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将門炎舞記 中巻  作者: 浮島太郎


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第一章 坂東下向 【5.闇路のほとり】

【5.闇路のほとり】


常陸国府

中門前に浮島の郎党が駆け込んできた。

「国豊さま! 信太と行方の郡境で盗賊が荷を奪い、行方の郡司が追っております!」

国豊は即座に命じた。

「我が馬を引け。我が手勢を連れて行く。小掾殿は、国府の兵を五名集めて我に続け。」

季道は震える声で言った。

「大掾殿……お気をつけください……行方郡司は、維幾さまのお身内です……」

国豊は微笑んだ。

「郡司にも伝えよ、我らが合流すると。心配するな。私は、ただ民を守るだけだ。」

国豊は、都から伴ってきた美しい芦毛の馬に跨り、乾いた荒野の中へ駆け出した。


馬は下野国しもつけのくにとの国境まで疾走した。

盗賊たちは、国境付近の雑木林の手前で足止めされていた。

賊の影が木々の間を走るのが見えた。

(郡司は、まだ到着しておらぬか・・・)

国豊は即座に判断した。

「我らで捕縛する。殺すな。」

「二手に分かれる。我が郎党は右から回り込み、国衙兵は左から弓を射よ。私は中央から進む。」

盗賊が矢を放つ。

国豊は馬上で身をひねり、矢を一本だけ放った。

放たれた矢は、盗賊の腕を正確に射抜いた。

国衙兵が次々と矢を放ち、残党を追い詰めていく。

「動くな。」

その声は静かだったが、盗賊たちは次々と武器を捨て投降した。


全員を捕縛し終えた頃、行方なめかたの郡司・壬生成宗みぶなりむねは、ようやく現場に到着した。

「・・・これは大掾殿!」

成宗は、肥え太った体を揺らしながら馬を寄せてきた。

「壬生殿、すでに賊は捕らえましたぞ。」

「素晴らしいお手並みですな。さすがは都育ちの貴公子じゃ。」

目は細く、笑っているのか睨んでいるのか分からない。


「・・・では、あとの始末は、我らが引き受けることと致しましょう。」

成宗は「やれ」と低く発した。

成宗の手勢が、縛られた盗賊の集団に、一斉に矢を射かけた。

「なにをする!」

突然の出来事に、国豊はうろたえて叫んだ。

盗賊は全員が、その場で絶命した。

成宗は鼻で笑った。

「はて?」

成宗は、わざとらしく首を傾げた。

「国府は賊の殲滅をお望みかと存じますが・・・。

常陸介殿は、“狼藉者は生かして帰すな”との、実に厳しいお考えですぞ。」

その声音には、“お前ごときの指図など受けぬ”

という棘のような含意があった。

国豊は眉一つ動かさない。

「賊など、どこにでもおりましょう。」

まったく気にかける様子もない。


成宗は、細い目をさらに細め、

一拍置いて、声を低くする。

「常陸介殿のお許しなく倉を開けるなど、些か行き過ぎではござらぬか。」

国豊は一歩も退かず、むしろ言葉に鋼を帯びさせた。

「倉は国の富。大掾として確認するのは当然だ。かみは、不正を許さぬ。」

これを聞いた成宗の細い目の奥に、暗い炎が灯った。



その日、完全に日が沈んだ頃、維幾と為憲の二人は、国府の主屋最奥の塗籠ぬりごめの重い扉を開いて引きこもっていた。

夜の国衙は、朝の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

御簾の向こうに灯されたわずかな油火が、維幾と為憲、二人の影をゆらゆらと歪めていた。

沈黙を、為憲が破った。

「父上、大掾の振舞いには、目に余るものがありますな・・・」

維幾はその言葉の続きを促すように扇をゆっくりと動かした

「国府の官人どもの歓心を買い、まるで“新たな主”でも得たかのように、大掾殿に靡く者もあります。」

為憲は、御簾の向こうの闇を睨むように言った。

維幾は眉をひそめた。

扇を止め、低く呟いた。

「……倉の封印を改めたのも、賊を討ったのも、すべて“国を正すため”とか。」

為憲は低く言った。

「はい。大掾は、己の言葉と振舞いを“正義”で飾り立てております。このままでは……我らの地歩が揺らぎます。」

為憲の声には、焦りと、脅かされた者の恐怖が滲んでいた。


「官人どもが、あやつに靡くのは、我らを甘く見ているのであろう。誰が主であるか――我らが威を知らしめねばなるまい。」

御簾の奥の空気が、ゆっくりと濁っていく。


決意が宿っていた。

維幾はしばし沈黙した

その沈黙は、冷たい静寂を破るように、

「父上……行方の壬生殿も、信太の国豊の存在を懸念されております。」

維幾は扇を閉じ、冷たい声で言った。

「……信太の国豊。あやつは、確かに危険だ。」


国豊は、維幾一門から “敵” と認識され始めた。

常陸を巡る空気が、ゆっくりと動き始めていた。



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