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転生人語  作者: 国後要
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レムリア

 クロードの眼が見えない事で紆余曲折あったが、クロードのとりなしで事は穏便に進んだ。

 以前よりもカレンとクロードは仲良しになって、らぶらぶ親子っぷりを周囲に見せつけている。


 まぁ、それもいったん落ち着いて、今はカレンがお昼の準備をして、クロードとケイは邪魔にならないように隅っこで待機……だ。


 基本的にクロードは幼児だし、ケイは生活無能者……と言うわけではないらしいが、カレンが全部やりたがるので任せているらしい。


「しかしクロード、お前マザコンだったんだな」


 ケイが唐突に失礼な事を言う。


「自分を育ててくれた親を大切に出来ない方がおかしいですよ」


 そしてクロードの全力マジレス。


 自分の事を心底から想い、大切に育ててくれた自分の親を、大切にされてきたのと同じくらい大切にする……。

 自分を愛してくれる人を同じだけ愛する。ただそれだけの事なのだ。


 世の中には人間の屑としか言いようのない親がいると言うのも悲しい現実ではあるが……。

 それでも、カレンはそんな親ではなく、クロードを一生懸命に育てあげてきた立派な母親だ。

 その母親を大切に思うのは、愛されてきた側として当然のことだとクロードは思うのだ。

 無論、大切に思う事と、好きと思う感情は別だ。感謝と好意とは別の物なのだから。

 だが、そう言った感謝を抱ける行為を当然のこととして行える人間に対して好意を抱くのはクロードにとっては半ば当然のことだった。


「と言うか、親孝行をマザコンと言うのはどうかと思います」


 孝行息子は否定的に言うと確かに少々そのようなアレでアレなマザコンだが、クロードのそれはたぶん普通に孝行息子と言う奴だろう。


「すまん、それはオレが悪かった。お前は孝行息子だよ、ほんと。……で、お前マジで3歳児か?」


「ぼくしゃんしゃい」


「わざとらしく幼児ぶるんじゃねえ」


 どう控え目に見ても先ほどのは3歳児の言動ではないだけに、ケイもやはり不審に思うだろう。

 ただ尋ねかけただけで、追求する雰囲気はなかったが。


「ところでケイさん」


「なんだ?」


「さっきから僕の周りをグルグル回ってるのは何でですか?」


 先ほどからケイはクロードの周りをグルグルと歩き回っているのだ。

 時々足を止めたり、逆方向に回ってみたりと変な行動も多い。

 顔を合わせて喋ろうとしているだけにクロードもバカみたいにグルグル回らなきゃいけない。


「逆に聞くが、なんでオレがお前の周りをグルグル回ってるってわかるんだ?」


 言われてみれば確かに変だ。

 ケイは喋っては居るが、だからと言って細かな方向が分かるわけではない。

 それに、べらべらとマシンガントークをぶっ放しているわけではないので、喋っていない間は方向がわからない。

 どんな技術を使っているのか、草原を歩いてるくせに足音が聞こえないのだし。


「なんででしょう?」


「オレが聞きてーよ。さっきから方向変えてんのに、なんできっちりとオレの方を向けるんだ?」


 落ち着きのない人格だからと言って意味も無く歩き回っていたわけではないようだ。

 クロードが目が見えていないはずなのに、しっかり目線を合わせてくる事を確かめていたらしい。


「なんとなくそこに誰か居るような気がするんです。こう、気配と言うか」


「気配ねえ。まぁ、眼を閉じてりゃ勘は冴えるし、他の感覚で物を察知するから気配察知能力は高まるが」


 気配とはいうが、別にファンタジーなそれではないのだ。

 無意識に5感で捉えた情報を処理して、誰かいるような気がする、と思うのも気配なのだから。

 まぁ、ファンタジーなこの世界ではもっと別の気配とかあるのかもしれないが。


「だからって、昨日までろくにできなかったのがいきなり出来るか?」


「僕に言われても……」


 眼帯を外してから、妙に勘が冴えるのだ。5感も鋭敏になっている気がするし、なんとなく体の調子もいい。

 ジャンプしたら空も飛べそうな気分だ。もちろんそんなことはないのだが、それくらいクロードは高揚していた。


「まぁいいけどな。もっと勘が冴えて来たら剣の稽古とかも出来るかもな」


「ほんとですか?」


「多分な。まぁ、攻撃を避けるくらい出来なきゃ無理だけどな」


「そうですよね。剣で撃ち合うくらいできなきゃ」


