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あの娘は二面性ガール  作者: 紙月三角
05章 澪湖のいないクリスマス(後編)
42/152

04

「ああんっ!ん……や、やだ…」

 お嬢様のあえぎ声。

「ん…も、もうっ!なんなのよ!こ、このっ!こいつ、逃げるんじゃないわよ!」

 ではなく……、目の前のゲームに熱中するあまり、意識せずにあげてしまっているあられもない奇声だった。


 音遠の振舞ってくれたケーキを堪能したあたしたちは、次にこのパーティーの主旨でもある、プレゼント交換を行おうとした。

 もともとの計画では、持ち寄ったプレゼントをシャッフルして適当に配りなおして、誰が誰のものを貰うかわからないようにしよう、ということになっていた。だけどよく考えたら、どうやって公平にそんな風にシャッフルしようか、っていう部分を、誰も何も考えてなかったんだ。そこで、「じゃー、じゃー、ゲームで勝負して買った人から早い者勝ちで好きなの選んでくー、ってのはどーっすかー?」と提案した二十六木先輩。その方法にはあんまり公平性はなかったけれど、よく考えたらそこまでこだわる必要もない。各人が持ってきたプレゼントは、箱や包装紙に包まれていて、それぞれ何を持ってきたかわからない状況でもあったし、だったら自分で選んだっていいだろう、その方が何があたっても文句も出ないだろう、ということで、結局二十六木先輩の案が採用されたのだ。そんなわけで、現在音遠の部屋は即席のゲーム大会会場になっていた。


「あーあ、お嬢様もう瀕死じゃないですか。仕方ありませんね。ハンデとして、気が済むだけ殴っていただいていいですよ?」

 そう言って、液晶TVの中の格闘ゲームでお嬢様の操作するキャラクターを一方的にたこ殴りにしていた七五三木先輩は、自分のコントローラーを床に置いた。ただ、置く直前に抜け目なく挑発ボタンを押していたので、七五三木先輩の操っていた緑色の恐竜は画面上で人を馬鹿にするようなダンスを踊った。手元の取扱説明書とTV画面を忙しそうに交互に見ながら操作していたお嬢様は、プルプルと体を震わせて、怒りでゆがんだ顔に無理やり笑顔を作った。

「い、いいのかしらあー…?そ、そんなこと言ってえー」コントローラーが壊れるんじゃないかってくらいに力強くキーを押下して、ピンク色のお姫様のキャラクターを、緑色の恐竜の方に走らせる。そのとき既にお姫様のHPはもう残り1だったのに対して、恐竜の方はゲームが始まってからまだ一発も攻撃を食らっていなかった。「おーほっほっほ!み、見てなさいっ!このまま崖につき落としてあげますわっ!後悔してももう遅くってよ!」

 そう言って、連続してコマンドを叩きこむお嬢様。自分の恐竜が徐々に右端の崖に追いやられていくのに、何故か七五三木先輩は全然気にせずに優雅に紅茶のカップに口をつけていた。


「……そーっすそーっす、そんでー、そのボタンが必殺技っす」

「これえー?」

 左端では、ゲーム初心者の音遠に操作を教えていた二十六木先輩。二十六木先輩に教えられたとおりに音遠がボタンを押すと、ゲーム画面上の黄色いネズミのキャラクターから稲妻が発射され、一心不乱に恐竜を殴っていたお姫様の背中にもろにヒットした。

「あ、ちょっ、ちょっとっ!」HPがなくなったピンクのお姫様は、画面外へと勢いよく吹っ飛んでいく。「ほ、本前川さんっ!?今いいところだったのに、な、何するのよー!?」

「あっ、すごおい!わたし勝っちゃったのお?」

「そーっすよー。音遠が今おじょー様を倒したんすよー。さっすが飲み込みが早いっすねー音遠はー」

 自分の放った攻撃がお嬢様をノックアウトしたことを、無邪気に喜ぶ音遠。二十六木先輩もお嬢様を無視して音遠をヨイショしている。

「あ、あんなの無効よっ!反則よ!」お嬢様のほうは納得いかないみたいだ。「や、やり直しっ!やり直しを要求するわっ!」

 七五三木先輩は一度床に置いた自分のコントローラーを拾いなおすと、興奮するお嬢様を横目でちらりと見て、すぐにTV画面の方に注意を移した。そして、緑の恐竜の操作を再開しながらぼそりとつぶやく。

