04
「荊、見せてやれ。お前の姿を…」
かなたはそうつぶやくと、ゆっくりと目を瞑った。澪湖は不思議そうに、急におかしな様子になったかなたの顔を覗き込む。
――しょうがねえなあ…――
その瞬間、かなたの雰囲気が変わった。すぐ目の前にいるのに、手を伸ばしても触れることができないような現実離れした存在感。まるで強い光の中にいるように輪郭がぼやけて、澪湖にはかなたの体がきらきらと輝いて見えた。
雰囲気だけでなく見た目も明らかに変わっている。さっきまで黒かった髪が、輝くような銀髪になっている。瞳は、恐ろしくも妖しい魅力に満ちた濃い紫色だ。
だが、一番変わったのは…。
「光栄に思えよ。本当の俺をみれる事を」
澪湖を見下すように、高圧的に吐き捨てる。それは、さっきまでのクールだがまじめで礼節を重んじる印象のあったかなたからは想像もできないような、乱暴で冷たい態度だった。その豹変ぶりを見た瞬間に、澪湖は目の前の人物がさっきまでのかなたとは違うということを確信した。
「あ、あんたは…?一体…どうゆう……かなたは……?」
――ショック…、ではあったようだが、入れ替わるまでではないか…――
喫茶店の椅子に手をかけ、いつでも立ち上がって逃げ出せるような姿勢になる澪湖。その体は小さく震えている。
――いや、むしろ怖がらせてしまったか。だめだな。おい、すぐに元に戻れ…――
かなたの姿をしたその人物は、澪湖の顔を左右の手のひらで包み込み、自分の顔をゆっくりと澪湖に近づけた。
「さっきの告白は、俺に言うつもりで?俺に惚れてるのか……いいぜ、お前さえ良ければ…」
――おかしなことを言うなと、さっきもいっただろう。何のために外に出してやったと思っているんだ?力づくでなければ言うことが聞けないのか、荊?――
荊は、妖しく笑う。
「こいつを気絶させればいい……わかってる…やってやるよ、そんなこと楽勝さ…」
澪湖をみつめたままの荊の瞳。その紫色の黒目がどんどん大きくなる。ついには目がすべて紫で塗りつぶされる。それはもう人間の目ではなかった。澪湖は恐怖で泣き出しそうになる。逃げ出したいのに、体が動かない。荊の口が糸を引きながら、にたぁーっと開く。
「伊美澪湖…お前はこれから…」
――やめろと言っている!――
荊の頭に、かなたの厳しい声が響く。
――誰がそんなことをしろと言った!…お前の『力』は、むやみに使っていいものじゃない、何度言えばわかるんだ!…もう帰るぞ。戻れ――
「くっ…」荊は痛みにこらえるように頭を抑える。「…わかってる。カナに逆らうつもりはないって…」
荊は、澪湖の顔から手を離す。
「そんなにビビるなよ。ジョークってやつさ………ん?」
荊が顔から手を離した途端、操り人形の糸が切れたように澪湖は喫茶店のテーブルに突っ伏した。
「…ほら、カナの望みどおり気絶してるぜ。ふっ、臆病なやつ」
かなたは、荊の頭の中でいらだたしげに舌打ちした。