03
――もう、つまらないことを考えるのは止めろよ…――
「さっきまで、随分静かだったじゃないか」
かなたは、通学路の寂れた商店街を歩きながら、独り言のように呟いた。
――過去の事なんて忘れろと言っている――
「…お前なりに気を遣ってくれているのだな。ありがとう」
――そんなんじゃねえよ。いつまでも過去の事を振り替えって落ち込んでも、良いことなんてないってことさ――
「落ち込んでいる?あたしがか?…そんなつもりはないよ」
かなたは自虐的に微笑む。
「でも、いつものこととはいえ、他人のお前にはみっともなく映るのだろうな。あたしたち親子の姿は…」
――へっ、こんなときは人間様扱いしてくれるのか?光栄なことで…――
かなたは立ち止まる。
うつむいたまま、動かなくなる。無言になる二人。
今はかなたの意識の中にしかいない荊は、意識の中でふうっ、とため息をついた。
彼は、こんなときにかなたのそばについてあげられない自分を歯がゆく思った。かなたを励まし、優しく抱き締めてあげられないことを。
「…お前に抱き締められたら、獣臭くてかなわないだろうな」
口許を緩め、呟くかなた。意識の繋がっている荊には、徐々に彼女の心にぬくもりが戻っていくのを感じることが出来た。
――…ひっでえ。今度は急に獣扱いかよ――
「獣…、むしろ化け物かな?いや…イケメンの化け物だったか」
かなたはおどけてみせた。
――お願いするからやめてくれ…。て言うかイケメンはお前のことじゃねえか。俺はカナの方が男前と思うぜ、実際――
「何だそれ…あははは…」
かなたは静かに笑った。荊もつられて少しだけ気持ちが晴れる。




