05
よお子を追っていたはずのかなたは、何故かいつの間にか一人別行動をしていた。
――おい、あいつのことは放っておいていいのか?――
走るかなたの動向が気になって、思わず荊は言葉をかける。
「ああ。よお子さんへのフォローは、音遠に任せておこう。音遠の方が彼女とも澪湖とも付き合いは長いし、…それにあたしはそういうの、ちょっと苦手だからな」
かなたは人気のないところまで来ると、近くにあった鍵のかかっていない部屋に入った。
「よし、ここでいいだろう…」
部屋の中に誰もいないことを確認する。
――何する気さ?――
「久しぶりにお前の『力』を借りようかと思ってな。能力は、前と変わってないよな?」
――はあー?いつもはカナの方が、『力』を使うな、とか言うくせに。どういう心境の変化?――
かなたは部屋の壁に備え付けられていた大きな鏡を見る。そこには自分自身の覚悟のこもった真剣な表情がうつっている。
「このままではいけない。よお子さんの尊厳が、傷つけられたままではな」
その表情からは、先程音遠と話していた時のふざけた気持ちは微塵も感じない。荊は思わずたじろいでしまう。
――…ふ、ふーん、一応真面目に考えてるのな。てか、あいつのことになると、カナはなんか人が変わるな…――
「放っておけないんだよ」かなたは不機嫌そうに眉間にシワを寄せる。だが、感情が繋がっている荊には、それが照れ隠しだということがすぐにわかった。「ああいう、…か弱そうな人はな」
――えらいねえ、まるでナイトじゃねえか――
同じように、荊の考えていたこともそのままかなたには筒抜けになる。
――違うよな…。カナが放っておけないのは、『本当は弱いくせに虚勢を張って強がっている奴』さ…――
「くっ…」
二人の意識の中に、同じ人物のイメージが浮かぶ。それはかなたの父、徹弥だ。
なぜだか鏡を見ていられなくて、かなたは鏡に背を向けた。そして、それを誤魔化すように声を強めた。
「お前の『力』の一つは、変身だ。姿かたちを好きなように変えられる、そうだな?」
――ああ――
「顔や体だけでなく、着ている物も自由に変えられるか?」
――まあ、実質そうなるな――
「オーケー。では変身してもらおうか。まずは交代するぞ」
そう言うと、かなたは目をつむって何も喋らなくなった。荊は、しょうがねえな…、と渋々交代の準備をする。
「…それで?」
目を開けると、その体はもう荊のものになっていた。
――よし。今お前に変身してほしいのは、よお子さんだ。『普通の狼男の仮装をしている、よお子さん』に変身してくれ――
「なんか難しそうな注文を…」
――その変身をしてステージに戻るんだ。さっきのは何かの間違いでした、って言ってな。そうすればよお子さんへの変態扱いの汚名は拭えるはずだ――
「カナがやりてえことは理解できる。けどな、わかっていると思うけど、俺にお前ら人間の『普通』ってのはよく分からないぜ。カナが求めている容姿に変身するのは、時間がかかると…」
――頼む――
荊は鏡を見る。その向こう側で、真剣な顔をしたかなたが、まだ立ってこちらを見ているような気がした。そしてそんなかなたを見てしまうと、荊にはどんな無茶なことでも逆らえなくなってしまうのだった。
「了解…」




