ブリチェスター
感覚器官の強化。言葉で言うと非常に単純だが、それは事実上不可能な事である。
感覚器官をいくら鍛えたところで、聴力がよくなるわけではないし、視力だって機能的な限界があって上昇する事はない。
出来るのは、その感覚器官を用いる神経を鍛えて、無意識に排除している情報を取得したりする程度だ。
それ故に、感覚器の強化と言うのは意識の問題だ。意識を研ぎ澄ませ、感覚器がキャッチする情報を知覚し尽す。ただそれだけで済む事だ。
そして、クロードにとって、それはさほど難しいことではなかった。
耳と皮膚感覚だけで周囲を知覚しているクロードは普段から意識を研ぎ澄ませている。
後は、そのキャッチした情報をいかに処理して周囲を把握するかの問題だ。
そして、その周囲を把握する技法は経験を積み重ねる以外に上達方法は無い。が、それは逆に言えば経験を積みさえすればいくらでも上達すると言う事だ。
普段から周囲を聴力と皮膚感覚だけで把握して生活する事を強要されるクロードにとって、日常生活こそが訓練となるのだ。
そう言った事情もあり、クロードの周囲を知覚する能力は半年足らずで最大限にまで高まり、剣の修練を積めるほどにまで至っていた。
眼が見えないと言うハンディキャップは依然として残っているが、そのハンディキャップの幾らかは改善されたと言う事だ。
そして、つい先日ようやく開始された剣の修練、要するに剣での打ち合い。
それはクロードにとってなかなか楽しい時間だった。
ケイとクロウ、その2人にかわるがわるに打ちのめされる訓練はつらいが、それ以上に強くなっている実感がある。
それがクロードの燃え滾る情熱をより一層熱く燃え上がらせるのだ。
彼には熱血素養があったらしい。
そして、今日もまたクロードとケイの剣の修練が始まる。
クロードもケイも互いに1本の木剣を手に打ち合う。
ケイはもちろん程々に手加減をし、クロードは全力で打ち込みに行く。
それでも互いの実力の差は歴然としており、まともな打ち合い、と言えるほどのものにはなって居なかった。
「(その割には、妙に手ごわいんだよな)」
クロードの真っ直ぐな剣はケイにとって容易く受けられるものだ。
しかし、受けに回るとクロードは異様に強かった。それがケイには不思議でならない。
ケイは本来剣は余り得手ではない。得意とする武器は種族特有の高い身体能力を活かせるトップヘビーの重量武器、要するに戦槌などの類だ。
それでも剣の腕前はそこらの一流どころに引けを取らないだけのものを持っている。
それで居ながら、その剣を見事に防ぎ、凌ぎ切るクロードは防御だけならば一流どころに拮抗している。
それもこれも、クロードの圧倒的なフェイントへの耐性だ。クロードにフェイントは一切通用しない。
音と空気だけで世界を感じ取って来たクロードには視覚を用いたフェイントは根本的に通らない。
気配や打ち込みの軌跡で誘導するフェイントを用いても、不思議とクロードはそれを見破ってしまい、決して惑わされない。
そのため、クロードの防御を打ち破るには圧倒的な腕力で打ち破るか、防御を上回る速度で押し込むしかない。
子供のクロードはその速度も腕力も未熟だが、成長していくに連れてそれは解消されていく。
それを思えば、防御だけならばクロードは既に一流なのだ。
「(なんでこんなに防御、そして読みがうまいんだ? わけがわからん……)」
不思議に思いつつも、ケイは剣の腕を止めない。
ケイにとっては余りにも軽すぎる木剣。軽さは速度を生み、1秒のうちに3度は打ち込まれる。
それをクロードは瞳を閉じたままで受け、1撃目を横合いに捌き、2撃目を体勢を沈める事で裂け、3撃目を後ろに飛び退りながら弾く。
空いた距離をケイは1歩踏み込む事で詰め、真上から木剣を振り下ろす。