 そこで唐突にクロードがしゃがみ込んだ。

 なんとなく危ない気がしたのだ。


「……ケイさん、今、僕を蹴っ飛ばそうとしませんでしたか?」


「なんでわかった?」


「一瞬だけ、僕を蹴っ飛ばそうとする光景が見えたんです」


 しかも米神を的確に狙った爪先が。クリーンヒットしていたら即死しかねないくらいに勢いも乗っていたし。


「ふむ……ちょっと本気を出して蹴りを出したが、どうやら危険を察知して一時的に感覚が広がったな。オレの姿は見えたか?」


「足が見えただけです」


「何色のズボン履いてた?」


「スカートじゃないんですか?」


「ズボンだよ。触ってみな」


 言われた通りに手を差し出してみると、確かにズボンを履いている。

 先ほどクロードの見た足は、靴は履いていたが生足だったのだが。

 だから短めのスカートを履いているのかと思ったのだ。


「ふむ、見えてるわけじゃないんだな……五感で察知した情報を映像に補正してるだけか? なんでそんなこと出来るんだ?」


「いえ、僕に言われましても」


「いや、お前今まで眼で物見た事なんかないだろ? それでなんで映像に補正出来るんだ?」


 実は前世では目が見えてたんですよ、とはもちろん言えるわけがない。

 前世の記憶があるなんて言いだしたらただの電波さんだ。


「実は前世の記憶があって、前世では目が見えていたんです」


 言えるわけがないのだが、どうせ信じてくれないと思ってぶっこいてみた。

 ケイならジョークとして取ってくれることだろう。


「へぇ、そうか」


 おざなりな返事だった。スルーしたと言ってもいい。テキトーな返事には含まれている感情すらろくにない。

 物事に没頭している時や、気もそぞろな時のおざなりな返事は大抵こうだ。


「まぁ、とりあえずお前は髪を伸ばせ」


 髭はないからいいや、とも付け足す。


「え? なんでですか?」


「髪を伸ばすと勘が冴えるんだ」


 嘘か真か怪しい事をケイが言う。

 ならばケイの髪が長いのも勘が冴えるからそうしているというのか。


「疑わしげな顔してんな。マジで効果あるんだぜ? 蛮族の戦士の髪が長いのもそれが理由なんだ」


「へぇー……」


 まだ信じ切れていないと言う様子だが、クロードが一応納得する。

 蛮族の戦士とやらが誰かは知らないが、インディアンの髪が長い事は知っている。

 インディアンの戦士の髪が長いなら、効果があるんじゃないだろうか、とちょっとだけ信じたのだ。

 さすがインディアンパワー。アメリカ原住民族の文化に対する信憑性はハンパじゃない。


「お前に効果があるかはわからないが、無かったら切ればいいだけだしな。それに髪伸ばしたら似合うぜ?」


 言われたクロードが自分の髪を撫ぜる。

 あまりしっかりと揃えているわけではないので長いところと短いところが混在している。

 明るさのある金の混ざった灰色の髪、薄いアッシュゴールドの輝きは、光の当たり加減次第で銀色にも見えた。


「長くしたら女の子に見えません?」


「さあ、どうだろうな。まぁ、子どもはそう言うものだから諦めろ」


 性差なんてあってないような年頃だ。髪を長く伸ばせば女の子に間違われるのも仕方ない。

 ちょっと憂鬱な溜息をクロードが吐き、ケイがニヤニヤと笑みを浮かべる。


 いくらクロードの勘が冴えていても、表情までは分からないので何の遠慮も無く笑っている。


 なんで笑っているのかと言えば、ケイにはクロードの容姿がよく見えているからだ。


 先ほどから開いている奇妙なくらいに透き通った蒼い瞳。吸い込まれそうな、惹き込まれそうな、そんな不可思議な魅力がある。

 幼子特有の透明感のある肌や、柔らかいアッシュゴールドの髪。すっと通った鼻梁は幼子にしては驚くほどに整っている。

 貴族的と言うか典雅な雰囲気のある面立ちは、なんとなくクロードの生まれを思わせる。


 そう言ったものが揃っているるだけだと紅顔の美少年で終わるのだが、長い髪が合わさると途端に令嬢に変わるから人の目や感性は不思議なものだ。

 まぁ、髪が長い男は少ないので、髪が長い=女の子となるからなのだろう。


 なんでそんなことをしようとしているかと言えば、いつかクロードがそれに気づいた時の狂態を見て楽しむつもりなのである。

 こいつ、なかなか人が悪い。しかも理由をつけて髪を切れないようにしている。更に人が悪い。


「しかし、きれいな目だな」


 ケイが呟くように言う。


「そうなんですか?」


 クロードには聞こえていたようだ。視覚を閉ざしていたのでクロードは耳がいい。


