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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
05章 澪湖のいないクリスマス(後編)
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08

 そして、日付は十二月二十四日。クリスマスイブになった。


 今年のイブは水曜日。昨日は祝日で休みだったけれど、今日は普通の平日だ。今週から冬休みに入っているあたしたち学生にはそんなの関係なかったけれど、父さんはそうもいかなかったみたい。本当は休みの予定だったのに、何か急な仕事が入ったとか言って、朝から出かけてしまった。


「何時に帰ってくる?何時になっても、あたし待ってるから」

 ふふ…。なんだか、恋人みたいな台詞。

 父さんは、「遅くなるかもしれないから、待ってなくていいよ」って言ってくれたけれど、あたしは今日はいつまでも待っているつもりだった。だって、やっぱり『クリスマスプレゼント』は直接渡したいから。


 この前のプレゼント交換会で、七五三木先輩がほめてくれたマフラー。実はあれって、父さん用のマフラーの失敗作…っていうか、試作品なんだ。


 あたしは、ダイニングキッチンのテーブル中央に置いたリボンを巻いた箱を見る。

 こっちのが本命。父さんへのプレゼントだ。


 七五三木先輩のやつはグレー一色だったけど、こっちは緑とグレーの縞模様。編み目もずっと綺麗だし、包装も、ちゃんと雑貨屋とか行って高級そうな箱とリボンを選んできた。『あれ』で先輩たちには喜んでもらえたんだから、こっちの本命マフラーなんて父さん泣いちゃうんじゃないか?いや、もしかして既製品と勘違いしちゃったりして……ちょっと調子に乗りすぎか、はは。


 キッチンは今、百均で買っておいた小さなツリーと、きらきらした壁にかけるひも状のオーナメントで簡単なデコレーションをしてある。玄関から続く廊下を通って、一番最初に入る部屋がここなので、父さんが帰ってきた時にはいきなりこの光景に出くわすことになる。そこで父さんが驚いている隙にすかさずプレゼントを渡して、サプライーズ!ってのが今日のあたしの計画ってわけだ。…もちろん、こんなの貧相すぎて、普通のパーティのイメージからしたら相当かけ離れていると思うけれど、これが今のあたしができる精一杯。きっと父さんなら、その辺の事情だってわかってくれると思う。


 ま、これで手作りのケーキと七面鳥でも用意してあったなら、そりゃ相当ポイント高いと思うよ。思うんだけど、下手に料理にまで手を出して、中途半端になってもいけないと思うし、完成品を買ったほうがやっぱり出来は数倍いい。だから、そこは無理はしなかった。

 一応ぎりぎりまでこのパーティーの用意してることをばらしたくなかったから、あらかじめ近くのスーパーで予約しておいたケーキとチキンを、今日父さんが出かけた後に受け取りに行ったんだ。そういうところは、ちょっと気が利いてるだろ?

 って……『ポイント』ってなんだよ、『ポイント』って。はは。相手は父さんだよ?まったく、あたし何言ってんだろ。馬っ鹿だなあ。



 腕時計を見ると、時間はもうすぐ夕方の八時だ。そろそろ帰ってきてくれたりすると、あたしのお腹の減り具合とかとちょうどいいんだけどなあ…。ま、それは仕事の都合次第か。気長に待つさ。



 はああ…。

 去年までは、パーティーも何もかも、一切やってこなかったから、今日のあたしはちょっと緊張してしまっている。

 それでも、だからといって、やめときゃよかったなんて微塵も思わないし、むしろあたしは、その緊張のドキドキを楽しむことができていた。この前の音遠の家でのパーティーの楽しい思い出が、そうさせているのかもな…。


