表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
将門炎舞記 中巻  作者: 浮島太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/46

第二章 弓馬の道 【4.荒星】

【4.荒星】(あらぼし)


夕暮れの馬場には、昼の熱気がまだ残っていた。

荒馬は、互いの息遣いが触れ合う距離に立つことを、拒まなくなっていた。

国豊は、馬の首筋に手を置いた。

荒れた毛並みの下には、坂東の風をそのまま閉じ込めたような熱があった。

(おまえと私は、今日、初めて同じ地平を見たのだな)

その思いが胸に満ちたとき、国豊はふと、かつて将門から聞いた言葉を思い出した。

――名とは、魂を呼ぶものだ。

国豊は馬の顔を見つめ、静かに口を開いた。

「……其方に名を、与えよう」

馬は耳を動かし、国豊の声に応えるように鼻を鳴らした。


「――荒星あらぼし

国豊は、この地に来てから感じ続けていた荒々しい風、湿った土の匂い、そして坂東の空の広さを思い浮かべた。

「荒ぶる星。坂東の空を駆ける、おまえにふさわしい」

その名を口にした瞬間、馬がわずかに首を振った。

それは、この地で初めて交わされた小さな誓いのようであった。


「名を与えたか」

少し離れた場所で見ていた兼遠が、ゆっくりと歩み寄ってきた。

国豊は驚いて振り返った。

兼遠は、荒星のたてがみを一度だけ撫で、低く言った。

「……名を与えるのは、生きる覚悟を示すことだ」

「名を呼べ。 

呼べば、馬は応える。それが坂東の馬と人の絆だ」


「荒星」(あらぼし)

国豊は馬の首に手を置き、夕暮れの空に向かって静かに呼んだ。

馬は、まるでその名を確かめるように、一度だけ高く嘶いた。

嘶きは、坂東の空に吸い込まれ、国豊の胸に深く刻まれた。

(この地で生きる。この馬と共に)

その決意が、初めて確かな形を持った瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