後ろに飛び退った事で体の固まっているクロードに回避するのは困難だ。
それをクロードは後ろに飛んだ事で崩れた体勢を更に崩し、地面を転げる事で回避する。
そして、すぐさま肩を支点に体を捻って起き上がる。ウインドミルと言われるダンスの技法に似た起き方だった。
起き上がりざまに打ち込まれた剣は受け止められ、すぐさま横方向に打ち払われる。
「(崩れないんだよな……流れが。体勢はいくらでも崩れるけど、その後の繋ぎが完璧だ)」
どれだけ押し込んでも、その分だけ後ろに下がっていく。それでいながら、その下がり方が完璧。
どれだけ押し込んでも、そのまま押し込み切る事が出来ない。
それで居ながら、クロードの作る戦闘の流れは決して崩れない。次の動作に完璧につながっていく。
クロードの作る流れを、ケイが無理やり崩そうとしても、その分だけ流れが変わって対応される。
クロードの流れをどうにかしようと言うのならば、それを無理やりぶち破るような方法が必要となってしまう。
そして、本来ならば、それほど見事な流れを作るには熟練の戦闘経験が必要だ。クロードは未だ3歳と半年程度。そんな経験は無かった。
「(仮にクロードの中身が熟練の剣士だとしても、その割には攻め手が稚拙過ぎる。腕力が足らないのはいいとしても、一定の技法って言うのが見えない)」
完璧に素人の剣。それでいながら防御だけは完璧。奇妙なくらいアンバランスでちぐはぐ。
防御が完璧なだけに、攻めの稚拙さが際立って見えた。
防御の中にある綺麗なリズム。それが攻め手に入ると途端に崩れる。
それで居ながら攻めの思い切りの良さは格別。後先を全く考えないような打ち込み方をする。
しかし、後先を考えないような打ち込み方をしつつも、その後の対応は見事だった。かなり危険な踏み込み方をしても、きちんとそれに対応して受けに回る。
クロードが攻め一辺等に入れば凡百以下の剣士だが、引き際をきちんと心得ているだけに手ごわくなる。
攻めの稚拙さを度外視すれば、既にクロードは立派な剣士と言える。
「(この攻めの悪さを改善するとなるとどうしたもんか……そもそも、なんで攻めだけこんなへたくそなんだ?)」
少し試してみるか、とケイが剣を構えたままその場で足を止める。
程々に攻めて攻守をかわるがわる入れ替えさせつつ打ち合っていた今までとは違う。
「はぁはぁ……どう、しましたか? もう時間ですか?」
動きを止めたケイに疑問を抱いたのかクロードが尋ねかける。
「打ち込んできな。思いっきり。オレは反撃しない」
「はぁ……分かりました」
よくわからないままに、クロードが呼吸を整えて剣を両手で握りしめる。
そして、一気呵成に打ち込みに行く。
初手は袈裟がけの一撃。その一撃をケイは体捌きだけで回避。
クロードの小さな体は空振りの勢いで回転するが、そのまま回転のモーメントを制御し、上段からの一撃が撃ち込まれる。
それを剣で受け止めた瞬間、クロードのリズムが崩れる。
しかし攻めは継続され、剣が引かれて直後に真っ直ぐな突き。
それをケイが横合いから弾き飛ばすと、弾き飛ばされるのを予測していたのか、足首を軸に剣はそのまま振り回される。
振り回した勢いのまま繰り出された横薙ぎの一撃をケイが受け止め、鍔迫り合いへと移行する。
またリズムが崩れるか、とケイが予測する。
今までのリズムの崩れ方は、ケイが受け止める事で起きてきた。
ならば、そのリズムの崩れは、受けられる事を考えない打ち込み方をしているからこそなのかと。
しかし、リズムは崩れなかった。
クロードは鍔迫り合いの最中、力のベクトルを転化。
下方向へと流し、ケイの太ももを狙う。
その一撃をケイは半身になって回避すると、その時クロードのリズムが崩れた。
「なるほどな」
そうケイが呟いた直後、クロードが知覚したものは尋常ではない速度で襲い掛かる木剣だった。
