さんに渡したのは、やっぱりバレンタインのチョコだったみたいだ。


 って、ていうか…作詞作曲?よお子さんそんなこと出来るの?な、なんか知らない一面が、一面どころじゃなくって……。


「あ、あああああののののの…。よよおよよよお子ちゃん…こここ、これ!」

 また?今度は違うクラスメイトが…。

「まままままた…、ししし、新作書いてみたののの…。よよ、よお子ちゃん時間があったらでいいんだけけけどどど…、ま、また読んで添削してもらってもももも…、い、いいいいいかな!?……あああとこれ、ば、バレンタインの、チョコ……ほほほ本命……あ、ううそっ!うそだから!じょじょじょ、冗談だからっ!?」

 さらに、また…。

「よお子ー、チョコって嫌いじゃなかったよねー?」

 どんどん別のクラスメイトが…。

「これ…よお子の……チョコ……作ってみた……材料は……秘密…。きゅふふ…」

 次から次へとやってきた……。


 あたしは、よお子さんの信じられないくらいに広い交友関係に驚かされ、恐ろしいほどたくさんの才能を持っていることに驚かされた。

 正直言って、これまでのあたしは、よお子さんのことを何にも知らなかったのと同じだった。こんなので、よお子さんのこと好き、とか言ってたんだから……まったくバカな話だ。


 とりあえずは友達として、今からでもあたしはよお子さんのことを知る努力をするべきだろう。まずは、その一歩から…。


「よお子さん?す、すごい量のチョコだな、それ。モテモテじゃないか…はは。ところで、さっきから箱に何を張ってるんだい?」

 あたしは、よお子さんがほとんどクラスメイト全員からもらった無数のチョコ一つ一つに、さっきから必ず付箋紙を張り付けていることが不思議だったんだ。よお子さんは、ちょっと恥ずかしそうな顔でうつむいた。

「………あ、あの……、もらった人の名前を……書いておかないと……わからなく、なって……しまうから……」

 うわ、なんだその悩み…。

 中学時代、男女ともに避けられていたあたしには縁のなかった台詞。あたしはその瞬間、驚きと嫉妬の入り組んだ複雑な気持ちに包まれた。よお子さんは続ける。

「…ちゃ、…ちゃんと…ホワイ、トデー……に…三倍返し……できるよ…うに……」

「…ん?」


 よ、よお子さん、それって…。

「……はは…、そ、…そろそろ……貰うの……断らな、いと…破産しちゃい……そう……」

 いやいやいや!

 泣き笑いみたいな顔をしているよお子さん、どうもバレンタインについての知識に偏りがあるらしい。あたしは慌てて訂正した。

「い、いやいやよお子さん!そ、それって全部友チョコだろ!?三倍返しとか無いからっ!みんなそんなの期待してないって!お返しだって普通に、コンビニとかで大袋のお菓子とか買ってきて配ればすむ話だよっ!」

 正直、あたしなんかがバレンタインなんて女子イベントの説明するのはおこがましいのだが、このままだとよお子さん、チョコくれたクラスメイト達のお返しに一人三千円くらいは使ってしまいそうだ。最低でも二十個はもらったはずだから……さすがに、そんな出費は高校生の財布じゃあ耐えられないだろう。あたしは黙ってられなかった。

「だ、だいたい、今見てたらみんな、よお子さんに感謝してるからチョコくれたんだから!そんなの本当はお返ししなくたっていいくらいな……」

「だめ」


 突然、よお子さんらしからぬきっぱりした言い方になったので、ひるんでしまった。


「……もらったら……ちゃんと、お返し……しないと……」

 もちろん、前みたいに澪湖がよお子さんの振りをしてるなんて、そんな低レベルな話じゃない。

「……みんなに……嫌われちゃう……じゃ、ない……ですか……」

 まるでお母さんが子供に言い聞かせるみたいに、改めて当り前のことを言われるあたし。なんかすごい情けない気分になった。


「そ、それは、そうだよな…、う、うん。もらったら、お返しする、それが普通だよね……はは、よお子さんの言う通りだ。………で、でもっ」それでも言わなきゃいけないことは言っておかなきゃ。「でも、三倍はやりすぎだよっ!」

 水商売やってる姉さんでもあるまいし…。

「そ、そうだ!あたしも手伝うからさ、二人でホワイトデーのお返しでクッキーでも作らないか!?あたしもそろそろお菓子作りとか挑戦してみたかったんだよっ!」

 あんまり考えもなく、そんな言葉を言ってしまった。

 あ、これって、あれだよ。多分よお子さん、お菓子作りとかもすごい上手で、言い出しっぺのあたしが立場ない、っていうオチなんだきっと。あたしは早くも後悔し始めていたけれど、「……あ、ありがと…うございます……」とにっこり笑うよお子さんの顔が見れたから、実は、あたしの考えなしの発言もそれほど悪くなかったのかもしれない。




「あ、あの……それで、……かなたさん……澪湖にチョコ、……レート……くれました…?」

 一息ついてから、よお子さんはまたその言葉を繰り返した。

 あ、そういえばそういう話をしてたんだっけ…。

「い、いや、だからそれはさっきも言ったように、あたしは澪湖にチョコなんか……」

 よお子さんは首を傾げる。

「じゃ、じゃああれは……一体誰から……?」

「あれ?」

「………さ、…さっき……私、…の目がさめたとき……、口の中、に…チョコが……入っていたんで、…す……。誰かが………澪湖に……バレン、タイン、チョコ…を、くれた……のかと………」

「さっき…」

 よお子さんが目を覚ました時っていうと、ちょうど、あたしが教室に戻ってきたときくらいだろうか。

「ちゃんと……お返し……したいから……誰が……、くれたのか……私、…知りたくて………」

「え、っと、それで……そのチョコがどうしてあたしのものだと?」

「だ、だって………」よお子さんはちょっと頬を赤らめる。「か、かなたさん……って、澪湖と……付き合ってる……んで、す…よね?」


 あたしは思わずむせかえってしまった。

「ちょ、ちょっと!ど、どうしてそういう……!」

 そのとき急に、背後に冷たい視線を感じて、あたしはすばやく振り返った。


 そこにいたのは、恐ろしい殺意のオーラに包まれながら、能面のようなのっぺりした顔で笑っている、音遠だった。


「へえー、かなたちゃん、ミオちゃんにチョコあげたんだあ……へえー………」

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