01
「…もう、起きたの?」
「うん、おはよう。カナちゃん」
寝癖のひどい髪をかきながら、美河徹弥、あたしの父さんはキッチンに顔を出した。
「今日は昼過ぎからでしょう?まだ寝てたら?」
目にはクマをつくり、大きなあくびを何度も繰り返す父さんを、あたしは見ているのがつらかった。頬がこけてやつれている顔、ボロボロでくたびれきった全身からは悲壮感すら感じる。だから父さんに言ったそれは、気遣いというよりは、あたしのわがままだ。
父さんはそれには答えずに、スクランブルエッグを作るあたしを見て落胆の表情を浮かべる。
「ごめん、また約束破っちゃったな。明日からはちゃんと僕が作るから…」
「そんな約束あたしは了解してない。これからも家事は全部あたしがやるから。父さんは気にしなくていいんだよ」
あたしはキッチンに一面に並んだ美味しそうな料理、あたしが作った二人分の朝ごはんとお弁当、を父さんに見せつける。料理なんて全然できなかったあたしが一から勉強して、何度も失敗して、でも最近やっとまともに出来るようになってきた。料理だけじゃない。家事も、その他の雑用も全部。三つ掛け持ちしているアルバイトで必死に働いて、あたしを養ってくれる父さんを少しでも楽させるために必要なことはなんだってあたしはやっている。それは、あたしの父さんへの意思表示だ。
父さんは、あたしが守る。
「結局、転校までさせてしまった。僕はカナちゃんには迷惑かけっぱなしだな。やっぱり今からでもカナちゃんはお母さんのところへ…」
「それ以上いったら怒る、っていつも言っている。あたしもう行くから。父さんはバイトの時間まで寝ててよ!」
父さんが母さんと離婚したのは二年前。原因は、父さんの浮気だった。
最近、父さんの前で笑顔になっていない。何か話すといつもケンカの一歩手前みたいになってしまうのだ。
「いってきます…」
振り返ると、閉まっていくドアの隙間から父さんが無言で、あたしに手を振っているのが見えた。