その一撃にクロードは逆らわなかった。むしろ、逆らったら怪我をすると理解していた。
そして、ケイの繰り出した木剣によって弾き飛ばされたクロードの木剣が地面に突き立った。
「クロード、正直に言ってみろ。剣は1本じゃやりにくいか?」
「え? ええと……正直に言うと、ちょっと……」
「やっぱりな。よし、もう1本剣を持ってやってみろ」
ケイの放り投げた剣をクロードが受け取る。
打ち合いの最中で壊れる事も多い木剣は予備がいくらでもあり、唐突に2本の剣を使う事には何ら問題は無かった。
クロードは少し戸惑いつつも、受け取った2本の木剣を握り、軽く振り回す。
両手で振り回していた木剣を片手で振り回すのは少々厳しかったが、元々、練習のために軽めに作ってあるものだ。決して無理ではなかった。
「お前の攻めがへたくそなのは、手数が足りんからだ。本当なら2本剣を使うのは1本を完璧に習熟してからやるもんなんだが……お前なら問題ないだろう」
2刀流は決して1刀流と別物の技術ではない。2刀流は1刀流の延長線上にある技術だ。
そのため、本来ならば1本の剣を扱う技術を習熟したのちにこそある2刀流を突如として使わせるのは間違っているはずだった。
だが、ケイには確信があった。クロードは既に2刀流を扱う素養があると言う確信が。
「よし、行くぞ。今度はオレからも攻めていく」
「はい」
そして、一時中断された訓練が再開される。
初手は思い切りよく踏み込んで来たクロードの斬り込みだった。
両腕を交差させ、全力で2刀を振り抜く一撃。
その一撃をケイが1本の剣で受け止めると、直後にクロードが身体を翻し、2剣を同時に1方向から横薙ぎに叩き付ける。
「おいおい、いきなりうまくなりやがったな」
思い切りの良さ、勢い、リズム。何もかも先ほどとは別物だった。
ほんの2合に過ぎない打ち合いでも、そう見て取れるほどにクロードの動きは別物になっていた。
そして、一気に加速していく打ち合いは、ある種の剣舞のような動きを見せ始めていた。
クロードが勢いよく攻め込み、それにケイが対応し受けに回っていく。
さりとて、ケイが攻めに回れば、クロードは1本の剣を使っていた時を上回るほどの巧みさで凌いで見せる。
剣の初心者とは到底思えない動きを見せるクロード。
その動きの秘密を、既にケイは看破していた。
「やはり、リズムか」
そう、リズム。
クロードの奇妙なほどの読みの巧みさ、そして思い切りの良さは、全て完璧なリズムを掴む事で得られて居るのだ。
クロードはケイの刻むリズムを全て完璧に感じ取っている。
足捌きのリズム、呼吸のリズム、剣を振るうリズム。
そう言ったリズムを全て読み取り、次の行動を予測し続けているのだ。
それは眼が見えない事で培われた経験則。
人間が視界の中の情報で、経験則から僅かな未来を予測できるように。
クロードは聴覚で得たリズムと、皮膚感覚で感じている相手の挙動を重ね合わせ、経験則から相手の行動を予測し続けているのだ。
本来ならば、無数の剣戟を重ねた末で人体の稼働限界を把握し、振るえる剣線を絞ったのち、相手の行動の癖から読むもの。
それをクロードは、リズムを掴む事で可能とした。
俗に心眼などと言われるそれを、クロードは一足飛びに習得しているのである。
本来ならば剣士が何年もかけて習得するもの。あるいは習得できずに挫折する者も居るそれを。
視力が無いと言うハンディキャップを抱えながらも、剣士として大成出来るだけの才能を備えている。
むしろ、視力が無いからこそ心眼を得たのか。それとも天性の才能なのか。
いずれにしろこういった天才は稀に居る。
天性の動体視力の良さと反射神経で、本来目視して回避不能な攻撃を回避する剣士。
魔術式には音や色があると言う共感覚で一瞬で魔法を覚えてしまう魔法使い。
