05
「ハロウィンパーティー…か」
昼休み、澪湖とかなたと音遠は、教室で机をくっつけあって昼食を食べていた。タコの形のウインナーや、錦糸卵やそぼろで描かれた可愛らしいテレビのキャラクターなど、高校生にしてはだいぶ子供っぽいが見ているだけで楽しい音遠の弁当に対して、教科書通りで目新しさはないが、栄養のバランスも考えられていて完成度の高いかなたの弁当。その食欲をそそる両者を、澪湖は片手に菓子パンを持ちながら、もう片方の手で断りもなくつまみ食いしていた。
「そっ。毎年オンちゃんちで仮装してパーティーしてんだー。今年はかなたも来るでしょ?だぁってー、ただでケーキとか食べられるんだよー」
もぐもぐと口にものをいれなから楽しそうに語る澪湖。はしたないから注意しようと思っているかなただが、余りにも楽しそうなその表情を壊すのが惜しくてタイミングを逃していた。
「あーあー、大丈夫。仮装の用意はオンちゃんに全部お任せしちゃえばいいから。いいよねオンちゃん?仮装用の衣装いっぱい持ってたから、かなたの分くらいあるよねー?」
明らかに不服そうな顔を作る音遠。弁当箱の中で笑うキャラクターを、箸で真っ二つにしながら言った。
「…あの衣装は全部ミオちゃんのだもん…。だ、だいたい、わたしかなたちゃんの服のサイズ知らないんだけど。多分わたしの持ってる奴じゃ、かなたちゃんに合わないんじゃないかなあー」
「あれ?そうなの?でもでも、ガキの頃から今まで、私のサイズの衣装は用意してくれてたじゃん。『何でかしらないけど、うちにちょうど今のミオちゃんにぴったりのサイズの服があるんだー』とか言ってさ」
音遠は具合悪そうにうつむいて呟く。
「ミオちゃん用の服しかないもん…。ミオちゃんのサイズの服しか、作ってないもん…」
彼女の独り言は他の二人には届かなかったが、何だか気まずい空気が流れる。かなたはミニトマトを口の中で転がしながら不穏な現状を打破する方法を探していたが、澪湖の方はそんな雰囲気には一向に気づいた様子はない。能天気にそのまま続けようとした。
「あれっ?てか、オンちゃんの部屋にいっぱいあった服ってあれ何だったの?オンちゃんち服屋?…じゃあないもんね。しかもあんな布面積少ないエロい服、普通の店じゃあ売って……えっ!?」
その時急に、三人の囲んでいた机がガタガタと揺れ、澪湖の足下から金色の物体がぬうっと現れた。予想だにしなかった事に驚き、澪湖はその時食べていたミートボールを喉につまらせてしまった。
「んぐっ…っ……!」
「よい、しょ、っと………ご機嫌よう!みなさん!」その金色の正体は、先程の残念お嬢様、千本木百梨の金髪だった。「あら、美河かなたさんもごいっしょ?それは都合がいいわ、改めて自己紹介を。…こほん、私こそは千本木零子の一人娘、千本木百梨ですわ!どうか今度からは覚えておくとよいですわよ、おーほっほっほー!」
誰もがあまりの衝撃に絶句する中、澪湖の股の間からかなたに自己紹介すると、やっと机の下から這い出してきて、澪湖の方に振り向く。
「驚いたかしら伊美澪湖!まさか私のような天上人が、自分の股下から現れるなんて思いもしなかったでしょう?!」
つまらせた肉の欠片を苦しそうに喉をおさえながら何とか飲み込んだ澪湖。呼吸を整える余裕もなく叫ぶ。
「ど、どっから出てきてくれてんのよ!何考えてんの!?ばっかじゃないの!?」
百梨は澪湖の声には耳を貸さず、両手を腰に当ててのけ反って、何故か自慢気な態度だ。
「人の上に立つべき私が、敢えて伊美澪湖のような庶民の足下から登場する。これこそが意外性!これこそギャップ、いえギャップ萌え!すなわちツンデレ!萌えるかしら?!萌え苦しんでしまうかしら?!ああ、私が魅力的であるがばっかりに苦しめてしまってごめん遊ばせ!おーほっほっほー!」
さっきの荊にもまして目を点にしているかなたは、この不可解な状況の説明を求めようと澪湖の方を見る。だが、彼女も残念お嬢様のあまりにも残念な所業を、適切に説明する言葉を持ってはいないらしい。苦笑いしながらただ力なく首を振るだけだった。かなたを不憫に思ったのか、音遠がそっと彼女の肩に手を置く。
「お嬢様の事は、深く考えない方がいいよお…」
「…勘違いされないことですわね!これは別に伊美澪湖のためにやった訳ではないんですことよ!おーほっほっほー!」
あいかわらす意味不明なことを口走り、高らかに笑う百梨。荊とかなたはもう現状把握は諦めて、同時にゆっくりとため息をついた。
「ご説明いたしましょう」
かなたがお嬢様を無視して昼食に戻ろうとしたとき、先程百梨の出てきた机の下からまた別の声が聞こえた。
もぞもぞと足下でうごめく音。まさか…、と思いながらかなたが目を下ろすとそこには、今度はかなたの股の間をくぐって外に出ようとする七五三木イクの姿があった。
「お嬢様がどうしてこうも残念なことになっているのか、美河様が疑問に思われるのももっともです。わたくしに説明させてくださいませ」
立ち上がり、エプロンドレスについたホコリを落として優雅に微笑みかけるイク。その落ち着き払ったメイド然とした態度は完璧で、自分自身も机の下から出て来るような、お嬢様と同じ残念さを持った人間の発言とは思えない。
――流行ってんの…?足下から出てくんの――
呆れきっている荊には気づくはずもなく、イクは勝手に続ける。
「かつてのお嬢様は、このような残念お嬢様ではありませんでした………」




