襲い来る眠気と夢
無職歴=年齢。彼女いない歴も年齢と同じ。顔や声が良いわけでもなく、体型すらも脂肪を蓄えまくったブヨブヨボディ。
そんな俺こと笹原諒は、今日もモニターと睨めっこしていた。
スキル発動、からのコンボ、フィニッシュ!
専用コントローラを脂ぎった手で操作し、画面の向こうにいるモンスターをめった刺しにしていく。数秒後、レベルアップの合図であるファンファーレと共にモンスターが地面に伏した。そのモンスターの背に、マントを纏った長身の男性が降り立つ。
俺の分身である超絶イケメンアバター、名をレオン。アバターのみに何万もかけた結果生まれた金髪碧眼の美青年だ。
強い、イケメン、無愛想に見えて実は優しい(という設定)のギャップ! まさに勇者!
今となっては男女問わず、そこそこ強い冒険者に憧れられる日々。この課金厨が、と吐き捨てられる事あれど、忘れないでほしい。確かに俺は課金している。だからと言って腕前は変わらない。
つまり俺の実力あってこそのレオンなのだ!
まあ、その金は親からの仕送りなんだけどな。いやぁ優しい母さんでよかったよ、うん。
そんな事を思いながらひたすらコントローラを操作する。無駄に見える程ボタンやらスティックの多いそれにも数ヶ月で慣れた。この多いボタンのおかげで多様なアクションが可能となるのだ。
そういえば今回のクエスト、妙にスライムが多かったんだよな。スライムといえば最弱というイメージがあるが、俺が一番好きなモンスターでもある。
一番初めに冒険者の前に立ちはだかり、瞬殺されるモンスター。しかし俺は思うのだ。
もしスライムがチート級の強さで冒険者をフルボッコにしたら(見る分には)面白いんじゃね、と。
たかがスライムと油断している冒険者の驚く顔が目に浮かぶぜ! あ、なんか間近で見てみたくなってきた。面白そうだ。
ハイテンションになっていた俺は、唐突に強烈な眠気に襲われた。ボスを倒した所為で気が抜けたのだろうか。流石に二日ぶっ続けでクエスト制覇は無理があった。それでもクリアしただけ良しとしよう。
重たい瞼を気合で押し上げながらログアウトしようとして、そのまま意識を失うように眠りについた。
◆◇◇◇◆
ぼんやりとした意識の中、頬を撫でる風に目を覚ます。
俺がいるのは、森の中らしい。生い茂る緑を視界に入れ、未だ曖昧な思考でそう考える。
……森? なんで俺が森に⁉︎
ちょっと待て、なんか手動かない。足も。移動するにしても、歩くというか這うというか……そんな感じだ。
もしやこれはスライム? ……ああ、夢か。
夢なら好都合だ。とことん遊んでやろうじゃないか!