矢を放った時には既に矢は当たっているのだと言う並外れた未来予測で百発百中の腕を持つ弓使い。
回転運動を完璧に感じ取り、大重量の武器を小枝の如く振り回す戦士。
クロードは聴覚と皮膚感覚でリズムを感じ取り、相手の行動を完璧に読み取る事が出来る。
これは剣士の才能と言うよりは、踊りの才能だろう。ダンスを教えればすぐに習得してしまうに違いない。
しかし、どんな技術も才能も他に流用出来る。
クロードはリズムを掴み取る事で相手の行動を予測した。
ダンスならば即興で相手の行動に合わせる事が出来るだろう。
だが、剣での戦闘ならば次の行動を予測する事で有利になる。
そして、その予測がクロードの思い切りの良さを加速させる。
更に、加速した思い切りの良さが剣の柔軟さを増進する。
縦横無尽に剣を振るうその姿は、剣を手にしてから1年と経たない子供だとは到底分からないだろう。
それほどまでにクロードの剣は思い切りがよく、巧みだった。
何より、クロードの剣には無理がない。
リズムを感じ取る才能が剣の振るい方にも良い影響を与えているのだ。
ダンスならば流麗なステップを刻んだろうそれは、剣に間断ない流れるような動きを与える。
絶え間なく襲い掛かる剣は、熟練の戦士であるケイをして驚愕せしめる程に巧みな流れを持っていた。
天性の才能で描かれる剣線はいずれも流れるようなリズムを持ち、無理なく次の行動が続く。
何よりも、常に変化し続ける変幻自在の剣戟のリズムは相手に行動を決して読ませない。
もしも、クロードが長い修練を刻んだ剣士だったならば、ケイに傷も負わせることが出来たかもしれない。
しかし、クロードは所詮、今まで素振りばかりしていた少年に過ぎない。
剣を振るう事に慣れていない為に剣は不安定さを孕み、リズムに噛み合わないが故に動きは乱れ、拙さを産む。
筋力の不足は全身運動を用いてモーメントを利用した振りだけでは補い切れず、剣の鋭さはなく、剣速は遅い。
剣を振るう事と相手の動きを読む事で手一杯で、足捌きが拙く、そこを突かれれば脆くも崩れ去る。
振るわれる剣には輝きがあるが、その輝きも研磨されていない原石に過ぎない。
修練を積み続ければ、剣1本で冒険者の最上位クラスにまで上り詰める可能性までもある極大の原石だが、今はくすんで鈍い輝きを放つ原石。
なにより、クロードが挑むのは莫大な戦闘経験によって磨き上げられた至高の宝玉であるケイだ。
ケイには剣に関してさしたる才能は無い。
確かに一流クラスの剣士の腕前はあるし、それだけの才能はある。だが、所詮その程度に過ぎない。
リズムを掴む能力によって、剣士としての天才的な才能を持っているクロードとは及びもつかない。
そう、才能は無い。だが、素質がある。強い肉体と言う素質が。
誰よりも恵まれた強靭な肉体。巨竜を屠り、巨人を真っ向から殴り飛ばし、山を吹き飛ばす腕力。
彼女の肉体には、神が宿っている。それほどまでに、ケイの身体能力は凄まじい。
確かに、ケイの剣士としての強さはそれほどでもない。
だが、ケイは純粋に、生物として強いのだ。
その生物として桁外れの、いや、次元違いの強さが異常なほどに強力な戦士としての力を与える。
剣の技量で敵わないからと言ってケイには関係ない。
敵がなんでも切り裂く刃を振るうのならば、その剣を超える速度で殺す。
堅い守りを誇る剣を使うのならば、守りごと肉体を叩き潰す。
軽妙な剣技で幻惑するのならば、周辺一帯を根こそぎ吹き飛ばす。
そして、莫大な戦闘経験によって得られた戦闘の組み立て方が絶対的な優位性を持たせる。
例えクロードがケイと同等の身体能力と技量を持っていても、剣だけでの戦闘であったとしても、戦えばケイが勝つ。
戦いの歴史、肉体に叩き込んだ戦いの神髄が、ほんのわずかな勝利の可能性を力づくでもぎ取る事を許す。
