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プロローグ





 生原はいばらの母親から『娘が帰ってきていない』という連絡を受けたのは、今から数十分前、午後九時を過ぎた頃の事だった。

 六月中旬の夜。そろそろ梅雨入りする地域もあるでしょう、というお天気お姉さんの言葉通り、つい先程まで雨が降っていたせいか、いつもより外の空気は冷たい。

 家を出て、のんびりと自転車を二十分ほど漕ぐと、俺や生原が通っている高校に着く。

 学校銘板が取り付けられている門柱が両脇にあるだけで、誰でも不法侵入し放題の校門を、自転車に乗ったまま通過する。

 左には校舎。右にはグラウンドがあり、当然ながらどちらもひっそりとしている。夜の学校といえば怪談話が最初に浮かぶが、意外とそんな雰囲気もなく、ただの夜の学校という感じだった。校舎内に入れば少しは雰囲気が出るのだろうか。今日はそんな予定はないからどうでもいいのだが。

 他の高校と比べると小さいと言われるが、それでも一応学校棟は二棟ある。校舎の横に回り、両棟の屋上を見上げるが、生原の姿はここからは見えなかった。

 ここにいなければ他に思い当たる場所は無い。その場合は大人しく家に帰ろうと思いながら、校舎裏にある非常階段へ向かう。流石に昇降口の鍵は空いていないだろうし、校舎内を通らずに屋上へ行くには非常階段しかない。生原が空を飛べるなら話は別だが、あいつが出来るのは落ちる事だけだ。

 校舎裏に回ると、若干錆びてきている非常階段と一緒に見覚えのある自転車が視界に入った。徒歩通学だから乗っているところを見たことは無いが、高校入学前に買ったと言っていたから、まだ二、三カ月しか経っていない綺麗な自転車。中学時代から乗っているものをそのまま引き継いだ俺のママチャリと比べると尚更だ。

 その隣に自転車を止めてから、非常階段をゆっくりと上がる。

 なるべく足音を立てないように気を付けるが、アサシンでも忍者でもない俺に完璧に音を殺すなんてのは不可能な事で、一段上がるごとにカンと小さな音が響いた。

 途中から音を殺すのも面倒になり、いつもと同じように歩いて屋上に着くと、そこには生原命みことの姿があった。

 屋上の緑色のフェンスは、身長百七十センチの俺より遥かに高い。二メートル五十センチくらいはあるだろうか。だが、頑張れば登れない事もない。つまり、フェンスの向こうにいる生原は頑張ったのだろう。

 俺がいる事に気付いていない筈はないのだが、生原はこちらに背中を向けたまま、うなじが見えるくらい短い茶髪を風に靡かせている。服装は昼間見た時と同様、学校の制服であるブラウスにスカート。ブラウスの上からは、おそらく学校指定の物ではない赤茶色のカーディガンを着ている。

 強い風が吹いた。それと同時に、生原が髪を押さえながら振り返る。

 何か言いたげに小さく開かれた口。目の前の景色が見えているかも怪しく思える、生気が感じられない暗い瞳。

 そんな姿が、数か月前の記憶と重なる。

 あの日も生原は、そこに立っていた。








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