「……何にもしてないのに勝手に死んでるし…ふっ、弱っ」

「むきー!あんなの無し!無しよ!ダメったら、ダメなんだからー!あ、貴女たち、なに笑ってんのよ!ちょっ!?い、伊美澪湖までー!」

 ふふ、本当だ。あまりに情けないお嬢様の姿に、あたしの隣のよお子さんまでが控えめな笑みをこぼしていた。




 お嬢様たちがやっていたのは、四人同時の対戦乱闘ができる格闘ゲーム。音遠はゲームを持っていなかったので、まだ学校から帰ってきてない弟の部屋からゲーム機ごと無断で借用してきてくれたんだ。てか音遠、弟なんていたんだな。知らなかった。

 乱闘と銘打っている以上は、そのゲームで背後から奇襲されたとしても卑怯でもなんでもないし、やり直しなんてする必要はないだろう。というか、お嬢様が脱落した後の二十六木先輩と七五三木先輩の対戦を見ていてわかったんだが、お嬢様が何度やり直したところで結果は何も変わらなかったと思う。

 まるでバランス調整を失敗してしまったAI同士の対戦を見ているみたいな、人間の反応できるレベルを超えている戦いを繰り広げるメイド先輩たち。さっきまでの二人はどれだけ手加減していたのか…。画面よりも自分のコントローラーを見ることに必死な音遠はそれには全然気づかずに、さっきからマイペースに同じ必殺技を繰り返しているが、メイド先輩たちのキャラクターの動きに比べたら、黄色いネズミが放つ稲妻はほとんど止まって見えるくらいだった。


「はは。やっぱりやらなくて正解だったな、あたしたち」あたしと同じように、ゲームに参加してなくて手持ち無沙汰気味のよお子さんに笑いかける。「だってレベルが違いすぎる。こんなの、どうやったって勝てるわけないもんな」

「…………………」

 え?よ、よお子さん…え?

「……右、……あ、……今っ……あっ!……ああ…お、おしい………」

「あ、あれ?よお子さん、って…もしかして、こういうの」

 あたしの声なんかほとんど聞こえてない様子のよお子さん。真剣な表情で、ゲームの画面をにらみつけている。し、しかもよく見たら、何も持っていないエアーの両手がコントローラーの形を作っていて、しきりに見えないボタンの操作をしている…。えっ…も、もしかして、頭の中で参戦してる…?あたしの疑問に答えるように、二十六木先輩がこっちを振り向いて言った。

「かなたちん違うっすよー?かなたちんはー、このゲームやったことなくて、プレゼント選ぶのは最後でいい、余り物でいい、ってゆーことでー、見学してもらってますけどー」しゃべりながらも、先輩のすばやいコントローラーの操作が止まることはない。ゲーム画面では、大きなペンギンのようなキャラクターと緑の恐竜が、ほぼ互角の対決を展開していた。まあ、この人が人間離れしてるのは、今に始まったことじゃない。「よお子ちんはシードなんすよー。なんてったってーよお子ちんと言えばーこの界隈じゃ名の知れた………お、っと」

 一瞬の隙を突いた七五三木先輩の攻撃が、ペンギンにヒットする。

「余所見、厳禁、よ?ふふ…」

「くっそー」

 一発食らったのがよっぽど悔しかったのか、それ以降はゲームに専念する二十六木先輩。段々操作に慣れてきた音遠が、続きを教えてくれる。

「……む、…な……えいっ!…えっとおー……よお子ちゃんはあー、…ああっ、違う!もおう!……よお子ちゃんはあ、このゲームすごおい強いんだよお?……あ、あっれえ?んんー。何でえー、技がでないいー」キャラクターが思い通りに動かないのが相当苛立たしそうだ。「全国大会にもお……えいっ!…出てるくらいなんだからあ……」