「いいな、面白くなってきた。少しだけ本気を出してやる」
そして、ケイは嗤うと、自身もまたもう1本の木剣を手に執った。
ケイが最も得手とする剣は、くしくもクロードと同じ。二刀流であった。
だが、顕著に異なる部分がある。ケイの二刀流はクロードの流れるような動きとは全くの正反対だという事。
力いっぱい叩き付ける動きは力づくで相手を押し潰す強引な戦闘方法。
身体能力の高さと、恐れを知らない破滅的な戦い方が故に、その振るい方がもっとも性に合っているし、効率的なのだろう。
その武器も今は木剣だが、本来は片手剣とは思えないほどに肉厚で重量のあるアダマンティン製の巨大なマシェット。
ケイが二刀流を選択した修練を積み続けたのも、単純に手数を増やすだけでしかないのだろう。
クロードが自分のリズムを維持するために二刀流を選択したのとはまた違う。
そして、その振るい方はまさに暴力の権化。破壊の旋風だ。
力づくで振るった動きはケイの細身の体躯を振り回すが、それを常識を超えた体幹の強さと、筋力で無理やり押し戻す。
全力で振るった二刀の薙ぎ払いで腕が伸び切ったら、それを無理やり腕の筋力で引き戻し、再び全力で剣を振るう。
全力で振るった事で身体が振り回されたのならば、強靭な脚力で強引に身体を元の姿勢に戻して次の剣を振るう。
一撃一撃が全力と言えば聞こえはいいが、そんな無茶をして肉体が耐え切れるわけがない。常人ならば、こんな剣を10回も振るえば腕が使い物にならなくなる。
下手をすれば、数か月の静養と厳しいリハビリが必要なほどの大怪我を負うだろうし、最悪の場合は2度と剣が振れなくなる。
しかし、ケイは並外れて強靭な肉体でそれを可能としている。
ドラゴニュートとしての肉体の頑強さと、本人の素養がドラゴニュートの中でも飛びぬけて高いのだ。
それが分かっているからこそ、その肉体の素質の高さが許す傲慢かつ強力な剣の振るい方をするのだ。
天性の才能は無いかも知れない。だが、天与の素質がある。
あるいは、何かしらの方法で自身の肉体を強化し続けてきたのかもしれない。
いずれにせよ、ケイの持つ力は、クロードの流れるような剣舞を真正面から力づくで叩き潰す事が可能だった。
どれだけの才能があろうと、純粋な力の差の前には全くの無意味。
クロードの無理なく肉体を活用する踊るような剣舞とは違い、肉体の限界を超え続ける暴力の渦。
もしも、お互いの体の素質が同一だったならば、勝っていたのはクロードだった。
もしも、お互いの剣の技量が同一だったならば、勝っていたのはクロードだった。
もしも、お互いの戦闘経験が同一だったならば、勝っていたのはクロードだった。
だが、クロードの肉体はケイとは比べ物にならないほどに貧弱だ。
クロードの剣の技量はひたすらに打ち込み続けたケイとは比べ物にならないほど拙い。
クロードの戦闘経験は神々との戦いすらも潜り抜けたケイとは比べ物にならないほど少ない。
クロードが打ち合えたのは、ほんの4合まで。
1合目をなんとかしのぎ、2合目で体勢を崩され、3合目で左剣を吹き飛ばされ、4合目で右剣を弾き飛ばされた。
そして、最後に叩き付けられた裂帛の気合いと殺気で昏倒させられた。
だが、ケイが本気を出したのに4合打ち合えただけで彼女を知る者は誰もがクロードを絶賛しただろう。
お前は将来最高の剣士になれる。私たちが強すぎるだけだ。修練を積み続ければ神々との戦いにも参画できるだろう。
そんな称賛の声を惜しげもなくクロードに発したはずだ。
普通の剣士ならば1合目で剣を2つとも叩き落とされ、2撃目の剣で叩きのめされていた。
長年の修練を積んだ剣士でも2合か3合打ち合うのが限界。
完全に防戦一方だったとはいえ、1合目を体勢を崩さず凌いだだけでも十二分に素晴らしい事なのだ。