「ああ、きれいな眼だ」


 ケイはその輝きは邪眼が放つ輝きだと言う事を知っている。

 邪眼は視線だけで魔法をかける事が出来る強力な能力だ。魔眼ともいう。


 もしもケイが邪眼の作り方までも知っていたのならば、クロードは今こうなって居なかっただろう。

 最も楽な邪眼の作り方は、視覚と言う眼球としての機能を失わせる方法だ。

 機能を失った眼球はなぜか新たな機能を与えやすい。だから機能を失った眼球に魔法を付与する事で邪眼にするのだ。


 そして、眼球の機能を失わせる方法は、幼児期に視覚を閉ざすと言うものだ。

 視覚が発達しきっていない幼児期にそうした処置を施すと、簡単に視力が落ちてしまう。

 ろくに育っていない視覚を閉ざし、その機能を完璧に退化させ切ってしまう。そう言う方法だ。


 つまり、クロードが眼帯で眼を閉ざしていたものはそれに当たる。

 明暗を感知する機能は残っていたようだが、それ以外の全てが失われてしまっている。

 つまり、クロードの瞳は現時点で邪眼の素養を備えている。


「やっぱ魔法使いかね。いや、視線だけで魔法だからここはやっぱ斬って唱える戦士にするべきか」


 歌って踊れるアイドル的な論調でケイがぶつくさと呟く。

 邪眼を持っているなら魔法使いになるべきだが、魔法は邪眼だけに絞って、剣術の補助として邪眼を使うと言う手が……などなど、ケイの育成方針に悩む。

 偶然から得てしまった邪眼の素養のある眼。両目ともにそうなっているのはハンデだが、今までに無かった事だけに色々と出来て面白そうだ。


「うーむ……色々と出来るだけにどうするか悩むな」


 すっかり師匠気分のケイである。

 まぁ、クロードも乗り気なので何の問題も無いのだが。


「まぁ、それはぼちぼち考えるか。そうだ、お前にやった剣あるだろ? あれに名前つけとけよ」


「名前? 何でですか?」


「理由はないけどなんとなく」


 なんとなく、でケイが変な事をやらせようとするのはいつもの事だった。

 仕方なくクロードは背負わせてもらっていた剣を手に取ると、ちょっと考えてから言う。


「よし、この剣の名前はトロンベ」


 まさかの謎の食通降臨である。

 ちなみにクロードには分からないが、クロードの持っている剣は真っ白な剣だったりするので、謎の食通に肖った名前だとするとちょっと変だったりする。


「トロンベ……どういう意味かは知らんが、いい響きじゃないか」


「これで2本あったらエムロードとサフィールと名付けたんですけどね。あるいはトロンベとダイゼンガーかな……」


 銀河美少年なんだか、武神装攻なんだかハッキリしないが、ロボットであることは共通している。

 コイツはロボットになりたいのだろうか。


「そっちも中々いい名前だな。よし、もう1本持って来よう」


 クロードがおふざけで言った事をケイが大真面目に捉えてしまった。


「いえ、いいですって! 1本でいいです!」


 1本でさえ高価な代物を、更にもう1本なんてもらえない。

 一体どうやって恩を返せばいいと言うのか。クロードは慌てて遠慮する。


「あ、そっか。それがトロンベだから、エムロードとサフィールってつけるならあと2本居るよな。ダイゼンガーとか言うのもつけるならもう1本……あと3本適当なの持ってくるわ」


「要らないです要らないです要らないです!」


 いつの間にか数が3倍に増えている。4刀流でもしろと言うのだろうか。

 両手で持ったらあと2本はどこで持てと言うのか。猿じゃあるまいし、足でつかむわけにもいくまい。


「遠慮すんなって。どうせ使い古しだしさ」


「ケイさん一体どんだけ剣持ってるんですか!?」


「数えきれないくらい」


 一体ケイの家はどんなことになってるのか気になってしょうがないクロードだった。

 武器庫も真っ青なくらいに沢山の武器があるんだろうか。むしろ武器庫に住んでると言える状況かもしれない。


「それに、お前の使ってる剣はオレには使いにくいんだよ。貧乏性だから取っておいてあるが、倉庫で腐らせとくよりゃいいだろ?」


 ごもっともな意見ではあるのだが、受け取る側の心情を何も考えて居ないのはどうなのだろうか。


 まぁ、ケイには何を言っても無駄だろう……とクロードが半ばあきらめを感じた時、カレンが準備が出来たと2人を呼んだ。


「よし、じゃあ行くか」


「あ、はい」


 これからまた始まる穏やかな日常。それを感じさせるように、2人は緩やかに笑顔のカレンの下へと向かうのだった。

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