01
私は、恋におちた。
恋におちる。燃えるような恋。愛しくて胸が張り裂けそう…。
恋にまつわる比喩は、どれもが暴力的で破滅的だ。だからこそ私のこれは、やっぱりどうしようもなく恋なんだと思う。
なーんてね。
よーするに、似合わないポエムが炸裂しちゃうくらい私は今、猛烈に彼に夢中だったってこと。
学校の帰り道、偶然1人で歩く彼を見かけて、全速力で追っかけた私。いつもそっと遠くから見ているうちに思いが募りすぎて、今日はもうそれだけじゃ我慢できなくなってたんだ。息が上がって、全身くたくたになって、それでも私には彼のことしか見えなかった。
「あ、あの!」
顔を真っ赤にして必死の私に、にっこりと優しく微笑む彼。彼が王子様でなかったら、この世界には王子様なんていない。そう信じるには、その笑顔だけで十分。
「私、以前、あなたのことを見かけてから、ずっと…」
うん…。小さくうなずく彼。すらっとした細身のシルエットが、やさしく私を包み込む妄想に襲われる。
「ずっと、好きでした!」
言った。勇気を振り絞って、言った。彼は、色っぽく目を細めて、ゆっくりと口を開いて、私にこたえ…
「悪いね、あたしは女なんだ。でもありがとう。『こいつ』もうれしいってさ」
え?
え?ごめんなさい。今何て?いやいやいや、『こいつ』とか言いながら自分のこと指差してますけど、どゆこと?意味わかんないんですけど。てか、さっきまでと全然表情ちがうし。このタイミングで真顔?告白とか慣れっこですか?私すっごい勇気出して言ったのに、全然心動いてないみたいっすね。あの思わせぶりな笑顔はなんだったの?
てか、そうじゃなくて、そうじゃなくって………女?
私は、目の前で、ずっと憧れていた人が言った悪い冗談にパニック状態になって、頭の中が混乱して、くらくらして…。
あ、だめ。こういうときって、『あいつ』が出てきちゃうから…
「……え?あ、あれ……あ、あの…ごめんなさい…。え、えと…なんでもないです。し、失礼しました!」