 へ、へー…。ゲームやるっていうのも結構な驚きなのに、しかも全国大会出てるんだ……。い、意外な特技もってるんだな、よお子さん。

「伊美澪湖、ま、まじですの…?」

 まるで、目の前に宇宙人が現れたとでも言うような、恐ろしさと驚きが入り混じった複雑な表情のお嬢様。あたしもだいたい同じような顔になっていたと思う。あたしが今まで知ってたよお子さん像って、実は本当のよお子さんのほんの一部だったみたいだ。

「…え、……えへ………」

 ただ、照れながら笑うその顔は、相変わらずかわいいな、って思った。




「あら残念。負けてしまいましたね」

「あ、あれえ?……あ、やったあー!わたし勝っちゃったあ!」

 それから何分か後。ゲームはやっと決着を迎えたのだけれど、その結果には正直あきれてしまった。だってその最後は、それまで繰り広げられていた死闘とは余りにも雲泥の差だったから。

 熾烈なHPの削りあいを繰り広げたメイド先輩たちのペンギンと恐竜の勝負は、僅差で恐竜が勝利した。残ったのはHP1の恐竜と、それまで二人から相手にされてなかったおかげで、ほぼ無傷だった音遠のネズミのキャラクター。それだけのハンデがあっても、さっきまでの七五三木先輩の動きを見ていたら、初心者の音遠が生き残れる可能性なんてまずないと思っていたのに、その予想は裏切られた。ずいぶん間の抜けたタイミングで放たれた音遠の稲妻を、七五三木先輩の恐竜は何故かよけずに正面から受け止めて、あっけなくノックアウトされてしまったのだ。それで結局、音遠が優勝、というのだから、デキレースも甚だしいじゃないか。



「さーて!じゃーじゃー、いよいよ頂上決戦っすよー!音遠ちん対よお子ちん、因縁の対決っすよー!」

 いやいや、何の因縁だよ。

「よお子様の実力は、このゲームをする者の間ではもはや伝説級。とはいえ、初心者でありながらわたくしを倒すほどの天賦の才を持つ音遠なら、あるいは……」

 あるいは……、じゃあないよ。さっきのって、どう考えたってわざと負けたんじゃないか。今日の会場を用意してくれた音遠に対する、接待のつもりか?まったく、何言ってるんだか。

「よおーしっ!このちょおしならあ、よお子ちゃんにも勝てちゃう気がしてきたぞおっ!」

 ほら、先輩たちが余計なことするから、音遠がちょっと勘違いしてしまっているじゃないか。かわいそうに。でもまあ……、相手がよお子さんなら、問題ないか。

 彼女がどれだけこのゲーム得意なのかはしらないが、よお子さんだって日ごろから音遠には世話になっているだろうし、初心者に本気を出すような、そんな大人げないまねはしないだろう。せいぜい音遠を傷つけない程度に手を抜いて……え…?え…?

「…………よしっ……!」

 よお子さんは、いつの間にか取り出していた黒い穴あき手袋を両手にはめて、気合を入れるように、ぱしんっ、と両頬に手をあてる。

 こ、この人、めちゃくちゃやる気満々じゃないか……。

「………あ、あの…よお子さん?」

「……ちょっと……、静かに………」

 うわああ…、しまいには目を瞑って精神統一に入ってしまった…。え?なんだこれ?なんだこれ?ほんとに世界大会とかの決勝戦?


「おぉー!よお子ちんのキャラはいつものトゲトゲの大魔王っすよねー!音遠の電気ネズミの準備もいいっすかー!?でわでわー……よぉーい、ゴーォー!」



 それで、二人の勝負は始まった訳だけど……、まあ、こちらの結果は、普通に予想通りだった。


 初心者とか関係なく、一切の容赦なく連続コンボを決めたよお子さん。音遠は、手も足も出ずに瞬殺されて、まばたきでもしている間に勝負はついてしまったのだ。あまりにも綺麗に技が決まるので、負けた音遠の方もそれほど悔しくはなかったみたいだった。

「ああーあ、負っけちゃったあー」


 かくして、プレゼントの選択順は決定したというわけなんだけど……。

 なんだろう。なんか、釈然としない。

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