 みんなは今頃どんなクリスマスを送っているのだろう。

 自然とあたしの頭の中に、みんなの顔が浮かんだ。


 お嬢様たちは、今頃海外だっけ?毎年長い休みがある度に、いろんな国に行ってるとか言ってたな。いいな、うらやましい。あたし海外旅行なんて一度もしたことないよ。

 音遠は今日は、家族と一緒かな?金那子さんってクリスマスとか好きそうだし、金那子さんとお父さんと音遠と弟君?他に家族いるのかは知らないけど、なんか仲良く家族水入らずでホームパーティーとかしてそうだよな。あっ、それにあの家、きっと今すごいライトアップされてるぞ。はは、完全にあたしの勝手な想像だけどさ、多分キラッキラに光ってるよ。間違いない。家の中に入っちゃったら自分らじゃ見えないのにさ、何のためにああいうことするんだろうな?今度音遠に会ったら聞いてみようかな。

 よお子さんちはあんまりよく知らないけど…、確か毎年家族でクリスマスにちょっといいレストランで外食するとかって音遠が言ってたな。…毎年って、どうせ今までレストランに行ってたのは澪湖だろう?正直、あいつに高級料理の味がわかるなんて思えないけどな。ははは。ま、今年はよお子さんが行ったんだろうから、ちょっとはましかな。


 みんなきっと、素敵なクリスマスを過ごすんだろうな。ふふふ……、去年までなら露知らず、今年のあたしは別に、そんなみんなをひがんだりはしないよ。だってうちも、家族水入らずなんだからな。



――機嫌いいな…――

 おっと、忘れていた。去年と違うことがもう一つ。今年は荊も一緒なんだ。ま、お前も四捨五入すれば家族みたいなもんだよな。

――へっ、うれしいねえ。人間様のお祭りに、畜生風情の俺まで入れてくれて――

 ふふ、お前のそういう皮肉も久しぶりだな。

――カナの機嫌がいいとな、気持ちを共有してる俺まで、つられて嫌でもうれしくなっちまうのさ――

 …荊。今年はあんまりお前の人探しの手助けしてやれなくて悪かったな。来年は、もうちょっと協力してやりたいなって思ってるよ。

――うわっ、ホントなんなのさカナ。今日のお前、優し過ぎてちょっと気持ち悪いぜ?――

 何だよそれ、あんまりじゃないか。ははは。でも、だってさ、今日のパーティーはお前も参加者の一人なんだぜ?だから少しは気を使ってやるわけだよあたしも。ま、お前に何かプレゼントをあげるってわけじゃないし、相変わらず父さんにはお前の存在は秘密なんだけどな。

――ホントうれしいねえ。ああー、こんなことなら、毎日クリスマスならいいのにさあ――

 そうか?それなら毎日パーティーでもするかい?


 ははは。つまりそういうことなんだよ。あたしわかったのさ。こういうのは、気持ちなんだよな。誰かに楽しんでほしい、幸せでいてほしい、って願っていれば、その気持ちは通じるんだよ。幸せは、待ってるんじゃなくって呼び込むものなんだよな。


――……そうか、そうなのかもな。うん、俺もそう思うよ。…ああ、今日はいい日さ。……ホントに、毎日クリスマスならなあ…――





 数時間後。

 あたしが適当にテレビなんか見て時間を潰していると、家の玄関の鍵を開けるような音が聞こえてきた。


 ガチャ。


 帰ってきた!

 もうそのときにはあたしは待ちくたびれていて、いてもたってもいられなくって、当初の計画なんか放っておいて、大急ぎで玄関に出迎えに走った。ゆっくりと開く玄関の扉。その扉に向かって、あたしは元気いっぱい声をかけた。

「メリー!クリスマ………」


 でも、家に入ってきたのは父さんではなかった。




「あなたそれ、寒くないの?せめてタイツか何かはいたら…?」

「やっだ!カナちゃんってば、ちょっと見ない間にすっごい女子女子しちゃってるじゃん!JKをエンジョイしちゃってるのかーい!?いいねー若いって!このこのー!」


 あたしたちがこの家に引っ越してから数ヶ月がたったけど、母さんと姉さんがやってきたのは、今日が初めてだった。



 そのときのあたしは、七五三木先輩からもらった、ワンピースを着ていた。

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