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第2話 ~通夜~

この物語は、私の知人である、ひがし晃平こうへいが経験した日常を、私という媒体を通して描いたものです。


 東はその人生を44年で閉じてしまいました。東は小学校の教師でした。昨晩、通夜があり私もそれに出席すると、親戚の方々や東の友人、勤務先の関係者の方など、生前東がお世話になったと思われる方々が多く集まっておられました。集まった方の人数から、東の人徳が優れていたことを容易に想像できます。私と東は、同じ釜の飯を食った仲とでもいうのでしょうか、気の置けない無二の親友で、大学のバスケットボール部で出会い、ともに青春の汗を流した仲でした。同じ部屋を二人で借り、下宿をしながら生活していました。当時は、私が貧乏で、東は少しリッチな学生だったので、同じ部屋に下宿をすることになったのは、東の財力に私がおんぶしてもらったということになるのかもしれません。

 私は焼香を済ませると、東のお袋さんに通夜の会場である「香益社」の和室に通されました。お袋さんとは大学を卒業してから久しくお会いしていなかったので、親父くさくなった私によく気がついてくださったと思うばかりでした。お袋さんは涙一つ見せずに、通夜に集まった方々へ一言二言お礼を言いながら接待をこなしておられました。昔から気丈な方でしたが、私にするとその姿が悲しみを増幅させているように思え、すごく印象的で心がつまる思いでいっぱいでした。

 私は和室の中央に置かれた長方形をした座卓の端に腰をすえ、何気なくそこに集まる方々の顔を見渡していました。座卓の中央あたりに、喪服姿の女性の姿がありました。その女性は、その額が座卓につくのではないかと思うほどうな垂れながら、今にも崩れ落ちそうに、大粒の涙を出しておられました。その悲しみを全身で表現し、まさに今が地獄の何者でもないと無言で語っているようでした。

「あの人・・・奥さんだったかな」と不確かな思いが走りました。私がそう思ったのは、その方の悲しむ姿がその夜に集まった方とは一線を画していたからで、節度のない言い方をすると、あまりに直接的で大げさな感情表現が、通夜の主旨にそぐわないそれであったと思ったからです。

 知らない間に、私はその女性にある種の興味を覚えました、好奇心とでも言えばいいのでしょうか。その女性が、私の好みだったわけではありません。特別に美しい顔立ちをしている方でもありません。それなのに、なぜだか彼女に好奇心という感情を持たずには入られなかったのです。「あのひとと東はどんな関係だったんだ、ひょっとして・・・」と通夜に来ている自分の立場を一瞬忘れ不謹慎な思いを抱いてしまうほどでした。その方との出会いは、不思議な縁で繋がっていたのかもしれません。

 

 私はこう思うのです。人との出会いや、巡り会わせというものは、生まれる前から決まっているのではないかと、そんな風に考えてしまうときがあります。

 

 この方との出会いが、一教師東と優実ゆみとの物語を私に教えてくれることとなるのです。


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